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海炭市叙景 佐藤泰志

10年以上前に亡くなった著者の本が今脚光を浴びている。著者の故郷の人々が彼を偲んで自主製作映画を作ることになったというのがきっかけらしい。最近、全国紙の新聞の書評でも取り上げられていたし、本屋さんの話題の本のコーナーに並んでいるのを2度ほど見かけた。私は昨年ある書評がきっかけで本書を入手したのだが、体調を崩したせいで重苦しそうな本書をなかなか読む気がせずそのままにしていたものだ。

本書は、海炭市という架空の地方都市に暮らす普通の人々を描いた18の短編からなる連作集で、それぞれの話には、同じ都市の住民という以外に直接の繋がりはない。だが、たまに別の短編の登場人物らしき人が登場することもあるという程度のゆるやかなつながりがある。それはあたかも、小さな都市にいて、道で偶然知り合いに合う程度のつながりだ。本書は、、若い男が不思議な形で失踪するという話で始まる。季節は冬だ。短編の流れは全くのランダムのようだが、季節の移り変わりを見ると時系列になっているらしい。そこかしこに作者のいろいろな意図が隠されているようで、興味が尽きない。作者は5回芥川賞の候補になりながら、受賞する前に自殺をしてしまった。本書も解説によれば未完だという。作者の最高傑作と言われる本書を完成させずに自殺してしまったということになるが、残念という他ない。(「海炭市叙景」 佐藤泰志、小学館文庫)

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