のんびりぽつぽつ

日常のこと、本のこと、大好きなこと・・・
いろいろ、と。
のんびりと。

「六番目の小夜子」

2005年07月28日 22時06分21秒 | ★★恩田陸
恩田 陸 著 新潮文庫

娘が中学校の図書委員のおたよりを持ち帰ってきたのは5月のはじめ。
そこに、「オススメの本!」と、委員会の3年生の生徒が紹介していたのがこの本でした。
これは、少し前にNHKでドラマ化されていて、とぎれとぎれではあったのですがとても気に入って見ていた作品。
その原作の本だ~と、
「お願い!図書室で借りてきて!」
と娘に頼んでおりました。
ところが・・・ちっとも彼女は借りてきてくれません。そもそも図書室に行ってもいないらしい。
そして夏。
本屋さんに夏休み向け(?)にたっぷりと本が並びます。

・・・・・見つけてしまいました。「Yonda?」のパンダくんの黄色い帯と一緒にこの文庫本。

これは、ある高校にもう十数年も続く、ひとつの不思議なゲームにまつわるお話。
県下でも有数の進学校である学校内に続いている「サヨコ」といわれるゲーム。3年に一度、「サヨコ」と呼ばれる生徒が選ばれ、その生徒がルールにのっとって一年間まわりに気づかれずに事を行えれば、その年の大学進学率は大変によくなる、といわれるもの。
その6番目にあたる年、実際に「津村沙世子」という美貌の転校生が3年10組に転入したことから起こる、少々怖くまた高校時代最後の甘酸っぱい香も漂う学園生活を、描き出す。
「サヨコ」としてのバトンを渡され、兄は見事に演じ切り姉は「沈黙のサヨコ」と呼ばれた兄と姉を持つ関根秋。その友人でカンが鋭い唐沢由紀夫、彼に恋心を抱く花宮雅子、そこに津村沙世子が加わった4人の友情と恋愛もからめつつ、「サヨコ」に関する謎解きが始まる。
読み勧めていて懐かしく、怖く、切ない。
こんな学生時代があったよね、と思いながら、「サヨコ」の怖さ、不思議さに惹かれていく。

作品中、秋の父親がいいます。
「それはお客様だな」と。秋がこの不思議なゲームと津村沙世子を話したときに。
そして物語の最後。なんとなく不明瞭なまま謎解きを終えるときに秋がいいます。
「僕たちがお客様だったんだ」と。
転校生。それはやっぱり不思議で興味深く、でもちょっと受け容れがたい存在なのかな。
安定していた水面に小石が落ちて波紋が広がる・・そんな存在。
義務教育時代、転校生をやっていた私は、お父さんの言葉にちょっと複雑で、そして秋の言葉に苦笑しつつうなずいていたのでした。

このお話を、とてもとても懐かしく感じるのは、昔NHKで放映していた「少年ドラマシリーズ」の雰囲気に非常に良く似ていたから。
あの、怖いけれど覗きたくって、不思議なんだけれどどこか判る感覚。夢中になって見ていたドラマ。その雰囲気が、この物語全体に散りばめられていたように思います。そして。
著者のあとがきに・・・なんと「少年ドラマシリーズへのオマージュとして書いた」とありました。
この作品をドラマ化したNHKのスタッフもまた、かのシリーズのファンであり同世代の人たちだった、と。

当時中学生だった(のかな?)私たちから今の中学生である娘たちへ。この本をバトンしようと思います。
どんな感想を持つのかな。ちょっと楽しみ。ちょっと不安。
コメント (6)
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「春になったら莓を摘みに」

2005年07月28日 12時08分30秒 | ★★梨木香歩
梨木香歩 著 新潮社

梨木さんの書き下ろしエッセイ集。
今までいくつかの本を読んで、とてもこの「作者自身」に興味を持った私。

このエッセイは、何回も短期滞在をしているイギリスとカナダの2箇所でのお話がつづられます。
著者が英国留学時代をすごした、下宿の女主人ウェスト夫人(児童文学者ベティ・モーガン・ボーエン)にどんな風に影響を受け、視野を広めていったのかがよくわかる本になっていました。
ウェスト夫人の「理解は出来ないが受け容れる」徹底した博愛精神。
それが、梨木さんの作品に少なからず影響をし、作品群に潜む、あの確固とした1つの考え方の基本になっている気がします。
実際、読み進むにつれて、ほんとうに「からくりからくさ」の4人の共同生活の現実版がここにあるように感じ、「西の魔女が死んだ」のあのおばあちゃんとの夏がそこにあるように思います。
どんな人の考え方も受け容れ、でも自分を見失わず確固とした信念を持っているウェスト夫人は、けれどもその考え方を決して人に押し付けない。
こんな人に出会えるなんて、なんという「縁」でしょう。

この留学時代にこの下宿に住まなかったら、彼女がたとえ作家の道を歩んだとしても、こういう作品になったかどうか・・?

梨木さんの作品に違和感を覚えることも多々あったりしたのですが、そういう面でも「理解」ができるように思います。
もう一度、違和感のある作品を読んだら、また違う印象を持ちそうです。

エッセイ集ですが、どこかに物語も潜んでいる、そんな本でした。
コメント (4)
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