僕は、毎週木曜日の夜7時から8時半まで、ランニング仲間と一緒に、東京の神宮外苑の絵画館回りと、赤坂迎賓館回りで、練習をしている。この2週間ほど前、走りながら気が付いたのだが、迎賓館西門の石垣の上の花壇両側200メートルほどにわたり、ランの仲間、春蘭が植えられている。
これには少々驚いた。というのは、以下のような経験があるからだ。
僕は、2年前まで、13年間仕事の関係で、茨城県北西部に住んでいた。当地に赴任にした当時、山野草に詳しい人と、山野を歩き、春蘭の群生に出会った。彼は大喜びで幾く株も掘り出し持って帰って行った。僕はよく知らなかったが、春蘭は当地でも珍しく、その後自然の中で出会うことなく、直売店で、鉢植えの姿で安からぬ値段がつけられているのを見るだけであった。
ランといえば鑑賞用につくられたハデハデの花を思い浮かべるが、それは「洋ラン」のこと。日本では古来、春蘭のように自然のランをそのまま株分けして珍重してきたがこれを「東洋ラン」として区別しているようだ。春蘭は地味な植物で、関心のない人は気が付かないだろう。「ラン展」などが開かれ出品されるのは人の目をひく「洋ラン」だろう。・・・・したがい、東京ではもう春蘭に出会うことはないだろうと思っていた。
ところで、迎賓館西門の花壇にいつごろから春蘭を植えているのだろう。僕が気が付いたのは、2週間ほど前だが、おそらく最近のことだろう。東京には海外からのお客さんが増えている。迎賓館として、しとやかで控えめなランを植え、「日本らしさ」をみせようとしているのかな?・・・迎賓館そのものはベルサイユ宮殿を模しているようだが前庭は芝生に松だけという極めてシンプルな日本的なものになっている。
さて、僕は最近、膝を故障し、ランニングはゆっくりだ。従い、視線はまっすぐ前だけでなく、周囲を観察しながら走る余裕がある。このゆっくり走ることで、春蘭を見つけることができたのかもしれない。そう思うと膝の痛みにも少々救われる。
絵は迎賓館西門の風景。枠内は春蘭。
2017年4月10日 岩下賢治