私は高所恐怖症である。東京タワーの展望台でさえ、頭痛がして窓際まで行くのは遠慮している。そんな性癖からすると、凍結した冬山の稜線の上に張られた高圧電線に跨り、補修点検作業をしている人にはただ敬意を表するのみ。また、街中でよく見かけるゴンドラに乗って、高層ビルの窓拭きをする人、これにも恐れ入るだけである。
それにも増して、表通りに面した並木に登り、枝下ろしをしている職人さんを見たときには、びっくりした。目が離せなかった。
木はユリノキ。植樹して40年にはなろうかとする大きな木である。ビルの3~4階に相当する高さだから、12~3メートルはあろうか。その木の主幹の先端にロープをかけ、それを命綱としている。揺れ動く中でのロッククライミングのようである。しかも、ただぶら下がっているのではない。脇枝にそって体を斜めにし、徒長枝など無駄な枝を、ノコギリで切ったり、剪定バサミで枝下ろししている。その手際のよさ、素早さ、神業でしかない。
私はしばらく見惚れていた。
そばにはクレーンで同じ作業している職人もいたが、乗っているゴンドラがかすかに揺れ、これも恐ろしいほどの仕事であることにかわりない。
風雨に耐えるよう樹形を整え、これを維持していくのは大変なことなのだ。【彬】