梅雨の合間の6月14日、僕は長い旅をした。
玉川上水のランニングの練習距離をいつもより長くとり、40kmほどを走ったのである。
フルマラソン大会(42.195km)をよく走っていた頃は、小金井公園スタートの拝島駅往復は定番の練習コースであったが、ハーフマラソン大会に変更してからは、それに対応し距離を短くしていたが、今回、練習でなく、ゆっくりランニングを楽しもうとした。玉川上水といえば雑木林の中の散策がよく知られているが、その先では、多摩の畑の広がりという別の田園景色を楽しむことができる。
ところで、この日、道の真ん中で、玉虫があおむけになり手足をばたつかせているのを見つけ捕獲した。蟻に引かれたり、鳥のえさになるよりいい、という言い訳もあるが、僕はこの玉虫の美しさに魅かれ他でも命尽きた玉虫を拾い数体を標本にしている。
玉虫に関心を持ったのは小学生の時。奈良の法隆寺の国宝、玉虫厨子(ズシ)作りをめぐる話を読んでから。たしかこんな話だった。・・・・7世紀の飛鳥時代、厨子作りを任された職人が、どうしても目指すものができず悩んでいた。ある日、玉虫を見つけこの羽を装飾に使うことを思いつき完成することが出来た。現在の国宝は、羽はほとんど剥げ落ちているが。
子供のころの僕は、玉虫を高い木の上や、飛んでいるのをみたことがあったが捕獲することはなかった。いや、出来ない昆虫と思っていた。・・・・それから、かなりの年月がたった。そして、数年前、自宅近くで、命尽き地面に落ちている玉虫を見つけ手にした。
さて今回の、玉川上水をめぐる長旅。木の根や起伏に注意しながらゆっくりランニングを楽しんだ。道中、踏みつぶされた玉虫の個体が2体、また虹色の羽があちこちで見られた。この散策路は玉虫の好む木が多いのだろう。以前、ランニング練習で前ばかりみて走っていた頃は、玉虫には全く気がつかなかった。ものごとは、落ち着いて、いろいろな角度からみるのもいいのだろう。
政治でよく使われる表現、「玉虫色」。見る角度により色が変わる。いい意味にも悪い意味にもとれるが。
今回の長旅。初夏の武蔵野、多摩、の自然を楽しみ、美しいものも手にいれた。のんびり長く走るのもいいものだ。
6月15日 岩下賢治
絵は、多摩らしい畑の風景と、玉虫。