ランニング障害 : アキレス腱炎

2011年06月03日 | 治療の話
「アキレス腱が痛い」とご来院されたAさん。

Aさんは、仕事の昼休みに走りに行ってしまうほど、

走るのが三度の飯より大好きです。

それが、「足が痛くて走れない」

というのは由々しき事態。


私「どうすると痛みますか?」

Aさん「こんな風に、強く踏み切ると…」

目の前で痛めた脚で踏み切り、診察台にとびのるAさん。

Aさん「かかとの上が痛みます。」

とおっしゃる。


触ってみると、踵の骨にアキレス腱が付くあたりに痛みがあるようです。

でも、腫れたり熱を持ったりはしていない様子。

しかも、若干痛いながらも飛び跳ねることは難なくできているようす。


内心『これはレアなキズはないかもしれないな』とホッと胸をなでおろした私。


レアなキズでなければなんなのか?

調べるためにちょっとした検査を加えます。

痛む側の反対の肘を曲げリラックスさせた状態で、

先ほどの「痛む動作」に再度トライ。


Aさん「あ、さっきより痛くないかも…」


どうやら足首の緊張は腕の緊張からも影響を受けているようです。

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「脚の痛みなのに手に原因が」

というと、突飛な話に聞こえますが

それには理由があるんです。

骨盤を支えるチームとして働く筋肉の集まりとして

「アウターユニット」と呼ばれる筋肉たちがあります。


↑これが骨盤です


↑後面のアウターユニットです
 図版引用:Karageanes Principles of Manual Sports Medicine LWW



文献ではその筋肉たちは、仙腸関節を包むように

腕の付け根やアバラのカゴ(胸郭)から、膝までを繋いでいるとあります。

これらが歩いたり走ったりする際に働いて、

仙腸関節が壊れないように守っているんです。

で、ここから先は私見ですが、

これらアウターユニットと呼ばれる筋肉群は、

手脚の指先まで続いていると考えています。

ゆえに、手の緊張が足先の緊張とリンクしてしまうことも

あると考えるわけです。

先のAさんに見られた反応も、実際に治療の現場では良く見る現象です。

また、患部から離れた箇所の原因を見落とすと

なかなかスッキリ治ってくれないことがおおいのです。

スッキリ治らなければ来院回数が増えるので、

経営上は良いのですが、仕事的には面白くない。

なので、極力見落としのないよう

全体に注意を払って治療するように努めています。

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更に調べてゆくと、やはり仙骨の動きもおかしいようです。

仙骨は骨盤を構成する骨です。

骨盤は歩いたり走ったりするときに、捩れるように動きます。

その中心にあるのが仙骨です。

骨盤の捩れ運動が左右均等でないと足の運びも崩れ、

それが繰り返されると、時に故障につながったりもするのです。


また、仙骨は硬膜(こうまく)という脳や脊髄(せきずい)を包む膜で

頭蓋骨とつながっています。

腕の筋肉(筋膜といったほうが正確でしょうが…)は首や頭にも

伸びてゆきますから、それらの緊張は頭蓋骨の継ぎ目※にも影響が及びます。

※頭蓋骨は一個の骨ではなく、立体的なパズルのように多くの骨のピースが

組み合わさった構造をしています。



上肢の緊張が頭蓋骨へ伝わり、そこから硬膜伝いに

仙骨の動きの悪さにつながっている可能性も考えられます。



これについてはどう確認をしたものか…

答えは簡単、頭蓋骨の関節の強張りを可能な範囲で取り去って

仙骨の動きの変化を診ればいいんですね。


脚が痛いと相談したのに頭を鷲づかみにされ

いぶかしげなAさんでしたが、

私「では、また跳んでみましょうか。」

と確認すると

Aさん「あ、これが一番痛くない!」


こういった反応を見るとき、

「人体って本当に面白い」

って、嬉しくなっちゃいます。


これだからこの仕事は止められない。




これらの反応をまとめると、

Aさんの脚は、仙腸関節を挟んで腕から脚までを繋ぐ

筋膜の緊張のバランスが崩れたこと(高い緊張状態でバランスしているともいえます)と、

腕の緊張が頭蓋骨の関節を歪め、硬膜伝いに仙骨の動きを縛り

骨盤全体の捩れ運動に偏りを生み出し、

アキレス腱への負担が増したことで故障した。

と、そんな風に考えることができそうです。


治療後、胸郭から骨盤、脚の関節を

正しくリンクさせるための体操を練習し

この日の治療は一先ず終了とさせていただきました。


全ての疾患にとって言えることですが、

スポーツ障害においては特に「痛みが治まればOK」とは言えません。

競技に復帰しても容易に再発することが無くなって、

初めて「治癒」したといえると考えています。

なのでAさんには油断せずに、

もうしばらく治療にお付き合いいただきたいと思います。



ともあれ、この日の治療は

Aさんの今後の変化が楽しみになる治療となりました。









う~ん、これ以上は長いな…

でも、もう少し書いちゃいます。

すんません。




Aさんの踵の痛みは、いわゆるオーバーユースシンドローム:使いすぎ症候群です。

ランナーで、走ることで発症していますので「ランニング障害」ともいえますね。

※「ランニング障害」とは、走ることで生じる下半身の

 あらゆる関節の故障全般を指した病名です。



今までいただいた「ランニング障害」のご相談から、

傷めた場所の違いはあれど、その多くは

フォームの崩れに端を発しているように思います。

この場合(に限らず)治療では、痛みの原因に対する治療のほかに

フォームの修正も避けて通れないことが多くあります。

これには、ただしいフォームを意識して練習するのも良いのですが、

フォームの崩れが身体の不具合から来ている場合は

「意識」でどうにもならないことも多いようです。


そんなときにはコンディショニングがオススメです。

故障からの回復が目的の場合、

「正しい体の使い方」を身体に刷り込むことに注力します。


それらは、

関節や靭帯を傷つけない、

関節に優しく力を伝えやすい、

正しい動きを無意識にできるように

プログラムされたエクササイズを通じて行います。


「正しい身体の使い方」

これができれば再発の危険性をグッと減らすことができるでしょう。


ランニング障害の「リハビリ」にと取り組んでこられて、

競技成績が故障前より向上した方も多くいらっしゃいます。


ランニング障害にお困りの方があれば、

どうぞお気軽にご相談ください。

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