玄冬時代

日常の中で思いつくことを気の向くままに書いてみました。

本から本へ

2015-06-09 14:18:07 | 

三ヶ月前、WOWOWで『ハンナ・アーレント』という映画を見た。彼女の写真によく似た役者が演じていて、さしたる感動もなかったが、老い先の時間も限られていることから、アレントの『全体主義の起源』を読みたいと思った。図書館ネットの検索で調べると案外ボリュームがありそうなので、偶々横に記された『ナショナリズムの名著50』(大沢真幸編集)を借りた。そこに、アレントの『全体主義の起源』の解説文があったからだ。その他当代の思想家たちの本の解説を適当に読んでいると、『文明の衝突』サミュエル・ハンチントンの解説に魅かれた。

この本は、1998年に日本語訳が刊行されている。振り返れば、この頃の自分は、組織での立場の揺らぎ、疲弊した家庭での子供の問題と、いろんな意味で、胸突き八丁の時期であった。題名こそ頭の隅にあったが、とても読めるような精神状況ではなかった。仕事の忙しさを理由に読み損ねた本を、遅ればせながら挑戦することにした。

ずっと若いころから、いつも恐ろしい存在としてソ連という共産主義国家があった。1989年のベルリンの壁の崩壊とともに、その大本であるソビエト連邦が脆くも解体して行った。それを目の前にして、世界はアメリカ一国支配になることが自明なこととなったが、いざ冷戦が終わってみると、その後の十数年はどうなっただろう。実は、そのことを現実に見てきて、21世紀になったが、意外なことに、昨今の紛争やテロが頻発する混沌とした世界がひろがっている。

昨日、やっと読み終えた。ハンチントンは「西欧の民主主義が普遍的になることはないという前提に立って、アイデンティティの対立が今後の世界を規定していく」と言った。そして、「世界中の人々が同時に同じ映像を見ても、それぞれの文明の価値観によって異なる解釈をする」とも言う。

ベネディクト・アンダーソンは「国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体である」と言う。こうしたところから、常に紛争の主役となるイスラム教の国々の行動の一端が少しばかり理解できるのではないだろうか。しかし、我々日本人のうち、戦後生まれは、西欧民主主義にかなり浸っているので、本来は非西欧型の見方ができるアジア人である筈なのだが、ちょっと最近はできなくなっている。まことに困ったものである。

コメント
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