水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

180秒の熱量(4)

2021年12月04日 | 学年だよりなど
1学年だより「180秒の熱量(4)」


 東洋太平洋14位のイ・ウンチャン選手に判定で勝って、ランキング入りすることができた。
 タイトル挑戦の権利を手に入れたとはいえ、チャンピオンが、無名の14位と戦うメリットは普通ない。ジムの会長は、下の階級のチャンピオンにも対戦を申し込んだが、話はまとまらなかった。
 世界ランキング入りすることも現役続行可能の条件になるが、ミドル級の世界ランカーとなれば、住む世界がちがう、競技の性質がちがうと言われるほどレベルが異なっている。
 しかし、世界10位との対戦が実現する。WBO世界10位、レス・シェリントン選手との試合がオーストラリアで実現した。

~ もう、世界10位は試合を終わらせていい時間だった。実際そのつもりだったと思う。しかし、シェリントンが何度ラッシュを仕掛けても、米澤の心が折れない。空振りでも、とんでもない方向でも、なにがしかのパンチを打ち返してくる。少しでも攻撃の手を緩めれば、逆に米澤は突進してくる。クリンチしてしまえば、なんのことはないのだが、何度でも詰め寄り、力ない右スマッシュと左スイングを振り回す。当たらないのにやめようとしない。そのたびに強烈なジャブをもらう。観客は笑っている。確かにその姿は無様と言えば無様だった。でもそれは、36歳11ヶ月にして、まだボクシングを続けている、米澤の人生そのものにも見えた。~


 打たれても打たれても、前進する。地道にボディを狙う。相手からは不気味にさえ思われる徹底した「作戦」は、予想外の善戦をもたらした。しかし、「そこで戦いたいと願う人間」は「そこで戦うために生まれきた人間」には叶わなかった。


~「そりゃ負ければ、悔しいですよ。でも、勝った時はたまたまだと思ってます。試合は勝ち負けじゃない、やってきたこと全部出せればいいだけだとずっと思ってました。」
「だって、全部出せれば、出して負けたんなら、やってきたことが間違っていたわけだから、修正して、また頑張りましょうなんですよ。やってきたことを出せずに勝っても意味がないんですよ。たまたまだから、本当に。例えば、試合までずーっとワンツーの練習をしてきたのに、なんとなくフック打って勝っちゃったら、僕にとってその試合に費やした二ヶ月は意味がなかったになっちゃうんですよ。」 (山本草介『180秒の熱量』双葉社) ~
 

 「自分は心が弱い」のだと米澤は言う。勝利だけを求めると、負けたらどうしようって怖くなってしまう。そこから逃げるために、今の自分より少しでも強い自分になろうとしたのだった。
 すると敵は相手ではなく自分になる。「結果」だけが、成功か失敗かの判断基準ではない。
 むしろ、失敗の中身が自分を成長させる。何かにとことん取り組んだ経験は、それ自体の結果を手にできなくても、別の何かへの挑戦権をもたらすのだ。
コメント
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