書評、その他
Future Watch 書評、その他
今宵、バーで謎解きを 鯨統一郎
ギリシャ神話に造形の深い女性がバーで話題になっている事件の謎を解くというかなりべたな設定のミステリー短編集。1つ1つの作品が短いうえに、前半部分は、お酒に関する薀蓄と、中年男性の子どもの頃の思い出話に終始し、事件の概要の説明と謎とき部分はほんの20ページくらいにすぎないという感じだが、短い割には色々嗜好がこらされていて楽しく読める作品集になっている。一方、探偵役の女性が語るギリシャ神話の方は、話に花を添える程度のもので、薀蓄というほどのものではないが、これはこれで良いかなという感じだ。いくつもの特徴があり、それぞれがうまく話に融合していて、ある意味少し贅沢な作品といえるだろう。(「今宵、バーで謎解きを」 鯨統一郎、光文社文庫)
風味絶佳 山田詠美
「風味絶佳」というとグリコのパッケージを思い出すのだが、景作者が題名に込めた意味を全く知らずに読み始めて、だんだんそういうことかと判ってきたところで、急に本書の良さが判ったような気がした。同時にグリコのキャッチフレーズの正しい意味も何となく判ったような気がした。子どものお菓子の謳い文句ながら、子どもを子ども扱いしないことの意思表明でもあるのだろう。独特の歯切れのよい文章も良いし、登場人物達のある意味で周囲に惑わされずに生きていこうとする潔さも素敵だ。小品だがすがすがしい読後感に浸れる1冊だった。(「風味絶佳」 山田詠美、文春文庫)
習近平の密約 加藤隆則
本書は、初心者向けの啓蒙書という感じながら、驚くほど中身の濃い情報満載の1冊だ。様々な中国国内の政治的な駆け引きが、様々な角度から分析・描写されていて、読んでいて頭が混乱してしまう程だ。こうしたジャンルを専門に研究している学者というのはさぞかし大変だろうなぁと思う。さらに、中国上層部の政治的な駆け引きの複雑さは、当事者にとっても同じことのようで、彼ら自身も、あることの決断がどちらに転ぶか判らないまま、直観のようなもので動いているのではないかとさえ思えるようなところがあり、大変面白かった。中国において、文革、天安門事件の扱いの難しさも改めて確認できたような気がする。(「習近平の密約」 加藤隆則、文春新書)
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