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スペードの3 朝井リョウ

本書を読んで思い出すのが「教室内カースト」という言葉だ。著者がそうしたことを意識して書いた本なのかどうかは判らないが、登場する大人は全て「子ども時代」を引きずっている大人ばかりだ。「教室の後ろの方で大声で騒いで授業を茶化す男子」について、登場人物がそれは「個性」ではなく「役割」なのだと気づくあたりは、まさにそうした風潮をうまく捉えている。また、小学校から中学校に進学する前に「同じ部活に入ることを約束した友人がいる」ことを「無敵の武器」というあたりも、同じ文脈で理解することができるだろう。小説に対して、現実的な効用を期待するのは変かもしれないが、色々な教育現場のレポート等を読むよりも、本書を読むほうが、今の「学校」というものへの理解、あるいはそこで生活する子ども達の辛い心情への理解には役立つような気がする。学校の先生の勉強会での教材にしても良いだろう。個人的には、こうした今の学校の現状について、こんなことになっているのかと驚かされる部分がある一方で、これは今も昔も変わらないよなぁと感じる部分も多い。教育現場の問題というのは今と昔でさほど変わっていないのかもしれない。変わったのは、子ども達の感性、取り巻く親達の感性、先生達の感性で、そのためにこの小説は読者ひとりひとりの感性に不協和音という形で響くのだろう。(「スペードの3」 朝井リョウ、講談社)

海外出張のため、10日間ほど、更新をお休みします。

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