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ラノベのなかの現代日本 波戸岡景太

このブログでも何度か書いてきたが、私の好きな作家の中には、何人かライトノベル出身の人がいるし、読んだ本の中にはライトノベルに含まれる作品も多い。このジャンルが、かなり特殊な進化を遂げていて、さらに普通の小説との境界が少しずつ曖昧になってきているという実感もあり、「そもそもライトノベルとはj何なのか」をもう少しつきつめてみたいと常々思っていた。そうした気持ちでいたところで、ちょうど良さそうな本書を見つけたので読んでみた。本書は、著者自身が、ライトノベルをあまり読まない大人向けに書いた本であると言っているが、それにしては、ライトノベルを読んだことのない読者にとってはあまり親切な書き方にはなっていない。ライトノベルを少しは読んだことのある自分でさえ、本書で引用・言及されている作品の本の僅かしか読んだことがないし、題名すら聞いたことがないものばかりで、それがほとんど解説もなく言及されている。著者自身は、研究対象として、それらの本を体系的に読んでいるのだろうが、そうでない読者にとっては、「涼宮ハルヒの登場がライトノベルに与えた影響」と言われても、全くピンとこないに違いない。しかし、そうしたその「親切でないこと」が、本書の欠点かと言うと、それはそうでもない気がする。親切になろうとすれば、ライトノベルの歴史とか、エポックメイキング的な作品などの解説で大半を埋めてしまえばいいのだが、読者がそれで判ったつもりになっても、ある意味読者にとっては何の役にも立たないだろう。本書を読んで、判る部分と判らない部分がはっきりして、それを理解するためにライトノベルそのものをいくつか読んでみる。そうした手順が本当の理解に必要なことであるとすれば、本書はそうした行動の「きっかけ」にはうってつけの本だ。優れた啓蒙的な研究書というのはそういうものかもしれないと感じた。(「ラノベのなかの現代日本」 波戸岡景太、講談社新書)

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