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パレートの誤算 柚月裕子

書評誌で取り上げられているのをみて、ずっとネット書店の「読みたい本リスト」にあげていたのだが、なぜか購入が後回しになっていた1冊。先日作者の「あしたの君へ」を読んで大変面白く、内容的にも「あしたの君へ」に似ている感じだったので、遅ればせながら読んでみることにした。話は、ある地方都市の市役所の生活保護を扱う部署の女性新人職員を主人公にしたミステリー。ある日尊敬する上司が突然殺害され、主人公がその謎を追いかける。本書の良いところは、こういう設定にも関わらず、主人公が警察の捜査への協力を蔑ろにせず、ちゃんと協力すべきところは協力しつつも、市の職員としての責務を全うする点にある。それが、作品のリアリティを確かなものにしているし、読後の心地良さを生み出している。ミステリーとして最後の結末の意外性はさほどでもないが、書評で高く評価される理由がそこにある気がする。(「パレートの誤算」 柚月裕子、祥伝社)

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反対進化 エドモンド・ハミルトン

著者の短編集「フェッセンデンの宇宙」はこれまで読んだSF小説のなかでも特に印象に残っている作品だったが、かなり昔の作家ということもあって、次の作品を読む機会がなかなかなかった。最近、なぜかまた色々なところで著者の名前を目にすることがあり、ネットで検索してみて、絶版になっていない本書を見つけることができた。本書を読んでみて、やはりこの作者の作品は面白いなぁと感じた。SFの歴史には詳しくないが、最近のSFは、現実の科学の進歩とリンクして「現実味」を追求するもの、ITT技術の進歩をふんだんに取り入れたサイバーSFのようなもの、極めて思弁的なもの、それらの対極としてのファンタジーSF等に大きく分岐しているように思われる。どれも面白いのかもしれないが、極端に思弁的な作品や、IT満載のサイバーSFは、年配者である自分にはあまりしっくりこないことが多い気がする。そうしたなかで、SFが色々分岐する前の本書のような作品を読むと少しほっとすることができる。なお、書かれた当時は最新の発見だった「膨張宇宙」を取り上げた作品について、巻末の解説に「科学的な誤認がある」と書かれていたが、作者が本当に誤解していたのかどうかは判らない気がする。もしかすると宇宙は正しい認識とされるように、宇宙全体として膨張しているのかもしれないし、本書で書かれたように地球を中心に膨張しているのかもしれない。もし著者が確信犯としてあえて後者のようにストーリーを展開したのであれば、それはそれで面白い。とんでもない宇宙の真理がひょっとしたらそこにあるかもしれないと空想が無限に広がる気がするからだ。(「反対進化」 エドモンド・ハミルトン、創元SF文庫)

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