子供のころ、テレビで国会を何重にも取り巻くデモ隊の姿を見た。あのデモ隊はどこを目指していたのだろうか。戦犯候補だった岸信介の行う安保条約の改正だから反対していたのか。
今中身を改めて読めば、若干だが、岸の条約改正は吉田の条約を少しでも良くしようとした内容だった。少なくとも屈辱感は減っていた。
あの時のデモ隊の行き先は違っていたのではないか。敵は皇居にいたのである。丸い縁なしの眼鏡の生物研究者の顔を見せながら、政治的行為をしない「象徴」なのに、陰では政府に内奏させ、ご下問をしていた。
こうした非公式の戦後天皇制を支えるには、天皇に忠実な官吏がいた。戦前は内相の木戸幸一がいたが、戦後すぐに巣鴨プリゾンに入ってしまった。木戸の代わりに秘書官長だった松平康昌がその役を果たした。
二人が長州藩と徳川家という武門の系統であることも面白い。結局、近衛のような古くからの公卿は、戦後は天皇制を守る藩屏になれなかった。
この辺から、新たな日本の隠れた支配階級が生まれているのかもしれない。敗戦で天皇の軍人である「皇軍」が消失し、今度は、天皇の官吏が天皇制を守っていく。
それを、今、長州の末裔の安倍政権が担って、戦後のエリート官僚たちがそれを支えていく。国民の知らない間に、彼らは国民を欺きながら、いつの間にかこの國を戦前に引き戻していくのではないだろうか。
【参考文献:豊下楢彦『安保条約の成立』岩波新書1997年/工藤美代子『われ巣鴨に出頭せず』中公文庫2009年】
ヨコハマ・象の鼻パーク