書評、その他
Future Watch 書評、その他
夢の検閲官 筒井康隆
著者の本を読むのは本当に久し振りな気がする。学生時代には、全ての作品を読んだのではないかと思うほどのファンだったが、突然の断筆宣言にびっくりさせられ、同じく唐突な執筆再開後の以前よりもパワーアップしたはちゃめちゃ振りにも驚かされた。本書は、いくつか読んだ記憶のある作品も混じっているが、覚えているのは題名だけで、ほとんど初読のような気分で読むことができた。収められた作品のいくつかは、実験的すぎて小説の範疇を越えてしまったようなものもあるが、その意図はかなり明快かつ牧歌的。こんな実験が許された時代だったんだなぁと、懐かしい気分にもさせられた。(「夢の検閲官」 筒井康隆、新潮文庫)
語り屋カタリの推理講戲 円居挽
本書は、大掛かりなリアル謎解きゲームの模様を描いた小説だが、不思議なことに、そこで語られるのは、ゲームの仕組みや謎そのものではなく、ゲームに参加しているプレーヤーの行動や言動ばかりで、読者は、ゲームのルールの全貌もどんな謎解きを競っているのかといともはっきり知らされないまま、登場人物であるゲームの参加者が語る抽象的な議論を読まされることになる。こんな具体性のない話の何が面白いのかと最初のうちは思うのだが、慣れてくると言葉の遊びのような話が結構面白くなってくるから不思議だ。本書の持つ独特の雰囲気とか世界観に慣れてきたということなのかもしれないが、個人的にはあまり慣れたくない世界だなというのが正直な感想だ。(「語り屋カタリの推理講戲」 円居挽、講談社文庫)
夢裡庵先生捕物帳(上下) 泡坂妻夫
著者の作品では初めて読む江戸時代もの短編集。題名にある通り、全ての作品に夢裡庵という八丁堀同心が登場するが、話によってその彼が探偵役になったりただの事件に後始末役だったりという少し変わって構成になっている。時代小説を読み慣れていないだけかもしれないが、読み始めてすぐに気がつくのは、意味の分からない漢字が多いのと、江戸時代の事物が注釈なしなのでよくわからないことだ。意味の分からない漢字で書かれた部分は、音読みするとそういうことだったのかと分かることもあるし、分からないままということもある。こういう書き方が、元々の意味を表しているのか、単なる当て字なのかも分からない。知らない江戸時代の事物もそのまま読み進めなければならないので、少しフラストレーションが溜まる。それを一気にプラスに変えてくれるのが、最初に予想も出来なかった結末や意外な動機というミステリー要素の凄さとか、物語としての面白さ。なかなか体験出来ない読書の醍醐味だ。(「夢裡庵先生捕物帳(上下)」 泡坂妻夫、徳間書房)
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