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伏 桜庭一樹

作者の最新刊。滝沢馬琴作の「南総里見八犬伝」を読んだことはないが、大昔にNHKのTV人形劇「新・八犬伝」を欠かさず見ていた記憶はある。そのため、あらすじは大体判っているつもりだが、本書を読んで何だか頭が混乱してきてしまった。原作は、仁義礼智忠信孝悌の玉を持つ8人の剣士が一致団結して玉梓の怨霊と戦うという勧善懲悪ものの戯作だったが、本書では、原作と同じ名前の登場人物が敵味方に分かれて、江戸市中で追いかけっこをするという話になっている。妖刀村雨といった小道具は原作と同じだし、伏姫と八房の話もほぼ原作通りだが、後の話は全く違うといった按配で、読んでいるうちに段々原作との違いを云々するのが無意味なことのように思えてくる。ストーリーだけを追えば荒唐無稽なドタバタ劇のようなのだが、文章から立ち上ってくる幽玄に近いような「妖しさ」はさすがだ。(「伏」 桜庭一樹、文藝春秋社)

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