空き地を広く写してみました。 人間が樹海で迷ってしまうように、 小さな猫ならこの草の中から出ることはできないでしょう。だから「猫の樹海」。 手前の草はアメリカセンダングサ、中ごろのはセイタカアワダチソウです。
今から5年前の8月の終わり、5匹の子猫が我が家に持ち込まれました。まだ目も開いていない、手のひらにのるほどの小さな小さな猫です。下の娘の先輩が市役所にお勤めで、不要猫として処分されようとした猫を何とか救いたいと娘に泣きついてきたのです。 娘は大学に連れて帰って飼い主を見つけようとしていました。 動物病院で猫用ミルクを買い、スポイトで猫たちに飲ませて、連れて帰りました。
5匹の中で最もからだが小さく、兄弟たちに踏まれて鳴くこともできないほど弱っていた猫だけは、わたしが置いていくように言いました。 もう助からないだろうと思ったのです。 ところが、数時間放置していても子猫は生きていました。
「この子は生きたがっている。」
わたしは、糞尿で汚れた体を布で拭き、スポイトで無理矢理ミルクを流し込みました。真夏でしたが、発泡スチロールの箱に入れ保温しました。
翌朝、この猫を連れて動物病院に行き、ミルクの飲ませ方を教えてもらいました。 ミルクを飲ませる前には、ティッシュでおしりを拭いておしっことうんちをさせます。 母猫はこうやって子猫の世話をするのです。 でも・・・・
2,3時間おきに飲ませないと! そんなことできないよ。
でも、まだ大学の授業が始まってなかった長女のぶじこがその役目を引き受けてくれました。
名前は、フランス語で5を意味する「さんく」にしました。ごろうでもよかったのですが、ちょうどそのころアイドルの稲○吾郎君がトラブルを起こしていたので・・・
これがさんくですよ。 めったにないことですが、畳の上でくつろいでいます。
さて、ぶじこが大学に帰ってしまうと、昼間家には誰もいなくなります。 トイレのしつけもできていない子猫を家の中に置いておくわけにはいきません。 洗濯物乾し場の片隅に、コンテナや板で小さな隠れ家を造り、箱を置いてそこで飼うことにしました。 母猫の代わりに、うさぎの毛のカラーを入れてやりました。(ちょっともったいなかったけど) サンクはその毛にもぐり込んだり、毛をなめたりして大きくなったのです。 もうそのころにはミルクも1日に2,3回ですむようになっていました。
ミルクから離乳食へ、そして缶詰のキャットフードへと、さんくは順調に育っていきました。トイレもそばに置いた猫砂の中でできるようになりました。
ある日わたしがいつものように隠れ家をのぞくと、
さんくがいません。
こんなにうすぐらいのにどこに行ったのかしら。前の空き地に迷い込んだりしたら、二度と帰ってこれなくなります。
さんくう~ にゃあ 声は空き地の草の中からしました。
さんくー おいでー にゃおーん
さんくー ここよー にゃあ
さんくー にゃあ、にゃあ
さんくはわたしの声を頼りに、5,6分かかって帰ってきました。
そして、次の日も、その次の日も、またその次の日もー
やがて、さんくが草むらにいるわけが分かりました。大きな大人の猫が、さんくのえさをねらってうちに来ていたのです。 たった一匹で孤独と恐怖に耐えていたさんく。
えさを横取りされないように、夜だけ家に入れてえさをやることにしました。 しかし、だれもいない昼間は家にはおけません。朝、もっといたいと逃げ回るさんくをだきあげて、外へ放り出してから出勤する日々が続きました。
さんくが野良猫のように家にいたがらないのはこういうわけなのです。今でも抱き上げると身をよじって逃げてしまいます。 さんくは母の愛を知らず、人間の愛にも飢えているのでした。 ただ、近頃わたしがいつもパソコンの前に座っているので、さんくもそばで寝ていることが多くなりました。また、アトリエに電気がついているときはドアの近くで待っています。
昼間のさんくは何をしているのでしょう。きのう、そっと後をつけていったら、玄関を回ったところで見つかってしまいました。