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極北クレーマー 海堂尊

作者の作品はほぼ刊行順に読んでいるが、少しずつミステリー性が薄れ、代わりにエンターテイメント性や医療問題への傾倒が強まっている。そのため最近では、彼のことをミステリー作家ではなくメディカル・エンターテイメント作家と呼ぶのだそうだ。まあそれでも面白いから良いのだが、前々作の「ひかりの剣」などは医学関係ともほとんど無関係なストーリーになってしまった。
 本書は真っ向から地域医療と産婦人科医療の問題を取り上げた作品である。日本における地域医療の問題はメディアでよく取り上げられるようになってきているし、日本が死因不明社会であることや医者への過度な期待が医療を危機に陥れていることなどの問題も、作者の作品を通して随分知られるようになってきているように思われる。私自身、本書を読んであまり驚かなくなったのは、作者の作品を通してそれらを知るようになったからだ。それはそれで良いことなのだろうが、作者のファンとしては、作者にはさらに先に行ってもらわないと読書の楽しみが減少していく。次の作品あたりでは是非そうした展開を期待したい。本書では、白鳥・田口コンビがそれらしき人物として語られる。また白鳥の部下の「姫宮」が重要な役割で登場する。その他の作品の登場人物も少しだけ登場したりしていてそれが楽しい。これは作者の全作品を時系列で追いかけている読者だけに許された楽しみだ。(「極北クレーマー」海堂尊、朝日新聞社)
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