予防接種の影響で生じた肩峰下インピンジメント症候群

2019年08月10日 | 治療の話

今日は肩の故障の臨床報告です。

臨床報告といっても一般の方にお読みいただけるよう専門用語は極力使わず

挿絵も多めに書いておりますのでご一読いただけましたら幸いです。

 

先日、ちょっと興味深い症例に出会いました。

一見、ごくごくありふれた肩の故障。

いや、一見しなくともありふれた肩の故障なのですが、

その発症の切っ掛けがちょっと興味深かったんです。

主人公はシャツの脱ぎ着で左肩が痛むとご来院のAさん(60代女性)。

ことの発端は昨年の冬。

左の肩にインフルエンザの予防注射を受けてから、シャツの脱ぎ着で肩がギクギクと痛むようになったとのこと。

初めのうちは「注射を受けてから」という患者さんの言葉はあまり気に留めていませんでした。

でも、Aさんのお身体を調べるうちに『確かにそうかもしれない』と宗旨替えすることになったんです。

Aさんの肩の所見を並べると以下の通り。

・ペインフルアークサイン陽性

Aさんの肩は腕を90度~100度開くと肩の側面に痛みが走ります。

その角度を過ぎると何とか170度(本来、故障がなければ180度は開きます)ほど挙げることができます。

これをペインフルアークサイン(有痛弧徴候)といい、肩峰下インピンジメント症候群では特徴的な所見となります。

さらに調べると、以下の所見が取れました。

・二の腕を90度開いた角度での内ねじりの動き(第二内旋)が狭い=棘下筋/小円筋の短縮

これも肩峰下インピンジメント症候群ではよく見る所見です。

以下の所見もスタンダードな異常所見です。

・肩甲骨を固定して腕を開くと痛みを強く訴える(インピンジテスト=棘上筋の腱(腱板)にダメージを負っていることが分かる)

↓・上腕骨の頭は肩甲骨の関節窩に対して前方へずれている(棘下筋/小円筋の短縮と肩甲下筋の延長や弛緩を示唆)

↓・ 上腕骨の頭は肩甲骨の関節窩に対して上方へずれている(三角筋の短縮 / 肩関節上面の靭帯の拘縮~烏口肩峰靭帯・関節上靭帯~を示唆)

〇通常の肩関節

〇異常所見

・左肩(故障側)は「なで肩」に見える=三角筋の短縮

上の3つの絵からわかることは「三角筋の短縮」これがあるということです。

 

でも、ここまでは肩峰下インピンジメント症候群ではごく一般的な所見です。

Aさんのケースでいえば、関節上面の拘縮ができていたあたり、腱板や靭帯の損傷が徐々に深まっていることが分かります。

障害の深さは中の上です。

ここまでの所見でAさんの肩の痛みは主に三角筋の短縮が犯人であると考えました。

三角筋の短縮は腕を横から開く「外転動作」で肩関節に引っ掛かりを生み出します。

まとめれば、Aさんの肩の痛みは、

何らかの理由で縮んだ三角筋が上腕骨を引き上げ、

肩峰(肩甲骨と上腕骨の関節部の天井)の下で棘上筋腱を挟み込むことで傷つけ

傷ついた棘上筋腱に痛みを生じているという判断になります。

これを腱板損傷といいます。

 

これにプラスアルファの所見が「予防接種」との関係を明確にいしてくれました。

その所見とは、三角筋の上腕への付着部、三角筋粗面の少し上の瘢痕組織の存在です。

瘢痕組織は上の絵の赤い三角より少し上にありました。

ちょうど予防接種で筋肉注射をする部位です。

これには三角筋を触察しながら上腕骨を内外に動かし、

三角筋の長さと三角筋筋膜のすべり具合(滑動性)を調べていた時に気が付きました。

いつもの瘢痕の場所としてはあまり見ない場所だったので『あれ?』っとなったんです。

そして、冒頭の「インフルエンザの予防接種」の話を思い出したわけです。

Aさんの肩は腱や靭帯の損傷、瘢痕ができていた割に治療によく反応し、可動域もほぼ正常まで引き出すことができました。

でも、瘢痕化した組織や拘縮した組織の形状記憶性は強いですから、状態を安定させるにはセルフケアも大切です。

Aさんには下の動画の手法を2~3日に1度は行っていただくようお伝えして初回の治療を終了しました。

リフターズケア:ベンチプレスの肩の痛み~腱板炎・二頭筋長頭腱炎後の拘縮の解除とアスリートリハビリ~// 徒手医療協会

しかし、まさかインフルエンザの予防接種と肩関節の故障がリンクするとは…

もう20年近く治療を生業としていますが、こうした発見や気付きがいつまでも現れる。

これだから臨床はやめられません。

こうした発見が続いている限り、楽しくお仕事がつづけられそうです。

以上、臨床報告でした。


おすすめ動画