3学年だより「弱者の戦略」
「本番に強い人」という言い方がある。
傍からそう見えても、言われた当人は特別自分が「本番に強い」とは感じていない。
その人にとっては、本番の出来は意外ではなく、自分なりに手応えを感じていたはずだ。
または、自分は本番に弱いと恐れていて徹底して準備してきた結果かも知れない。
ものすごくがんばって、大変な努力をして手に入れた結果でも、他人は「運がいい」とか、「本番にだけ強い」と評するものだ。
たしかに、正しい努力をし続ける人は、準備の段階では結果が出ていないことは多い。
むしろ本番の前段階では、きちんと失敗しておいて、自分の弱点を出し切る必要があるからだ。
自分の失敗を客観化することで、「上から目線」でミスを見ることできる。
できの悪かった模試は、自分の弱点をはっきりと示してくれる宝物だ。
弱点を補っていきさえすれば、本番では同じミスをしない。
ただし当たり前の話だが、模試は入試ではない。
最終目標は模試でいい判定を出すことではなく、志望校の合格最低点をクリアすることだ。
入試の結果と模試の偏差値は、もちろん相関はあるが、そのままにはならない。
「安全校」にことごとく落ちて、第一志望「だけ」受かる例は普通にある。
過去問を解いてみて、同じラインの問題で6割~7割の点数をとるには、何をどうすればいいかという戦略を立てられるかどうかだ。
~ たとえば早稲田の文系学部を受験するなら、6割5分から7割得点できれば合格できる。早稲田の文系学部を狙うなら、赤本を解き、厳しく自己採点し、間違い直しを厳密にすればよい。4割が4割5分、4割5分が5割と、波があるのは仕方ないが着実に点数は上がってゆく。敵は他の受験生ではない。入試問題なのだ。偏差値より合格最低点を気にしよう。
過去問は受験生の弱点をあぶりだす。足つぼマッサージが内臓の悪い部分を教えるように、過去問はウィークポイントをクッキリ明確にする。英語のイディオムが弱ければ補強すればよいし、日本史の戦後史が弱ければ、歴代内閣ごとに詳細な年表を作ってみればよい。
憧れの早稲田大学という背広を着こなせる体型を作りあげるために、過去問を解いて、無駄な贅肉を削ぎ落とす作業を続ければ合格できる。過去問を解けば、早稲田の問題という背広に、自分の身体がフィットしてゆく過程が体感できる。そのうち早稲田の問題が、自分の体型に合わせて作られたオーダーメードの背広のように思えるはずだ。 (笠見未央『難関私大・文系をめざせ!』高陵社書店)
~
どんな問題が出ても対応出来るほどの圧倒的な力を持つ人であれば、特別な志望校対策を必要としない。しかし実際には、そんな人はいない。楽勝でいい成績をとっているように見える人は、とんでもなくやっている。楽勝に見えるのはステージが違いすぎるからだ。