7月3日、ウクライナは、ルハンスク州のリシチャンスクから軍を撤退させた。ドンバス地方では、ロシア軍が優勢だ。
しかし、ロシア軍の損耗も大きい。
現在、ロシア軍の攻勢が東部地域に限定されているのは、戦力損耗が大きく戦闘能力の限界に近付いているためだと、元幹部学校戦略教官室副室長の西村 金一氏。
欧米からの武器支援が徐々に届き、訓練を経て前線に配備され、稼働始める 7月下旬から 8月下旬にかけて、ウクライナ軍の反転攻勢が強まると。
現在、ロシア軍の攻勢が東部地域に限定されているのは、戦力損耗が大きく戦闘能力の限界に近付いているためだと西村氏。
米欧諸国が供与したジャベリンなどの対戦車ミサイル、誘導砲弾等兵器、自爆型無人機などの成果があるからだと言っても過言ではないと。
ウクライナ軍によるこれらの兵器の運用、特にロシア軍砲兵に向けて射撃する「対砲兵戦」のイメージ、現実の成果と予測、南部戦線の戦況との関係について、考察すると。
最も効力を発揮する射撃目標は、ウクライナ軍の最前線部隊を制圧するために砲撃してくる火砲等部隊。
これらは、最前線部隊の戦車や装甲車よりも、10~20キロ後方に位置していていることから、射撃して破壊できるのは特別の兵器に限定される。
例えば、対地攻撃機、自爆型無人機、誘導砲弾等兵器、短距離ミサイルなどだと。
最も効果が高いのは、命中精度が良好な誘導砲弾等兵器なのだそうです。
しかし、火砲等の射撃の場合は、弾道が弧を描いて射撃する間接照準射撃であることから、目標に命中させることは難しい。
ところが、米欧仏が供与している火砲の誘導砲弾(M982)は、約40~60キロの射程があり、命中精度は半数必中界(CEP)が5~20メートル。
つまり、直径10~40メートルの円の中に2発撃ち込めば、1発は入る。ロシア軍の火砲等1門に3~5発発射すれば、ほぼ命中すると考えてよいと。
30発発射すれば、6~10門程度破壊することが可能であろう。もしも、周辺の弾薬集積所に命中すれば、それ以上の破壊が可能になるのだそうです。
米欧から、火砲等と誘導砲弾等が供与されたが、その成果は現れているのだろうか。
データを見る限りでは、米欧が供与した火砲等による戦果が現れているとはいえない。
ウクライナ軍の砲兵部隊もロシア軍に破壊されていると考えれば、ロシア軍火砲等の損失は徐々に減少傾向にあってよいはずだ。
しかし、そうなってないのは、徐々に供給されている米欧の火砲の成果が少しずつではあるが上がってきているのではないかと考えると西村氏。
ロシア軍の多連装ロケット発射機の損失数の推移を見ると、6月9日からの2週間が、損失が最も多かった侵攻開始から2週間とほぼ同じになっている。
6月のこの時期、ウクライナ軍は、ロシアの多連装ロケット発射機を狙って射撃したことで、大きな戦果を得ることができたとみてよい。
ほかにも、4月14日の週、5月5日の週にも比較的大きな戦果を上げていると。
米欧は、ウクライナ軍に一度に大量に供与してもすぐには使うことができないので、徐々に供与して、訓練を行って最前線部隊に到着できるようにしている。
ウクライナ参謀部からの、最近の1か月のへルソン州など南部の情報を見ていると、「ロシア軍の弾薬庫を攻撃して破壊した」という情報が何度も散見されたと西村氏。
また、ロシア軍がクリミア半島からへルソン州の軍部隊に弾薬を運搬しているという情報も確認できた。
この情報は、ロシア軍の弾薬庫が破壊されて、弾薬が不足していることを証明しているのだそうです。
弾薬庫への攻撃ができるようになったということは、精密誘導兵器とその誘導砲弾等が地上軍の最前線に配属され、最も効果的が出る目標を先に狙って射撃できるようになったということである。
実際に、戦果を上げているということを裏づけるものであると。
すべての誘導砲弾等兵器や精密誘導弾等が供与され、使用できるようになるのは、7月下旬から8月下旬だろうと、西村氏。
この時期になれば、失地をかなり回復していると予想できると。
損耗が限界に近付いているロシア軍に対して、戦闘で必要とされる優れた兵器が十分に供給され、最前線に送られ使用されるようになれば、ウクライナ軍の反撃が実行され、その戦果が出るという当然の戦理であるしと、西村氏。
米欧勢の国内に、えん戦機運が生じ始めているとの報道が散見されます。7月下旬から8月下旬の反転攻勢で、各国の支援の効果が示されることに期待します。
岸田政権にも、一層の国際包囲網への参画を願います。
# 冒頭の画像は、米軍の「ハイマース」発射訓練
この花の名前は、モナルダ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
しかし、ロシア軍の損耗も大きい。
現在、ロシア軍の攻勢が東部地域に限定されているのは、戦力損耗が大きく戦闘能力の限界に近付いているためだと、元幹部学校戦略教官室副室長の西村 金一氏。
欧米からの武器支援が徐々に届き、訓練を経て前線に配備され、稼働始める 7月下旬から 8月下旬にかけて、ウクライナ軍の反転攻勢が強まると。
弾薬庫を狙い撃ちされ、戦闘不能に陥り始めたロシア軍 ウクライナ軍への訓練が浸透、効果上げ始めた欧米最新兵器 | JBpress (ジェイビープレス) 2022.7.11(月) 西村 金一
7月3日、ウクライナは、ルハンスク州のリシチャンスクから軍を撤退させた。ドンバス地方では、ロシア軍が優勢だ。だがその範囲は狭い。
一方で、ウクライナ参謀部の発表によれば、6月末までにロシア軍戦車軍団の戦車・装甲歩兵戦闘車を約1600両(投入数の22%損耗)、装甲兵員輸送車等を3700両(50%損耗)合計5300両(43%損耗)、火砲・多連装砲合計の約1040門(46%損耗)を破壊した。
ウクライナ軍の発表であることから、少し割り引いてみても、かなり大きな損失数だ。ロシア軍は、最後の力を振り絞って戦っているように見える。
6月末までの戦車等と火砲等の損失・損耗率
用語の使い方
火砲等とは:火砲および多連装ロケット発射機とそのシステム(以後、多連装ロケット発射機)
誘導砲弾等とは;火砲の誘導砲弾および誘導可能な多連装ロケット
誘導砲弾等兵器とは:誘導砲弾を発射できる火砲および多連装ロケット発射機(ウクライナ軍に供与された火砲は155mm榴弾砲)
「ハイマース(High Mobility Artillery Rocket System)」とは:米国が供与した多連装ロケット発射機(6発搭載)
「M270」とは:英国(米国企業が開発したもの)が供与した多連装ロケット発射機(12発搭載)
1.「対戦車戦」から「対砲兵戦」に
現在、ロシア軍の攻勢が東部地域に限定されているのは、戦力損耗が大きく戦闘能力の限界に近付いているためだ。
米欧諸国が供与したジャベリンなどの対戦車ミサイル、誘導砲弾等兵器、自爆型無人機などの成果があるからだと言っても過言ではない。
厳しい戦いの中にあって、ウクライナ軍には、米国から6発連射の多連装ロケット発射機「ハイマース」を、英国から同じシステムだがハイマースの2倍の12発連射の「M270」を合計50基以上、米国・フランス・ドイツから155mm榴弾砲を250門以上供与されることになっている。
これらの誘導砲弾等兵器は、今後の戦況を大きく変える兵器だと言われている。
しかし、ウクライナ軍が、誘導砲弾等兵器でロシア軍の火砲・多連装ロケット発射機(以後、「火砲等」)を、どのように破壊しているのか、そしてその戦果については不明である。
そこで、ウクライナ軍によるこれらの兵器の運用、特にロシア軍砲兵に向けて射撃する「対砲兵戦」のイメージ、現実の成果と予測、南部戦線の戦況との関係について、考察する。
2.ロシア軍の火砲をどう破壊するのか
ウクライナ軍の誘導砲弾等兵器は、どこの何を狙って精密誘導砲の弾丸やロケットを射撃するのか。
最も効力を発揮する射撃目標は、ウクライナ軍の最前線部隊を制圧するために砲撃してくる火砲等部隊だ。
これらは、最前線部隊の戦車や装甲車よりも、10~20キロ後方に位置していていることから、射撃して破壊できるのは特別の兵器に限定される。
例えば、対地攻撃機、自爆型無人機、誘導砲弾等兵器、短距離ミサイルなどだ。
対地攻撃機は、火砲等の位置まで飛行しても防空ミサイルが配備されていれば撃墜されることから、現状では運用することが難しい。
短距離ミサイルで1門の火砲を破壊することは、費用対効果が悪い。
自爆型無人機は、命中精度は良いものの破壊力が小さく、火砲等を破壊するための最適な兵器ではない。
最も効果が高いのは、命中精度が良好な誘導砲弾等兵器だ。
誘導砲弾等を大量に撃ち込めば、破壊力も大きく、火砲・弾薬・操作人員をまとめて破壊することが可能だ。
とはいえ、火砲等で敵国軍の火砲等を破壊することは簡単なことではない。
対戦車ミサイルは直接照準射撃で、直接目視で確認して射撃すれば命中する。操作も比較的容易だ。
しかし、火砲等の射撃の場合は、弾道が弧を描いて射撃する間接照準射撃であることから、目標に命中させることは難しい。
誘導が可能な誘導砲弾等兵器が出現する以前の火砲(旧来の火砲)は、20キロ離れた目標に射撃すれば、1~2キロの誤差があるのが通常のことだった。
3.米英仏から供与された誘導砲弾の凄さ
ところが、米欧仏が供与している火砲の誘導砲弾(M982)は、約40~60キロの射程があり、命中精度は半数必中界(CEP)が5~20メートル。
つまり、直径10~40メートルの円の中に2発撃ち込めば、1発は入ることになる。
ロシア軍の火砲等1門に3~5発発射すれば、ほぼ命中すると考えてよい。
30発発射すれば、6~10門程度破壊することが可能であろう。もしも、周辺の弾薬集積所に命中すれば、それ以上の破壊が可能になる。
誘導砲弾M982エクスカリバー弾、多連装ロケット発射機「ハイマース」
米国や英国から供与された多連装ロケット発射機(システム)(米国のハイマースや英国のM720)は、射程が約80キロで、CEPは20メートル以下である。
前述の誘導砲弾と同じGPS誘導であることから、M982誘導砲弾とほぼ同じ精度と見てよいだろう。
旧来火砲と米欧供与の火砲等の射撃の違い
4.目標に命中させるにはシステム運用が必要
「対砲兵戦」では、敵国軍の火砲等よりも長射程で、命中精度が良くなければならない。
敵火砲等部隊を発見したら、直ちに砲弾等を撃ち込まなければならない。
現代戦では、火砲が射撃すれば発見され、撃ち返しによって反撃を受けるので、射撃後、直ちに別の陣地に移動する。
どこの砲兵部隊も、このための訓練を日々実施している。
実際に、ロシア軍火砲等を迅速に発見し、狙って射撃し、破壊することは可能か。まず、
①自軍の火砲の位置をGPS測量機器を使って測量する(自己位置決定)。
②観測用ドローン、対砲レーダーを使用して敵火砲等を発見する(目標位置決定)。
③続いてその正確な位置を射撃指揮システムに通報し、火砲等の位置と目標位置の関係、さらに気象条件などを加味して射撃諸元を算定する。
④その諸元を各火砲に設定し射撃する。通常の砲弾等や誘導砲弾等の場合でも、システムの運用は同じだ。誘導砲弾等は、GPS誘導によって正確な目標位置まで飛翔して、ほぼ命中する。
このように、火砲等から弾丸等を発射し正確に目標に命中させるには、米・英・独・仏国の火砲等と誘導砲弾等を得なければならない。
その上でシステムとして機能するように、教育する人員、ある程度の知識と経験がある兵士も必要だ。
多くの時間を使って訓練を実施しなければならない。火砲等を受領してから、少なくとも1~2か月はかかるのは当然のことだ。
米欧供与の火砲等がシステムで運用される場合のイメージ
5.射撃には対砲レーダーが不可欠
これらの手順の中で、最も重要なのが、ロシア軍の火砲が射撃している極めて短時間に、その位置を発見すること(目標位置決定)だ。
発見するには、3つの方法がある。
①砲弾等観測能力がある特殊部隊兵が、敵地に潜入して、火砲等位置を発見する。
②観測ドローンを使って、射撃している火砲等の位置を特定する。
日本が約30機提供しているが、どれほどの機能があるのかは分からない。対砲兵戦をするには、最前線から20~30キロまで離れた地域まで飛行して、情報を提供できるものでなければならない。
③対砲レーダーで、ロシア軍の火砲等弾の飛翔から、射撃位置を算定する。
米国から供与された多連装ロケット発射機「ハイマース」がかなり注目されたが、このハイマースを効果的に使用するには、対砲レーダーがセットでなければならない。
6.実際の戦果は上がっているのか
先ほど、敵国軍の火砲等を攻撃(破壊)することは、前線から離れているので難しいと述べた。なぜかというと、発見することが難しい上、遠距離であるため、射撃距離が長い火砲等でなければ届かないからだ。
米欧から、火砲等と誘導砲弾等が供与されたが、その成果は現れているのだろうか。
2月24日~6月末までの週間ごとの、ロシア軍の火砲等の損失数のデータを見ると、侵攻当初の4週間までは、多くの火砲等を破壊し、それ以降では、毎週40門前後を破壊し続けている。
この数字は、ウクライナ軍が以前から保有していた火砲や対砲レーダーを使用しての戦果であろう。
ロシア軍の火砲・多連装砲損失数の推移
これらのデータを見る限りでは、米欧が供与した火砲等による戦果が現れているとはいえない。
ウクライナ軍の砲兵部隊もロシア軍に破壊されていると考えれば、ロシア軍火砲等の損失は徐々に減少傾向にあってよいはずだ。
しかし、そうなってないのは、徐々に供給されている米欧の火砲の成果が少しずつではあるが上がってきているのではないかと考える。
ロシア軍多連装ロケット発射機損失数の推移
ロシア軍の多連装ロケット発射機の損失数の推移を見ると、6月9日からの2週間が、損失が最も多かった侵攻開始から2週間とほぼ同じになっている。
6月のこの時期、ウクライナ軍は、ロシアの多連装ロケット発射機を狙って射撃したことで、大きな戦果を得ることができたとみてよい。
ほかにも、4月14日の週、5月5日の週にも比較的大きな戦果を上げている。
4月からの戦果は、米欧から供与された榴弾砲と誘導砲弾が最前線に配属され、6月9日からの戦果は、誘導可能なロケットを備えたハイマースやMLRSが配属されて、使用されてきたからであろう。
とはいえ、ハイマースの場合、当初4基、その後4基という具合に徐々に供与されていることから、目覚ましい戦果には至ってはいないのだろう。
また、前述したように火砲やロケット砲を使いこなせるようになるには、相当の時間をかけた訓練が必要である。
米欧は、ウクライナ軍に一度に大量に供与してもすぐには使うことができないので、徐々に供与して、訓練を行って最前線部隊に到着できるようにしている。
7.戦果を上げつつある南部戦線
ウクライナ参謀部からの、最近の1か月のへルソン州など南部の情報を見ていると、「ロシア軍の弾薬庫を攻撃して破壊した」という情報が何度も散見された。
また、ロシア軍がクリミア半島からへルソン州の軍部隊に弾薬を運搬しているという情報も確認できた。
この情報は、ロシア軍の弾薬庫が破壊されて、弾薬が不足していることを証明している。
7月4日には、「ハルキウ州(南部戦線とは違う)の最前線に近い弾薬庫を攻撃した」という情報も出てきた。
弾薬庫への攻撃ができるようになったということは、精密誘導兵器とその誘導砲弾等が地上軍の最前線に配属され、最も効果的が出る目標を先に狙って射撃できるようになったということである。
実際に、戦果を上げているということを裏づけるものである。
発表では、これから供与されるのは、精密誘導可能な多連装ロケット発射機が50基以上、精密誘導弾を発射できる火砲が250門以上だ。
現段階では、おそらくウクライナ軍に供与された数量は少なく、約5分の1だと考えられる。
この少ない火砲等は、使用する地域が限定されるので、南部の戦線に重点に使っている可能性がある。
日本のメディアでは、ルハンシク州のロシア軍の戦果が頻繁に報道されている。
確かにウクライナ軍は押されて徐々に後退している。とはいえ、ロシア軍が東部に戦力を集中して攻撃していることを考えると、その戦果は大きいとは言えない。
一方で、へルソン州やザポリージャ州を見ると、徐々にではあるがウクライナ軍が失地を回復している。弾薬庫への攻撃もこの2州正面だ。
ケルソン州におけるウクライナ軍の攻勢と奪回地域(6月末の状況)
すべての誘導砲弾等兵器や精密誘導弾等が供与され、使用できるようになるのは、7月下旬から8月下旬だろう。
この時期になれば、失地をかなり回復していると予想できる。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月3日の演説で、「ウクライナ軍がロシア軍をスネーク島から撤退させたように、ドンバスについても同じことを言う日があるだろう」と述べた。
これは、期待だけではなさそうだ。
損耗が限界に近付いているロシア軍に対して、戦闘で必要とされる優れた兵器が十分に供給され、最前線に送られ使用されるようになれば、ウクライナ軍の反撃が実行され、その戦果が出るという当然の戦理である。
7月3日、ウクライナは、ルハンスク州のリシチャンスクから軍を撤退させた。ドンバス地方では、ロシア軍が優勢だ。だがその範囲は狭い。
一方で、ウクライナ参謀部の発表によれば、6月末までにロシア軍戦車軍団の戦車・装甲歩兵戦闘車を約1600両(投入数の22%損耗)、装甲兵員輸送車等を3700両(50%損耗)合計5300両(43%損耗)、火砲・多連装砲合計の約1040門(46%損耗)を破壊した。
ウクライナ軍の発表であることから、少し割り引いてみても、かなり大きな損失数だ。ロシア軍は、最後の力を振り絞って戦っているように見える。
6月末までの戦車等と火砲等の損失・損耗率
用語の使い方
火砲等とは:火砲および多連装ロケット発射機とそのシステム(以後、多連装ロケット発射機)
誘導砲弾等とは;火砲の誘導砲弾および誘導可能な多連装ロケット
誘導砲弾等兵器とは:誘導砲弾を発射できる火砲および多連装ロケット発射機(ウクライナ軍に供与された火砲は155mm榴弾砲)
「ハイマース(High Mobility Artillery Rocket System)」とは:米国が供与した多連装ロケット発射機(6発搭載)
「M270」とは:英国(米国企業が開発したもの)が供与した多連装ロケット発射機(12発搭載)
1.「対戦車戦」から「対砲兵戦」に
現在、ロシア軍の攻勢が東部地域に限定されているのは、戦力損耗が大きく戦闘能力の限界に近付いているためだ。
米欧諸国が供与したジャベリンなどの対戦車ミサイル、誘導砲弾等兵器、自爆型無人機などの成果があるからだと言っても過言ではない。
厳しい戦いの中にあって、ウクライナ軍には、米国から6発連射の多連装ロケット発射機「ハイマース」を、英国から同じシステムだがハイマースの2倍の12発連射の「M270」を合計50基以上、米国・フランス・ドイツから155mm榴弾砲を250門以上供与されることになっている。
これらの誘導砲弾等兵器は、今後の戦況を大きく変える兵器だと言われている。
しかし、ウクライナ軍が、誘導砲弾等兵器でロシア軍の火砲・多連装ロケット発射機(以後、「火砲等」)を、どのように破壊しているのか、そしてその戦果については不明である。
そこで、ウクライナ軍によるこれらの兵器の運用、特にロシア軍砲兵に向けて射撃する「対砲兵戦」のイメージ、現実の成果と予測、南部戦線の戦況との関係について、考察する。
2.ロシア軍の火砲をどう破壊するのか
ウクライナ軍の誘導砲弾等兵器は、どこの何を狙って精密誘導砲の弾丸やロケットを射撃するのか。
最も効力を発揮する射撃目標は、ウクライナ軍の最前線部隊を制圧するために砲撃してくる火砲等部隊だ。
これらは、最前線部隊の戦車や装甲車よりも、10~20キロ後方に位置していていることから、射撃して破壊できるのは特別の兵器に限定される。
例えば、対地攻撃機、自爆型無人機、誘導砲弾等兵器、短距離ミサイルなどだ。
対地攻撃機は、火砲等の位置まで飛行しても防空ミサイルが配備されていれば撃墜されることから、現状では運用することが難しい。
短距離ミサイルで1門の火砲を破壊することは、費用対効果が悪い。
自爆型無人機は、命中精度は良いものの破壊力が小さく、火砲等を破壊するための最適な兵器ではない。
最も効果が高いのは、命中精度が良好な誘導砲弾等兵器だ。
誘導砲弾等を大量に撃ち込めば、破壊力も大きく、火砲・弾薬・操作人員をまとめて破壊することが可能だ。
とはいえ、火砲等で敵国軍の火砲等を破壊することは簡単なことではない。
対戦車ミサイルは直接照準射撃で、直接目視で確認して射撃すれば命中する。操作も比較的容易だ。
しかし、火砲等の射撃の場合は、弾道が弧を描いて射撃する間接照準射撃であることから、目標に命中させることは難しい。
誘導が可能な誘導砲弾等兵器が出現する以前の火砲(旧来の火砲)は、20キロ離れた目標に射撃すれば、1~2キロの誤差があるのが通常のことだった。
3.米英仏から供与された誘導砲弾の凄さ
ところが、米欧仏が供与している火砲の誘導砲弾(M982)は、約40~60キロの射程があり、命中精度は半数必中界(CEP)が5~20メートル。
つまり、直径10~40メートルの円の中に2発撃ち込めば、1発は入ることになる。
ロシア軍の火砲等1門に3~5発発射すれば、ほぼ命中すると考えてよい。
30発発射すれば、6~10門程度破壊することが可能であろう。もしも、周辺の弾薬集積所に命中すれば、それ以上の破壊が可能になる。
誘導砲弾M982エクスカリバー弾、多連装ロケット発射機「ハイマース」
米国や英国から供与された多連装ロケット発射機(システム)(米国のハイマースや英国のM720)は、射程が約80キロで、CEPは20メートル以下である。
前述の誘導砲弾と同じGPS誘導であることから、M982誘導砲弾とほぼ同じ精度と見てよいだろう。
旧来火砲と米欧供与の火砲等の射撃の違い
4.目標に命中させるにはシステム運用が必要
「対砲兵戦」では、敵国軍の火砲等よりも長射程で、命中精度が良くなければならない。
敵火砲等部隊を発見したら、直ちに砲弾等を撃ち込まなければならない。
現代戦では、火砲が射撃すれば発見され、撃ち返しによって反撃を受けるので、射撃後、直ちに別の陣地に移動する。
どこの砲兵部隊も、このための訓練を日々実施している。
実際に、ロシア軍火砲等を迅速に発見し、狙って射撃し、破壊することは可能か。まず、
①自軍の火砲の位置をGPS測量機器を使って測量する(自己位置決定)。
②観測用ドローン、対砲レーダーを使用して敵火砲等を発見する(目標位置決定)。
③続いてその正確な位置を射撃指揮システムに通報し、火砲等の位置と目標位置の関係、さらに気象条件などを加味して射撃諸元を算定する。
④その諸元を各火砲に設定し射撃する。通常の砲弾等や誘導砲弾等の場合でも、システムの運用は同じだ。誘導砲弾等は、GPS誘導によって正確な目標位置まで飛翔して、ほぼ命中する。
このように、火砲等から弾丸等を発射し正確に目標に命中させるには、米・英・独・仏国の火砲等と誘導砲弾等を得なければならない。
その上でシステムとして機能するように、教育する人員、ある程度の知識と経験がある兵士も必要だ。
多くの時間を使って訓練を実施しなければならない。火砲等を受領してから、少なくとも1~2か月はかかるのは当然のことだ。
米欧供与の火砲等がシステムで運用される場合のイメージ
5.射撃には対砲レーダーが不可欠
これらの手順の中で、最も重要なのが、ロシア軍の火砲が射撃している極めて短時間に、その位置を発見すること(目標位置決定)だ。
発見するには、3つの方法がある。
①砲弾等観測能力がある特殊部隊兵が、敵地に潜入して、火砲等位置を発見する。
②観測ドローンを使って、射撃している火砲等の位置を特定する。
日本が約30機提供しているが、どれほどの機能があるのかは分からない。対砲兵戦をするには、最前線から20~30キロまで離れた地域まで飛行して、情報を提供できるものでなければならない。
③対砲レーダーで、ロシア軍の火砲等弾の飛翔から、射撃位置を算定する。
米国から供与された多連装ロケット発射機「ハイマース」がかなり注目されたが、このハイマースを効果的に使用するには、対砲レーダーがセットでなければならない。
6.実際の戦果は上がっているのか
先ほど、敵国軍の火砲等を攻撃(破壊)することは、前線から離れているので難しいと述べた。なぜかというと、発見することが難しい上、遠距離であるため、射撃距離が長い火砲等でなければ届かないからだ。
米欧から、火砲等と誘導砲弾等が供与されたが、その成果は現れているのだろうか。
2月24日~6月末までの週間ごとの、ロシア軍の火砲等の損失数のデータを見ると、侵攻当初の4週間までは、多くの火砲等を破壊し、それ以降では、毎週40門前後を破壊し続けている。
この数字は、ウクライナ軍が以前から保有していた火砲や対砲レーダーを使用しての戦果であろう。
ロシア軍の火砲・多連装砲損失数の推移
これらのデータを見る限りでは、米欧が供与した火砲等による戦果が現れているとはいえない。
ウクライナ軍の砲兵部隊もロシア軍に破壊されていると考えれば、ロシア軍火砲等の損失は徐々に減少傾向にあってよいはずだ。
しかし、そうなってないのは、徐々に供給されている米欧の火砲の成果が少しずつではあるが上がってきているのではないかと考える。
ロシア軍多連装ロケット発射機損失数の推移
ロシア軍の多連装ロケット発射機の損失数の推移を見ると、6月9日からの2週間が、損失が最も多かった侵攻開始から2週間とほぼ同じになっている。
6月のこの時期、ウクライナ軍は、ロシアの多連装ロケット発射機を狙って射撃したことで、大きな戦果を得ることができたとみてよい。
ほかにも、4月14日の週、5月5日の週にも比較的大きな戦果を上げている。
4月からの戦果は、米欧から供与された榴弾砲と誘導砲弾が最前線に配属され、6月9日からの戦果は、誘導可能なロケットを備えたハイマースやMLRSが配属されて、使用されてきたからであろう。
とはいえ、ハイマースの場合、当初4基、その後4基という具合に徐々に供与されていることから、目覚ましい戦果には至ってはいないのだろう。
また、前述したように火砲やロケット砲を使いこなせるようになるには、相当の時間をかけた訓練が必要である。
米欧は、ウクライナ軍に一度に大量に供与してもすぐには使うことができないので、徐々に供与して、訓練を行って最前線部隊に到着できるようにしている。
7.戦果を上げつつある南部戦線
ウクライナ参謀部からの、最近の1か月のへルソン州など南部の情報を見ていると、「ロシア軍の弾薬庫を攻撃して破壊した」という情報が何度も散見された。
また、ロシア軍がクリミア半島からへルソン州の軍部隊に弾薬を運搬しているという情報も確認できた。
この情報は、ロシア軍の弾薬庫が破壊されて、弾薬が不足していることを証明している。
7月4日には、「ハルキウ州(南部戦線とは違う)の最前線に近い弾薬庫を攻撃した」という情報も出てきた。
弾薬庫への攻撃ができるようになったということは、精密誘導兵器とその誘導砲弾等が地上軍の最前線に配属され、最も効果的が出る目標を先に狙って射撃できるようになったということである。
実際に、戦果を上げているということを裏づけるものである。
発表では、これから供与されるのは、精密誘導可能な多連装ロケット発射機が50基以上、精密誘導弾を発射できる火砲が250門以上だ。
現段階では、おそらくウクライナ軍に供与された数量は少なく、約5分の1だと考えられる。
この少ない火砲等は、使用する地域が限定されるので、南部の戦線に重点に使っている可能性がある。
日本のメディアでは、ルハンシク州のロシア軍の戦果が頻繁に報道されている。
確かにウクライナ軍は押されて徐々に後退している。とはいえ、ロシア軍が東部に戦力を集中して攻撃していることを考えると、その戦果は大きいとは言えない。
一方で、へルソン州やザポリージャ州を見ると、徐々にではあるがウクライナ軍が失地を回復している。弾薬庫への攻撃もこの2州正面だ。
ケルソン州におけるウクライナ軍の攻勢と奪回地域(6月末の状況)
すべての誘導砲弾等兵器や精密誘導弾等が供与され、使用できるようになるのは、7月下旬から8月下旬だろう。
この時期になれば、失地をかなり回復していると予想できる。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月3日の演説で、「ウクライナ軍がロシア軍をスネーク島から撤退させたように、ドンバスについても同じことを言う日があるだろう」と述べた。
これは、期待だけではなさそうだ。
損耗が限界に近付いているロシア軍に対して、戦闘で必要とされる優れた兵器が十分に供給され、最前線に送られ使用されるようになれば、ウクライナ軍の反撃が実行され、その戦果が出るという当然の戦理である。
現在、ロシア軍の攻勢が東部地域に限定されているのは、戦力損耗が大きく戦闘能力の限界に近付いているためだと西村氏。
米欧諸国が供与したジャベリンなどの対戦車ミサイル、誘導砲弾等兵器、自爆型無人機などの成果があるからだと言っても過言ではないと。
ウクライナ軍によるこれらの兵器の運用、特にロシア軍砲兵に向けて射撃する「対砲兵戦」のイメージ、現実の成果と予測、南部戦線の戦況との関係について、考察すると。
最も効力を発揮する射撃目標は、ウクライナ軍の最前線部隊を制圧するために砲撃してくる火砲等部隊。
これらは、最前線部隊の戦車や装甲車よりも、10~20キロ後方に位置していていることから、射撃して破壊できるのは特別の兵器に限定される。
例えば、対地攻撃機、自爆型無人機、誘導砲弾等兵器、短距離ミサイルなどだと。
最も効果が高いのは、命中精度が良好な誘導砲弾等兵器なのだそうです。
しかし、火砲等の射撃の場合は、弾道が弧を描いて射撃する間接照準射撃であることから、目標に命中させることは難しい。
ところが、米欧仏が供与している火砲の誘導砲弾(M982)は、約40~60キロの射程があり、命中精度は半数必中界(CEP)が5~20メートル。
つまり、直径10~40メートルの円の中に2発撃ち込めば、1発は入る。ロシア軍の火砲等1門に3~5発発射すれば、ほぼ命中すると考えてよいと。
30発発射すれば、6~10門程度破壊することが可能であろう。もしも、周辺の弾薬集積所に命中すれば、それ以上の破壊が可能になるのだそうです。
米欧から、火砲等と誘導砲弾等が供与されたが、その成果は現れているのだろうか。
データを見る限りでは、米欧が供与した火砲等による戦果が現れているとはいえない。
ウクライナ軍の砲兵部隊もロシア軍に破壊されていると考えれば、ロシア軍火砲等の損失は徐々に減少傾向にあってよいはずだ。
しかし、そうなってないのは、徐々に供給されている米欧の火砲の成果が少しずつではあるが上がってきているのではないかと考えると西村氏。
ロシア軍の多連装ロケット発射機の損失数の推移を見ると、6月9日からの2週間が、損失が最も多かった侵攻開始から2週間とほぼ同じになっている。
6月のこの時期、ウクライナ軍は、ロシアの多連装ロケット発射機を狙って射撃したことで、大きな戦果を得ることができたとみてよい。
ほかにも、4月14日の週、5月5日の週にも比較的大きな戦果を上げていると。
米欧は、ウクライナ軍に一度に大量に供与してもすぐには使うことができないので、徐々に供与して、訓練を行って最前線部隊に到着できるようにしている。
ウクライナ参謀部からの、最近の1か月のへルソン州など南部の情報を見ていると、「ロシア軍の弾薬庫を攻撃して破壊した」という情報が何度も散見されたと西村氏。
また、ロシア軍がクリミア半島からへルソン州の軍部隊に弾薬を運搬しているという情報も確認できた。
この情報は、ロシア軍の弾薬庫が破壊されて、弾薬が不足していることを証明しているのだそうです。
弾薬庫への攻撃ができるようになったということは、精密誘導兵器とその誘導砲弾等が地上軍の最前線に配属され、最も効果的が出る目標を先に狙って射撃できるようになったということである。
実際に、戦果を上げているということを裏づけるものであると。
すべての誘導砲弾等兵器や精密誘導弾等が供与され、使用できるようになるのは、7月下旬から8月下旬だろうと、西村氏。
この時期になれば、失地をかなり回復していると予想できると。
損耗が限界に近付いているロシア軍に対して、戦闘で必要とされる優れた兵器が十分に供給され、最前線に送られ使用されるようになれば、ウクライナ軍の反撃が実行され、その戦果が出るという当然の戦理であるしと、西村氏。
米欧勢の国内に、えん戦機運が生じ始めているとの報道が散見されます。7月下旬から8月下旬の反転攻勢で、各国の支援の効果が示されることに期待します。
岸田政権にも、一層の国際包囲網への参画を願います。
# 冒頭の画像は、米軍の「ハイマース」発射訓練
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