「生活保護の通院移送費」~一部自己負担の導入を~
2008年8月19日(火)作成
生活保護の通院移送費の問題で、厚生労働省の対応が混迷している。
発端は、昨年11月発覚した北海道滝川市での、2億円を超える通院移送費の詐取容疑事件である。同省はこの事件を機に4月1日、通院移送費の支給基準を大幅に制限する局長通知を出した。これに対して、生活保護世帯はもちろんのこと、一部の与党議員からさえも反発の声が上がった。そのため同省は6月10日、従来通り支給するよう自治体に求める課長通知を出し、舛添厚生労働大臣は先の局長通知の「事実上の撤回」と述べた。
ところが、その課長通知は、よく読んでみると「撤回」という内容になっておらず、多くの自治体から「どのように運用してよいか分からない。」と困惑の声が噴出しており、未だこの問題は決着をみているとは言い難い。
通院移送費はバス代等の実費を支給するものであるが、その適正化のためには、「一部自己負担」を導入することが効果的であるということを提案したい。
それは、生活保護世帯の場合は、一部自己負担がないため、必要以上に通院移送費を求める動機が働くということがあるからである。
通院先の医療機関へ徒歩で行くか交通機関で行くか微妙な距離の場合、生活
保護世帯は、通院移送費の支給を求めるよう動機が働くことになる。同じようにバスで行くかタクシーで行くかの場合はタクシーの支給を求めるよう動機が働く。一方、低所得世帯の場合は、交通機関を利用したいが、お金がかかるので徒歩でがまんしようという動機が働くことになる。
これは、生活保護世帯と低所得世帯との均衡を失するのみならず、「モラルの
崩壊」現象でもあると思う。
一部自己負担の導入は、生活保護世帯のこのような動機を抑制する効果があ
る。
そこで問題となるのは、生活保護世帯の場合、その負担能力があるのかということであるが、結論から言うと「ある」のである。
生活保護基準は生活保護法によれば、「最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない」と規定されており、生活保護世帯の家計は「弾力」がないものという「解釈・運用」になっている。そのため、通院の交通費が必要な場合、通院移送費を支給しなければ、最低限度の生活の需要を満たすことにならないのである。
現在の通院移送費の運用は、この考えに基づき、バス代等の実費全額を支給している。
しかし、この「解釈・運用」は現実と明らかに乖離している。生活保護の基
準で現在採用されている「水準均衡方式」は、一般勤労者世帯の約7割の水準
といわれており、戦後間もない時期の、生活に必要な物資を積み上げて積算す
る「マーケットバスケット方式」の時代に比べ、生活保護世帯といえども家計
に「弾力」はあるのである。
したがって、通院移送費の支給に際し、限度額は設ける必要はあるが、一定
割合の自己負担を求める運用を行うことは、現実として可能である。
通院移送費については、必要か否かの判断が難しいケースが多い。そのため、滝川市のような不正事件が起きたともいえる。
私は、一部自己負担の導入により、通院移送費の支給が真に必要なケースに絞られ、適正化につながるものと考えている。
2008年8月19日(火)作成
生活保護の通院移送費の問題で、厚生労働省の対応が混迷している。
発端は、昨年11月発覚した北海道滝川市での、2億円を超える通院移送費の詐取容疑事件である。同省はこの事件を機に4月1日、通院移送費の支給基準を大幅に制限する局長通知を出した。これに対して、生活保護世帯はもちろんのこと、一部の与党議員からさえも反発の声が上がった。そのため同省は6月10日、従来通り支給するよう自治体に求める課長通知を出し、舛添厚生労働大臣は先の局長通知の「事実上の撤回」と述べた。
ところが、その課長通知は、よく読んでみると「撤回」という内容になっておらず、多くの自治体から「どのように運用してよいか分からない。」と困惑の声が噴出しており、未だこの問題は決着をみているとは言い難い。
通院移送費はバス代等の実費を支給するものであるが、その適正化のためには、「一部自己負担」を導入することが効果的であるということを提案したい。
それは、生活保護世帯の場合は、一部自己負担がないため、必要以上に通院移送費を求める動機が働くということがあるからである。
通院先の医療機関へ徒歩で行くか交通機関で行くか微妙な距離の場合、生活
保護世帯は、通院移送費の支給を求めるよう動機が働くことになる。同じようにバスで行くかタクシーで行くかの場合はタクシーの支給を求めるよう動機が働く。一方、低所得世帯の場合は、交通機関を利用したいが、お金がかかるので徒歩でがまんしようという動機が働くことになる。
これは、生活保護世帯と低所得世帯との均衡を失するのみならず、「モラルの
崩壊」現象でもあると思う。
一部自己負担の導入は、生活保護世帯のこのような動機を抑制する効果があ
る。
そこで問題となるのは、生活保護世帯の場合、その負担能力があるのかということであるが、結論から言うと「ある」のである。
生活保護基準は生活保護法によれば、「最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない」と規定されており、生活保護世帯の家計は「弾力」がないものという「解釈・運用」になっている。そのため、通院の交通費が必要な場合、通院移送費を支給しなければ、最低限度の生活の需要を満たすことにならないのである。
現在の通院移送費の運用は、この考えに基づき、バス代等の実費全額を支給している。
しかし、この「解釈・運用」は現実と明らかに乖離している。生活保護の基
準で現在採用されている「水準均衡方式」は、一般勤労者世帯の約7割の水準
といわれており、戦後間もない時期の、生活に必要な物資を積み上げて積算す
る「マーケットバスケット方式」の時代に比べ、生活保護世帯といえども家計
に「弾力」はあるのである。
したがって、通院移送費の支給に際し、限度額は設ける必要はあるが、一定
割合の自己負担を求める運用を行うことは、現実として可能である。
通院移送費については、必要か否かの判断が難しいケースが多い。そのため、滝川市のような不正事件が起きたともいえる。
私は、一部自己負担の導入により、通院移送費の支給が真に必要なケースに絞られ、適正化につながるものと考えている。