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サキの忘れ物 津村記久子

大好きな作家の最新短編集。全く関連のない短編が9つ収録されているのだが、何か一つのくくりでは説明できない、これらの作品全部で著者自身ですという感覚になる独特の世界だ。真っ当だが何かに踏み切れないもどかしさを醸し出す主人公、どこにでもいるなぁと思ってしまう嫌な奴という構図の話が多いのはいつも通りだが、本作を読んで気づいたのはその主人公たちが何かを凝視していること、何かに耳を澄ませていることが多いということだ。それこそが作家というものの本質であり、作家自身の世界を見せてくれる源泉なのだと感じた。収録された短編の中では最後まで正体が明かされない「行列」、ハラハラドキドキの「隣のビル」が特に印象的だった。因みに「真夜中をさまようゲームブック」はおそらく最短コースだったんじゃないかと思うが、それも作者の策略なのだろうか。(「サキの忘れ物」 津村記久子、新潮社)
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