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新・冒険論 角幡唯介

冒険家が語る「冒険」とは何か? 本書で著者は、冒険を「脱システムの衝動」と定義し、色々なシステムによって守られている日常からの脱却が冒険の本質だとする。その上で、現代社会は、ジャンル化、スポーツ化によって、冒険の領域が大きく変化していると説く。例えば、北極点へのアプローチという冒険は、GPSの発達や航空機の出現で大きく変化したという。当初とにかく北極点にどこまで近づけるかという単純だった目標が、飛行機で簡単に北極点まで行けるようになった今、一番北極点に近い陸地までは飛行機で行っても良いという暗黙のルールが出来あがっているという。極端な話、何らかのルールがないと、北極点のすぐ近くまで飛行機で行ってそこから少し歩いて到達しても、徒歩での北極点到達ということになってしまうからだ。こうして冒険と認識されていた「北極点到達」という行為はルール化された一つのジャンルと認識され、やがて決められたルールのなかで数字を競うスポーツになっていくという。そうした変化の中、かつて冒険の代名詞のようなものだった「エベレスト登頂」も、大量の物資や資金を投入して、すでに誰かが設置したハーケンを伝って登るだけの運動となり、冒険とはかけ離れたものになってしまったらしい。ストイックに冒険とは何かを考えていく著者の姿勢が清々しく感じられる一冊だ。(「新・冒険論」 角幡唯介、インターナショナル新書)

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