今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

世間が拒否する情報:防災編

2011年07月17日 | 防災・安全
既存の世間知が、学知と相いれない場合、世間は学知を無視する。
放射線の”恐怖”と逆のパターンを紹介しよう。

●関西には大きな地震が来ない、という世間知(思い込み)が地元では強かった。
確かに、プレート境界からは遠い。

地震はプレート境界型(一定周期)とプレート内型(活断層型)に分けられる。
前者がないからといって、後者がないという保証はない。
東海・北陸から関西にかけては活断層が密集している。

1990年代に入って、淡路島から神戸市に抜ける野島断層はその活動の危険が高まっていると予想された。
専門家たちは、その危険を訴えたが、
地元は暖簾に腕押し状態。
そもそも”不安”を抱いていないのだから、たとえ懸念がマスコミに載ったとしても目に留まらない。

そこで、関西の地震の危機を大々的にアピールするために、都市防災学会が大阪で学会を開くことにし、大阪に集結した。。
その翌朝、あにはからんや、野島断層が動いた(兵庫県南部地震)。

●わが勤務先の大学で、地震災害に対応するため、東海地震予知情報が発令された場合の対処のマニュアル化が策定された。
防災士である私は、予知可能とされている東海地震の予知情報のみに頼った”防災”マニュアルではダメだと主張した。
まずなによりも、周辺の自治体では今では、東海地震以外に”東南海地震”にも対応しており、本学でも予知不能な東南海地震を想定した防災対策が必要であると述べた。
それに対し、相手(学部長クラス)は、”東南海地震”という単語になじめず、私が、マイナーな主張に拘泥して危機を煽っていると受けとめた。
かように、大学の教員であっても、専門領域以外は、素人同然で、世間知のレベルに留まっている(名古屋市や日進市ではとっくに東南海地震のハザードマップが出来ているのに…)。
わがブログの読者の皆さんは、東南海地震はご存知だと思うが、学生の間でも、まだ東海地震しか話題にならないレベルだ。
私は自分の演習の授業で、学生に東海地震以外の地震の危険性を教え、名古屋市港防災センターに連れて行き、
そこで実際に前回の東南海地震の時の名古屋市の震度7を体験させた。

●平成21年の時点で、国(中央防災会議)は、最大の被害が起きる地震をどこに想定しているかご存知か。
『防災白書』(地域防災を考える時に最初に読む本)にまとめられているので、ぜひご覧いただいきたい(ネットで全て閲覧可)。
まず、残念ながら、東北地方の太平洋沖は、「宮城県沖」のみが想定されており(ただし最大級の切迫性)、想定死者は2700人である。 
その意味で、ここの予想は外れた。

だが、”最大の被害”予想が外れたとは、まだいえない。
なぜなら、想定されている最大の死者数は42000人だからだ。

その地震は、東海地震ではない。
首都圏直下型地震でもない。
東海・東南海・南海の3連動地震でもない。

それは、大阪直下の「上町(うえまち)断層帯」地震だ。

水都大阪は地盤が弱く、その地盤の真下にある断層帯が上町断層帯。

この活断層は、東海地震と連動すると予想される(東海地震は単独で起きたためしがない)東南海あるいは南海地震の前後に活動が懸念されている。
すなわち、これらすべての地震が連動する”西日本大震災”の危機が、数年前から懸念されているのである("東日本”が先に起きてしまった)。

政府が国民向けに発行している『防災白書』に明記されているのに、マスコミはおろかネットでさえも話題にならない。
かように世間は無視し続けている。

つまり、世間は、自分たちが不安に思っている情報は過敏なまでに反応するが、
不安に思っていない情報には、かたくなに耳を傾けないのだ。
そのような世間知から脱して、客観的な学知に耳を傾けてほしい。