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償い 矢口敦子
文庫の帯に「65万部突破」と書かれており、そんなに売れているのかということで読んでみた。本書の紹介には必ず「単なる社会派ミステリーではない」という形容詞がつくようだ。現代社会の様々な問題を「心の荒廃」に焦点をあてて紡がれたスト-リーにより、確かに「社会派」ミステリーであると同時に、現代人の精神史という側面を強く持った作品になっている。一人の悪意のない人間の存在が回りの人々に思わぬ影響の連鎖をもたらしていくという展開は大変見事である。但し、どうもこの手の作品は、急速に古くさくなってしまうものなのか、全ての場面に既視感が感じられた。出てくる刑事の人物設定、主人公の過去、非常にませた少年など、どれもどこかで読んだような人物ばかりが出てくる。この本がそうした人物造形の最初のもので、私の読む順番が逆なのかもしれないが。また、ミステリーの部分は、ある人物が「犯人ではない」ということが焦点になりすぎて、途中で肝心の「誰が犯人か?」ということがどうでも良くなってしまったような気がした。それはそれで良いのだろうが、ミステリーとしては、その部分をもう少し大事にして欲しかった。(「償い」矢口敦子、幻冬舎文庫)
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