紅梅が咲き始めました。
オンデマンドという言葉を業務として最初に使ったのは出版業界であった。オンデマンドというのは、求めに応じてすぐに対処できるということ。出版でいえば絶版された本を少部数でも即座に作るという技術工程をさす。例えば夏目漱石の「吾輩は猫である」の初版本と同じ物を二冊欲しいと言う時、かつての印刷方式では商業上の対応はほとんど不可能であったが、こうした要望に対して短時間で比較的安価に製作できるというシステムのことを言う。
従来、出版というのは同時多数の制作が趣旨であった。一冊づつ手作りで作るのではなく、一気に多数を刷りあげることがメリットで、この工程があることによって、今日の新聞や雑誌が製作されるようになり、ひいてはジャーナリズム発生の元となった。グーテンベルクが開発されたと称される印刷技術は、同時に近代文明の後押しの役割を果たしてきたわけである。
重複するが、活字を拾い印刷工程にかける旧来のプロセスに対し、活字拾いから印刷工程に至る全ての全過程を技術革新によって一気に踏破、出版できるというシステムがオンデマンド出版である。このような印刷が可能になったのは、印刷システムの眼を見張るような技術革新である。その革新については専門家に聞くことが一番だが、私たちの周辺から印刷業を営む営業所や印刷工場がすっかり姿を消したことから、そのイノベーションの規模を想像できると思う。
このオンデマンドシステム、出版印刷以外の分野でも、例えばアスクルといった文具の配送業者、更にはアマゾンのような巨大な受注業者にも応用され、注文すれば即座に送り届けるというシステムが完成されつつある。
かつて資本主義の勃興期においては過剰生産が避けがたい根本的な矛盾として経済問題の中心であった。そこから経済恐慌が起こり、そのための防御としていつでも10%前後の労働予備軍が配置されているというのがマルクス主義の定説であった。需要と供給のアンバランスが逃れられない宿命とされたのである。
オンデマンドはこの矛盾を解決する一つの方法ともいえる。敷衍しすぎるかもしれないが、トヨタ自動車が採用した部品の納入システム、いわゆるトヨタシステムが生産工程でのオンデマンドだろう。
このオンデマンドシステム、生鮮野菜の生産過程に採用できないのか? というのが私の長年の願望である。最近では雪の影響があって野菜が高騰。そして少し悪天候が続くと野菜の価格が大きく変動する。この影響を被るのは、消費者ばかりではない、生産者にとっても打撃が大きい。以前に当ブログで何回か触れたことがあるが、この問題の解決方法は、農業生産を気候に依存する産業から脱皮させ、オンデマンドの生産様式に変えることである。口で言うように簡単なことではないが、電気エネルギーを縦横に使うことによって、この転換は容易だと思う。
私たちは十数年後には露地物の野菜より栄養価の高い、新鮮な野菜を季節の変動に関わりなく摂取することになっていると思う。高価な露地物をありがたって食べているのは、一部お金持ちである時代が目にみえるようだ。【彬】