春の花と言えば、梅と桜。どちらも好きだが、日本的情緒のある梅の方に、なぜか魅かれる。小金井公園の梅祭りに絡め、花見に行こう行こうと思いつつ行けないでいた。
それでも、3月11日の日曜日の午後、出かけることができた。
小金井公園は桜で有名である。園内に桜の広い敷地が広がる。梅林は、その横に設けられている。28種、100本ほどである。この日は、満開を過ぎた時期だが、日差し温かく、多くの客が来園している。桜と違うのは、木の下での宴会がないことだ。静かに、清楚な姿と香りを楽しんでいる。
僕は、東屋のベンチに腰掛け花見。温かくうとうと眠りを誘う。・・・この2~3月は忙しかったが、こうして今年も、梅を楽しむことが出来た。季節ごとの楽しみを普通に楽しむことは幸せなことだな、と思う。
7年前の3月11日。僕は、大震災を、茨城県の勤務先で体験した。震度6度強でかなりの被害を受けた。翌日、休業となり、住まいのある常陸大宮市の街の様子を歩いて見て回った。倒壊した家は少ないが、塀は倒れ、瓦が飛ばされている。人の営みが停止している。
辛さで胸が押しつぶされそうになる。そんななか、偶然梅林に入る。梅の花は満開である。暗闇を抜け、花園にたどり着いた気持ちになった。持っていたスケッチブックを取り出し、梅の枝木を描く。そして、その時の気持ちを次のように書き添えた。
「大震災の翌日。大宮の街を歩く。商店は全てシャッターを下ろし、人間の活動はとまっていた。その中で、梅の花はいつものように何事もなかったようにそこにある。つらい時、優しい友に会ったかの思いで描いた。」
この時、以前、そして、それ以降も、僕にとって、梅の花は特別な春の花なのである。
絵は小金井公園の梅林。
2018年3月12日 岩下賢治