お昼前にフィットネスクラブから帰ってきて、昼食をいただき、それから爆睡して、起きて漱石の「行人」を読み、原稿を書いていた。隠遁の思想ということをよく考えるからである。
そういえば、拙ブログでも九十九里浜にて隠遁をしていると書いてある。自己紹介の部分に。(これはまるっきり虚偽申告です=(^-^)/)
むろん愚生は正式に出家した人間では無い。名利から離れ、俗世間を完全に捨てた人間でもない。まだまだ俗世間で生きている俗物でもある。女性については見たくもない、お酒も飲みたくない、カネも要らない(ついでに云えば、髪の毛も要らない)なにもかも要らない、すべて自己の救済のためには邪魔だとしているわけでもない。着ているモノすべてを路傍の乞食さんに与えて、比叡の山に戻った増賀上人のごとき人間でもない。当たり前である。悟っていないからだ。わはははははっは。
隠遁というのは、寺院制度の中で生きている組織内僧侶のことを指すのではない。こういう僧侶は官僚と一緒である。官位というものがあって、出世することが目的であって、それと完全なる隠遁者とは違うものである。
生きる究極の目的というものを志向しはじめると、死ぬか、基地外になるか、宗教に走るしかないと漱石も書いている。主人公の一郎に云わせている。ちなみにこの「行人」という作品は実にひねくれた作品で、主人公一郎が、妻の直という女性を誘惑してくれと、弟の二郎に頼んだりしているのだ。父親についても、軽薄でのんきで、世間的な成功はしているものの、究極の生きる目的などというものは考えていないただの駄目親父として描かれている。愚生はすくなくともそう思った。
隠遁というのは、俗世間を捨てることである。体制内世界を離脱することである。さらに、鳥さえも通わぬ辺境の地に行くことである。もっと云えば、彼岸にあるところの原郷世界を志すことである。俗世間を無視して、現在の世俗から離脱して行くことは、彼岸の原郷世界に到達することを目的とする。
隠遁者は、辺境世界に出ていくことによって、俗世から離脱しようとする。されど、辺境世界に到達したとしても、隠遁者は、現実世界の範囲内で生きているものでもある。つまり不徹底なのである。その不徹底さこそが、さらに隠遁者を隠遁に駆り立てる。
究極の人間の生の拠りどころを求める以上、辺境の世界に憧れるのは仕方がないのであろう。
古典にはそのような生き方をした人が多く書かれている。官僧と云われる組織内僧侶とも違う隠遁者のグループである。「~~~入道」と呼ばれる人々である。生まれた時からの僧ではない人々である。途中まで俗世間の人間として、それなりに生きてきた人々である。多武峰少将入道如覚、三河入道寂昭、古曾部入道能因らである。特に右兵衛尉西行が有名である。他にも、前長門守入道寂超、伊賀大進入道寂念、壱岐入道寂然らの所謂「大原三寂」をはじめ、神祇少輔入道空仁、右兵衛尉入道西住らである。
官人であった時期を持っている人々である。官人からの隠遁者なのである。隠遁後もある程度官人たることを背負い続けている人々である。彼らは原則として僧官位を持つことはなかった。それゆえ、官僧の周囲にとどまっているいわば「外部の人間」である。完全なる僧侶ではなかったのである。
ところがである。
隠遁して、俗世間を捨てれば捨てるほど、そして、その志が崇高であればあるほど、周囲に愚生のような一般大衆が集まってきたのである。オノレ一人の救済を求めて隠遁したのにもかかわらずである。たき火で焼いた焼き味噌で日々を過ごしたいと思っても、周囲の人々が放っておかないからである。大衆それぞれの救済の可能性が増大していくからである。いくら来ないでほしいと云っても、人々は隠遁者に帰依する。結縁をいただくことによって、隠遁者の得た功徳に預かることができるからである。だから、皮肉なことに、隠遁すればするほど、布施が積まれ、弟子が集まり、人々から尊敬されることになる。
俗世を捨てたつもりであっても、人々に有形無形に取り囲まれていたのでは、隠遁したことにはならない。辺境の地にもいないからである。
隠遁することは、人々によって捨てられる存在でなければならない。卑賤視されて、石もて追われる存在でなければならない。
出世したりしていては、話にならんのだ。「~~せんせ」とか云われて尊敬を集めておいて、「隠遁者」を気どっていたら話にならんのである。
川の渡し守となったり、馬の飼育をしていた玄賓僧都とか、唖のふりをしていた静円供奉等々の乞食や博徒、遊女あるいは聖のような体制外で生きていくことであったのだ。
だから、愚生なんぞは偽物である。
まだまだである。
俗の中で生きているからである。
捨てきれていないからである。
ここまで来たのだ。
なんにもいらねぇではないか。
なんにもないところからスタートして、これでくたばるのである。捨てるものさえないではないか。
わかっちゃいね~のだなぁと思う。
そもそも自分のことがよく分かっていね~からなぁ。とほほほ。
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