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くだらないものがわたしたちを救ってくれる キム・ジュン
「線虫」という生き物を対象にして生命の仕組みを解き明かそうと日々研究に没頭する韓国の研究者による一般向けのエッセイ。生物の進化、遺伝、病理などの分かりやすい説明とともに、自身の研究生活の様子が語られる。研究対象に何を選ぶかが研究者にとってはとても重要らしく、「線虫」は、飼育が簡単(何日か放置しても死なない)、小さい(場所を取らない)、一生が短い(失敗してもすぐに立ち直れる)、安い(入手が簡単)などの利点があるとのこと。また、見た目が人と全くちがうという特徴は、大量死させることの罪悪感が小さいという利点はあるものの、人間に直接役立ちそうにないので研究費の確保が困難という難点があるらしい。生物学の歴史で出てくる実験材料が何故えんどう豆とかショウジョウバエなのか、本書を読んでよく分かった。なお、本書の研究生活の記述では研究費の確保に四苦八苦する様子が何度もでてくる。また、ゲノム地図の活用の容易化やオルガノイド技術の進歩などここ数年の世界の研究の成果によって、研究すべきあるいは研究できる事柄が飛躍的に増加しているが、そこに立ちはだかるのがやはり研究費の問題とのこと。韓国や日本は、欧米・中国に比べて研究費の制約が大きすぎて、その格差は広がる一方らしい。日本の研究開発とか基礎研究における多くの問題点を浮き彫りにしてくれる一冊でもある。なおこの本は題名が何だか抽象的なことしか書いていない啓発本のようで、ものすごく損をしていると思う。(「くだらないものがわたしたちを救ってくれる」 キム・ジュン、柏書房)
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