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2022年5月、ウクライナの軍幹部や実業家が数人集まり、ロシアの侵攻を食い止めた自国の目覚ましい戦果に祝杯を挙げていた。酔いや愛国心から気分が高揚する中、誰かが過激な次の一手を発案した。ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」を破壊してはどうか。
ロシア産ガスを欧州に運ぶ2本のパイプライン(ノルドストリーム1と2)は結局のところ、クレムリン(ロシア大統領府)の軍事機構に何十億ドルもの資金を供給している。
プーチン大統領に自らの侵攻の代償を払わせるために、これ以上良い方法があるだろうか。
それから4カ月余り後の9月26日未明、北欧の地震学者たちは数百キロ離れたバルト海に浮かぶデンマークのボーンホルム島付近で、海底地震または火山の噴火を示すシグナルを検知した。
現代史上、屈指の大胆な破壊工作となったこの作戦は、欧州のエネルギー危機を悪化させた。国際法の下では重要インフラへの攻撃は戦争行為とみなされかねない。犯人は誰なのかを巡り、諸説が飛び交った。米中央情報局(CIA)なのか。プーチン氏自身が計画を実行に移したのか。
その真相がいま初めて明らかになりつつある。ウクライナが行った作戦の費用は約30万ドル(約4500万円)だったと、作戦の参加者らは明かす。
作戦の参加者らは明かす。小型ヨットを借り、経験豊富な民間ダイバーなど6人が乗り込んだ。うち1人は女性だった。彼女の存在もあって、乗組員は遊覧クルーズを楽しむ友人グループのような雰囲気を演出することができたと。
「全ては浴びるほど飲んだ一夜と、国家のために命を賭す気概がある一握りの人々の固い決意から生まれたものだ」と、ボジャン・パンチェフスキー記者。
参加した将校と事情に詳しい関係者3人によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は当初、この計画を承認した。だが後にCIAの知るところとなり、ゼレンスキー氏に撤回を求めたことから、同氏は中止を命じたという。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官(当時)は、それでも作戦を強行した。
ウクライナの情報機関である保安局(SBU)の幹部は、同国政府による破壊工作への関与を否定し、中でもゼレンスキー氏は「第三国の領内でそのような活動を実施することを承認しなかったし、関連する命令を出したこともない」と述べた。
ドイツの連邦検察は6月、ウクライナ人のダイビング・インストラクターが破壊工作に関与した疑いがあるとして、この事件で初となる逮捕状をひっそりと発行した。
だが裁判に提出できるような証拠は見つかっていないと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
この捜査に詳しいドイツ政府高官は、NATOの集団的自衛権を発動させるに十分な理由だが、われわれの重要なインフラを爆破したのは、大量の武器と巨額の資金でわが国が支援している国だと語ったのだそうです。
この計画に詳しい関係者4人によれば、数日以内にゼレンスキー氏はこの作戦を承認した。手配は全て口頭で行われ、文書は残さなかった。
しかしその翌月、オランダの軍情報保安局(MIVD)がこの計画を知り、CIAに警告を発した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。米独の当局者によれば、その後、米当局者は速やかにドイツに通知した。
CIAはウクライナ大統領府にも作戦を中止するよう警告したのだそうです。
ウクライナの将校や当局者、欧米の情報当局者によれば、ゼレンスキー氏はその後、作戦を中止するようザルジニー氏に命じた。だがザルジニー氏は命令を無視したと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
作戦指揮を任された司令官は、最精鋭を作戦のまとめ役として招集した。
そのうちの1人は、かつてウクライナ保安局に所属していたロマン・チェルビンスキー大佐。
チェルビンスキー氏は、破壊工作はウクライナにとって二つのプラス効果があったと語っているのだそうです。
一つは、ウクライナを支援する欧州諸国へのロシアの影響力を弱めるのに役立ったこと。もう一つは、ロシアが欧州にガスを送るための主な手段として、ウクライナ経由のパイプラインしかなくなったことだ。戦争中にもかかわらず、ウクライナはロシアの石油・ガスから年間数億ドルともみられる通行料を徴収していると。
チェルビンスキー氏と破壊工作チームは、ヨットを使い、6人のチーム(ベテランの現役兵士と海洋専門知識を持つ民間人で構成)で、海面下260フィート(約80メートル)以上にある全長700マイル(約1130キロメートル)のパイプラインを爆破する作戦で落ち着いた。
パイプラインを形成する4本の導管のうち3本が破壊されたこの攻撃を受け、エネルギー価格は急騰したと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
関係者3人によれば、ゼレンスキー氏はザルジニー氏を叱責(しっせき)したが、ザルジニー氏は受け流した。同氏はゼレンスキー氏に対し、破壊工作チームは出発したら連絡が取れず、彼らと接触すれば作戦が危うくなるため、中止させることはできないと伝えたと。
ゼレンスキー氏は今年、戦局を立て直すために改革が必要だとしてザルジニー総司令官を解任した。ウクライナ国内で政敵になる可能性があると目されていたザルジニー氏はその後、起訴を免除される駐英大使に任命されたと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
この作戦に関与した、あるいは作戦に詳しいウクライナ関係者は、指揮した将校を一人として裁判にかけることは不可能だと考えている。少なくとも、当初はパイプラインを爆破することで一致していた高官らの会話以上の証拠は存在しないのだから。
「自分の身を守るために彼らは誰も証言しないだろう」。元軍将校はそう話したと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
冒頭の画像は、ザルジーニ司令官(当時)
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ロシア産ガスを欧州に運ぶ2本のパイプライン(ノルドストリーム1と2)は結局のところ、クレムリン(ロシア大統領府)の軍事機構に何十億ドルもの資金を供給している。
プーチン大統領に自らの侵攻の代償を払わせるために、これ以上良い方法があるだろうか。
それから4カ月余り後の9月26日未明、北欧の地震学者たちは数百キロ離れたバルト海に浮かぶデンマークのボーンホルム島付近で、海底地震または火山の噴火を示すシグナルを検知した。
「ノルドストリーム」爆破事件の真相、始まりは酒場での会話 - WSJ
民間実業家が資金を出し、軍司令官が指揮、ゼレンスキー大統領の承認撤回も間に合わず
By ボジャン・パンチェフスキー 2024年8月16日
それは、閉店間際のバーでふと思いつく類いのとっぴな計画だった。
2022年5月、ウクライナの軍幹部や実業家が数人集まり、ロシアの侵攻を食い止めた自国の目覚ましい戦果に祝杯を挙げていた。酔いや愛国心から気分が高揚する中、誰かが過激な次の一手を発案した。ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」を破壊してはどうか。
ロシア産ガスを欧州に運ぶ2本のパイプライン(ノルドストリーム1と2)は結局のところ、クレムリン(ロシア大統領府)の軍事機構に何十億ドルもの資金を供給している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に自らの侵攻の代償を払わせるために、これ以上良い方法があるだろうか。
それから4カ月余り後の9月26日未明、北欧の地震学者たちは数百キロ離れたバルト海に浮かぶデンマークのボーンホルム島付近で、海底地震または火山の噴火を示すシグナルを検知した。それを引き起こしたのは、3回の強力な爆発と、デンマークの二酸化炭素(CO2)年間排出量に匹敵する過去最大の天然ガス漏えい事故だった。
現代史上、屈指の大胆な破壊工作となったこの作戦は、欧州のエネルギー危機を悪化させた。国際法の下では重要インフラへの攻撃は戦争行為とみなされかねない。犯人は誰なのかを巡り、諸説が飛び交った。米中央情報局(CIA)なのか。プーチン氏自身が計画を実行に移したのか。
その真相がいま初めて明らかになりつつある。ウクライナが行った作戦の費用は約30万ドル(約4500万円)だったと、作戦の参加者らは明かす。小型ヨットを借り、経験豊富な民間ダイバーなど6人が乗り込んだ。うち1人は女性だった。彼女の存在もあって、乗組員は遊覧クルーズを楽しむ友人グループのような雰囲気を演出することができた。
「情報機関や潜水艦、ドローン(無人機)、人工衛星を使った大がかりな作戦だとするメディアの臆測を読むと、いつも笑ってしまう」。作戦に関与した軍将校はこう語った。「全ては浴びるほど飲んだ一夜と、国家のために命を賭す気概がある一握りの人々の固い決意から生まれたものだ」
参加した将校と事情に詳しい関係者3人によると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は当初、この計画を承認した。だが後にCIAの知るところとなり、ゼレンスキー氏に撤回を求めたことから、同氏は中止を命じたという。
この取り組みを主導したウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官(当時)は、それでも作戦を強行した。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、この作戦に参加した、あるいは作戦を直接知っていたウクライナ防衛・治安当局の高官4人に話を聞いた。ノルドストリームはウクライナのロシアに対する防衛戦争の合理的な標的であると彼ら全員が述べた。
彼らの証言の一部は、この攻撃に関するドイツ警察の2年近くに及ぶ捜査で裏付けられた。警察はメールや携帯電話・衛星電話による通信のほか、破壊工作が疑われるチームの指紋やDNAサンプルなどの証拠を入手した。ドイツの捜査は、ゼレンスキー氏とこの極秘作戦を直接関連づけていない。
現在、駐英大使を務めるザルジニー氏はテキストメッセージのやり取りで、そのような作戦は一切知らないとし、逆のことを示唆するのは「単なる挑発」だと述べた。さらに、ウクライナの軍隊に国外任務を行う権限はなく、それゆえ自分が関与したはずがないとも述べた。
ウクライナの情報機関である保安局(SBU)の幹部は、同国政府による破壊工作への関与を否定し、中でもゼレンスキー氏は「第三国の領内でそのような活動を実施することを承認しなかったし、関連する命令を出したこともない」と述べた。
プーチン氏はこの攻撃について米国を公然と非難している。ドイツ駐在のロシア上級外交官も同じ主張を繰り返し、ドイツの調査結果は「グリム兄弟級のおとぎ話だ」と述べた。
ドイツの連邦検察は6月、ウクライナ人のダイビング・インストラクターが破壊工作に関与した疑いがあるとして、この事件で初となる逮捕状をひっそりと発行した。ドイツの捜査は現在、ザルジニー氏とその側近に焦点を当てている、と捜査に詳しい関係者は語る。だが裁判に提出できるような証拠は見つかっていないという。
捜査結果が場合によっては、ウクライナ政府と、米国に次ぐ規模の資金や軍装備品を供与してきたドイツ政府との関係を大きく変える可能性がある。ドイツの政治指導者たちは、戦争遂行努力に対する国内の支持を失うことを恐れ、ウクライナとの関連を示す証拠をあえて見過ごしてきたかもしれない。だがドイツ警察は政治的に独立しており、手掛かりを一つ一つ追跡するうちに捜査は独自の歩みをするようになった。
この捜査に詳しいドイツ政府高官は「この規模の攻撃は北大西洋条約機構(NATO)の集団的自衛権を発動させるに十分な理由だが、われわれの重要なインフラを爆破したのは、大量の武器と巨額の資金でわが国が支援している国だ」と語った。
2022年5月に実業家と軍幹部の間で結ばれた協定により、実業家が資金を提供し、この作戦の実行を支援することになった。軍には資金がなく、外国の資金援助にますます頼るようになっていたためだ。作戦参加者が「官民パートナーシップ」と呼ぶこの破壊工作を指揮したのは、特殊作戦の経験を持つ現職司令官だった。彼はザルジニー氏の直属だった。
この計画に詳しい関係者4人によれば、数日以内にゼレンスキー氏はこの作戦を承認した。手配は全て口頭で行われ、文書は残さなかった。
しかしその翌月、オランダの軍情報保安局(MIVD)がこの計画を知り、CIAに警告を発した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。米独の当局者によれば、その後、米当局者は速やかにドイツに通知した。
CIAはウクライナ大統領府に作戦を中止するよう警告した、と米当局者は語った。ウクライナの将校や当局者、欧米の情報当局者によれば、ゼレンスキー氏はその後、作戦を中止するようザルジニー氏に命じた。だがザルジニー氏は命令を無視し、当初の計画は変更されたという。
作戦指揮を任された司令官は、危険度の高い対ロシア秘密作戦を指揮した経験のある最精鋭を作戦のまとめ役として招集した。
そのうちの1人は、かつてウクライナ保安局に所属していたロマン・チェルビンスキー大佐だった。
チェルビンスキー氏は現在、ウクライナでこの件とは無関係の罪で裁判にかけられている。同氏は1年余り勾留された後、7月に保釈された。同氏はこの件について話すことが許されていないとしてコメントしなかった。
その後放送されたインタビューで、破壊工作はウクライナにとって二つのプラス効果があったとチェルビンスキー氏は語っている。一つは、ウクライナを支援する欧州諸国へのロシアの影響力を弱めるのに役立ったこと。もう一つは、ロシアが欧州にガスを送るための主な手段として、ウクライナ経由のパイプラインしかなくなったことだ。戦争中にもかかわらず、ウクライナはロシアの石油・ガスから年間数億ドルともみられる通行料を徴収している。
チェルビンスキー氏と破壊工作チームは当初、ロシアが2014年に初めてウクライナに侵攻した後にウクライナの情報機関と西側の専門家が立案した、手の込んだ古いパイプライン爆破計画を検討していた。事情に詳しい関係者らが明らかにした。
結局、コストと複雑さからその案は却下された。その後、彼らはヨットを使い、6人のチーム(ベテランの現役兵士と海洋専門知識を持つ民間人で構成)で、海面下260フィート(約80メートル)以上にある全長700マイル(約1130キロメートル)のパイプラインを爆破する作戦で落ち着いた。
2022年9月、バルト海を臨むドイツの港町ロストックで娯楽用のヨット「アンドロメダ号」を借りた。ウクライナの将校やドイツの捜査に詳しい関係者によれば、このヨットは、約10年前にウクライナの情報機関が金融取引の隠れみのとして設立したポーランドの旅行代理店を介して借りられた。
ドイツの捜査に詳しい関係者らによれば、乗組員の1人は、ロシア・ウクライナ戦争に従軍していた現役将校でありベテランの船長で、4人は経験豊富なダイバーだった。乗組員には民間人も含まれており、そのうちの1人はダイバーとして個人的に訓練を受けていた30代の女性だった。彼女はスキルのためだけでなく、休暇中の友人グループを装うために選ばれたのだと、ある関係者は明かした。
潜水器材や衛星ナビゲーション、ポータブルソナー、パイプラインの位置を示したオープンソースの海底地図だけを持って、乗組員たちは出発した。ドイツの捜査に詳しい関係者らによれば、4人のダイバーは2人1組で行動した。真っ暗な氷まじりの海域で、彼らはタイマー制御の起爆装置につながれた強力な爆薬「HMX」を扱った。少量で高圧パイプを破裂させられるものだ。
その深度で20分間過ごすには約3時間の減圧が必要で、その後、少なくとも24時間は潜水を控えなければならない。
悪天候のため、乗組員たちはスウェーデンのサンドハムン港に予定外の寄港を余儀なくされた。ダイバーの1人が誤って爆発物を海底に落としてしまったのだ。彼らは作戦を中止するかどうか話し合ったが、嵐はすぐに収まったと、事情に詳しい関係者2人が明らかにした。
サンドハムンに係留されていた他のヨットから見ていた人たちは、アンドロメダ号だけがマストに小さなウクライナ国旗を掲げていたことに気づいた。
パイプラインを形成する4本の導管のうち3本が破壊されたこの攻撃を受け、エネルギー価格は急騰した。ドイツ、デンマーク、スウェーデン、米国などは軍の艦船やダイバー、水中ドローン(無人機)、航空機を派遣し、ガス漏れした周辺を調査した。
関係者3人によれば、ゼレンスキー氏はザルジニー氏を叱責(しっせき)したが、ザルジニー氏は受け流した。同氏はゼレンスキー氏に対し、破壊工作チームは出発したら連絡が取れず、彼らと接触すれば作戦が危うくなるため、中止させることはできないと伝えた。
「魚雷のように、いったん敵に向かって発射されたら二度と引き返すことはできないと、彼(ゼレンスキー氏)は言われた。爆発するまで前進するのみだと」。このやりとりに詳しい軍高官はそう話した。
攻撃から数日後の2022年10月、ドイツの対外情報機関はCIAからウクライナの破壊工作に関して再び情報を得た。CIAは再度オランダMIVDの報告書について伝えた。ドイツとオランダの当局者によれば、この報告書には、使用された船の種類や通過した可能性のあるルートなど、攻撃に関する詳細な説明が記載されていた。
機密情報の共有に関する規則により、この事件を捜査しているドイツの警察は、ザルジニー氏とウクライナ軍をこの攻撃に結びつけたオランダの報告書を見ることはできなかったが、この報告書については情報当局者から知らされていた。
ドイツの捜査当局は、目撃した可能性のある数十人から話を聞き、爆破現場周辺の海底を調べ、デジタル通信や移動記録、金融取引を含む膨大なデータをふるいにかけた。
そんな彼らに幸運が訪れた。ドイツを出国しようと急ぐあまり、破壊工作チームがアンドロメダ号の洗浄を怠ったため、ドイツの捜査当局は爆発物の痕跡や乗組員の指紋、DNAサンプルを得ることができたのだ。
捜査当局は後に、彼らの携帯電話番号とイリジウム衛星電話を特定した。そのデータによって、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ポーランドに停泊したヨットの全航程を再現することができた。米当局は裁判所命令を要求し、ウクライナ人実業家がヨットを借りるのに使った電子メールの内容をグーグルから得てそれをドイツ側に渡した。そのウクライナ人実業家は2022年5月中旬から、ドイツだけでなくスウェーデンでも多くのボートレンタル会社に接触していた。
アンドロメダ号の航路
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/67/48412967860b92a2bf45fc6a23ae2606.jpg)
捜査当局はその後、ヨットが確認された地域の全ての携帯電話のトラフィックを分析し、関連データを抽出するために何千もの接続を調べた。
破壊工作チームがポーランドを物資拠点として利用し、同国のコロブツェグ港に立ち寄ったにもかかわらず、捜査当局はポーランド当局の協力を取り付けるのに苦労した。
ヨットの乗組員たちを不審に思った港湾職員が警察に通報した。ポーランドの国境警備隊が身元を確認したところ、乗組員たちは欧州連合(EU)加盟国のパスポートを提示した。捜査に詳しい複数の関係者によれば、彼らは北に航行を続けることを許可され、そこで残りの爆発物を仕掛けた。
その後、コロブツェグ港全体がカメラで監視されていたことが判明した。これまで警察の捜査に関してポーランドとドイツは緊密に協力してきたが、ポーランド当局は当初、港の監視カメラ映像の引き渡しを拒否していた。ポーランド警察は今年になって、アンドロメダ号が出港した直後、監視カメラ映像はいつものように破棄されていたとドイツ側に伝えた。
ポーランドの内務省保安局(ABW)はそのような映像は存在しないとWSJに語った。
ドイツの捜査当局は2022年11月には、パイプライン爆破にウクライナ人が関与していると考えていた。
ゼレンスキー氏は今年、戦局を立て直すために改革が必要だとしてザルジニー総司令官を解任した。ウクライナ国内で政敵になる可能性があると目されていたザルジニー氏はその後、起訴を免除される駐英大使に任命された。
ドイツ当局は6月、乗組員の1人と断定したウクライナ人の逮捕状を極秘に発行した。捜査に詳しい複数の関係者によると、2022年にポーランドからドイツに向かうウクライナ人破壊工作チームのワゴン車が、ドイツの速度違反を取り締まるカメラに捉えられた。そこにはワルシャワ近郊で家族と暮らすダイビング・インストラクターの男性が写っていたという。
ポーランド当局は令状に従わなかった。このインストラクターはその後、ウクライナに帰国したとみられている。ポーランドが彼を逮捕できなかったことは、ドイツの捜査にとって大きな痛手だ。というのも、彼と他の容疑者は情報を得てウクライナ国外への渡航を避けるだろう、と捜査に詳しい関係者は語っている。ウクライナは自国民の身柄を引き渡さない。
この作戦に関与した、あるいは作戦に詳しいウクライナ関係者は、指揮した将校を一人として裁判にかけることは不可能だと考えている。少なくとも、当初はパイプラインを爆破することで一致していた高官らの会話以上の証拠は存在しないのだから。
「自分の身を守るために彼らは誰も証言しないだろう」。元軍将校はそう話した。
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ボジャン・パンチェフスキー
ウォールストリートジャーナルの主要なヨーロッパ政治特派員であり、重要なテーマにわたるヨーロッパおよび世界の問題をカバーしています。彼は主要な調査、議題を設定するスクープ、高い政治と外交の分析、そして並外れた人々と出来事について深く報告された特徴を生み出します。
民間実業家が資金を出し、軍司令官が指揮、ゼレンスキー大統領の承認撤回も間に合わず
By ボジャン・パンチェフスキー 2024年8月16日
それは、閉店間際のバーでふと思いつく類いのとっぴな計画だった。
2022年5月、ウクライナの軍幹部や実業家が数人集まり、ロシアの侵攻を食い止めた自国の目覚ましい戦果に祝杯を挙げていた。酔いや愛国心から気分が高揚する中、誰かが過激な次の一手を発案した。ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」を破壊してはどうか。
ロシア産ガスを欧州に運ぶ2本のパイプライン(ノルドストリーム1と2)は結局のところ、クレムリン(ロシア大統領府)の軍事機構に何十億ドルもの資金を供給している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に自らの侵攻の代償を払わせるために、これ以上良い方法があるだろうか。
それから4カ月余り後の9月26日未明、北欧の地震学者たちは数百キロ離れたバルト海に浮かぶデンマークのボーンホルム島付近で、海底地震または火山の噴火を示すシグナルを検知した。それを引き起こしたのは、3回の強力な爆発と、デンマークの二酸化炭素(CO2)年間排出量に匹敵する過去最大の天然ガス漏えい事故だった。
現代史上、屈指の大胆な破壊工作となったこの作戦は、欧州のエネルギー危機を悪化させた。国際法の下では重要インフラへの攻撃は戦争行為とみなされかねない。犯人は誰なのかを巡り、諸説が飛び交った。米中央情報局(CIA)なのか。プーチン氏自身が計画を実行に移したのか。
その真相がいま初めて明らかになりつつある。ウクライナが行った作戦の費用は約30万ドル(約4500万円)だったと、作戦の参加者らは明かす。小型ヨットを借り、経験豊富な民間ダイバーなど6人が乗り込んだ。うち1人は女性だった。彼女の存在もあって、乗組員は遊覧クルーズを楽しむ友人グループのような雰囲気を演出することができた。
「情報機関や潜水艦、ドローン(無人機)、人工衛星を使った大がかりな作戦だとするメディアの臆測を読むと、いつも笑ってしまう」。作戦に関与した軍将校はこう語った。「全ては浴びるほど飲んだ一夜と、国家のために命を賭す気概がある一握りの人々の固い決意から生まれたものだ」
参加した将校と事情に詳しい関係者3人によると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は当初、この計画を承認した。だが後にCIAの知るところとなり、ゼレンスキー氏に撤回を求めたことから、同氏は中止を命じたという。
この取り組みを主導したウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官(当時)は、それでも作戦を強行した。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、この作戦に参加した、あるいは作戦を直接知っていたウクライナ防衛・治安当局の高官4人に話を聞いた。ノルドストリームはウクライナのロシアに対する防衛戦争の合理的な標的であると彼ら全員が述べた。
彼らの証言の一部は、この攻撃に関するドイツ警察の2年近くに及ぶ捜査で裏付けられた。警察はメールや携帯電話・衛星電話による通信のほか、破壊工作が疑われるチームの指紋やDNAサンプルなどの証拠を入手した。ドイツの捜査は、ゼレンスキー氏とこの極秘作戦を直接関連づけていない。
現在、駐英大使を務めるザルジニー氏はテキストメッセージのやり取りで、そのような作戦は一切知らないとし、逆のことを示唆するのは「単なる挑発」だと述べた。さらに、ウクライナの軍隊に国外任務を行う権限はなく、それゆえ自分が関与したはずがないとも述べた。
ウクライナの情報機関である保安局(SBU)の幹部は、同国政府による破壊工作への関与を否定し、中でもゼレンスキー氏は「第三国の領内でそのような活動を実施することを承認しなかったし、関連する命令を出したこともない」と述べた。
プーチン氏はこの攻撃について米国を公然と非難している。ドイツ駐在のロシア上級外交官も同じ主張を繰り返し、ドイツの調査結果は「グリム兄弟級のおとぎ話だ」と述べた。
ドイツの連邦検察は6月、ウクライナ人のダイビング・インストラクターが破壊工作に関与した疑いがあるとして、この事件で初となる逮捕状をひっそりと発行した。ドイツの捜査は現在、ザルジニー氏とその側近に焦点を当てている、と捜査に詳しい関係者は語る。だが裁判に提出できるような証拠は見つかっていないという。
捜査結果が場合によっては、ウクライナ政府と、米国に次ぐ規模の資金や軍装備品を供与してきたドイツ政府との関係を大きく変える可能性がある。ドイツの政治指導者たちは、戦争遂行努力に対する国内の支持を失うことを恐れ、ウクライナとの関連を示す証拠をあえて見過ごしてきたかもしれない。だがドイツ警察は政治的に独立しており、手掛かりを一つ一つ追跡するうちに捜査は独自の歩みをするようになった。
この捜査に詳しいドイツ政府高官は「この規模の攻撃は北大西洋条約機構(NATO)の集団的自衛権を発動させるに十分な理由だが、われわれの重要なインフラを爆破したのは、大量の武器と巨額の資金でわが国が支援している国だ」と語った。
2022年5月に実業家と軍幹部の間で結ばれた協定により、実業家が資金を提供し、この作戦の実行を支援することになった。軍には資金がなく、外国の資金援助にますます頼るようになっていたためだ。作戦参加者が「官民パートナーシップ」と呼ぶこの破壊工作を指揮したのは、特殊作戦の経験を持つ現職司令官だった。彼はザルジニー氏の直属だった。
この計画に詳しい関係者4人によれば、数日以内にゼレンスキー氏はこの作戦を承認した。手配は全て口頭で行われ、文書は残さなかった。
しかしその翌月、オランダの軍情報保安局(MIVD)がこの計画を知り、CIAに警告を発した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。米独の当局者によれば、その後、米当局者は速やかにドイツに通知した。
CIAはウクライナ大統領府に作戦を中止するよう警告した、と米当局者は語った。ウクライナの将校や当局者、欧米の情報当局者によれば、ゼレンスキー氏はその後、作戦を中止するようザルジニー氏に命じた。だがザルジニー氏は命令を無視し、当初の計画は変更されたという。
作戦指揮を任された司令官は、危険度の高い対ロシア秘密作戦を指揮した経験のある最精鋭を作戦のまとめ役として招集した。
そのうちの1人は、かつてウクライナ保安局に所属していたロマン・チェルビンスキー大佐だった。
チェルビンスキー氏は現在、ウクライナでこの件とは無関係の罪で裁判にかけられている。同氏は1年余り勾留された後、7月に保釈された。同氏はこの件について話すことが許されていないとしてコメントしなかった。
その後放送されたインタビューで、破壊工作はウクライナにとって二つのプラス効果があったとチェルビンスキー氏は語っている。一つは、ウクライナを支援する欧州諸国へのロシアの影響力を弱めるのに役立ったこと。もう一つは、ロシアが欧州にガスを送るための主な手段として、ウクライナ経由のパイプラインしかなくなったことだ。戦争中にもかかわらず、ウクライナはロシアの石油・ガスから年間数億ドルともみられる通行料を徴収している。
チェルビンスキー氏と破壊工作チームは当初、ロシアが2014年に初めてウクライナに侵攻した後にウクライナの情報機関と西側の専門家が立案した、手の込んだ古いパイプライン爆破計画を検討していた。事情に詳しい関係者らが明らかにした。
結局、コストと複雑さからその案は却下された。その後、彼らはヨットを使い、6人のチーム(ベテランの現役兵士と海洋専門知識を持つ民間人で構成)で、海面下260フィート(約80メートル)以上にある全長700マイル(約1130キロメートル)のパイプラインを爆破する作戦で落ち着いた。
2022年9月、バルト海を臨むドイツの港町ロストックで娯楽用のヨット「アンドロメダ号」を借りた。ウクライナの将校やドイツの捜査に詳しい関係者によれば、このヨットは、約10年前にウクライナの情報機関が金融取引の隠れみのとして設立したポーランドの旅行代理店を介して借りられた。
ドイツの捜査に詳しい関係者らによれば、乗組員の1人は、ロシア・ウクライナ戦争に従軍していた現役将校でありベテランの船長で、4人は経験豊富なダイバーだった。乗組員には民間人も含まれており、そのうちの1人はダイバーとして個人的に訓練を受けていた30代の女性だった。彼女はスキルのためだけでなく、休暇中の友人グループを装うために選ばれたのだと、ある関係者は明かした。
潜水器材や衛星ナビゲーション、ポータブルソナー、パイプラインの位置を示したオープンソースの海底地図だけを持って、乗組員たちは出発した。ドイツの捜査に詳しい関係者らによれば、4人のダイバーは2人1組で行動した。真っ暗な氷まじりの海域で、彼らはタイマー制御の起爆装置につながれた強力な爆薬「HMX」を扱った。少量で高圧パイプを破裂させられるものだ。
その深度で20分間過ごすには約3時間の減圧が必要で、その後、少なくとも24時間は潜水を控えなければならない。
悪天候のため、乗組員たちはスウェーデンのサンドハムン港に予定外の寄港を余儀なくされた。ダイバーの1人が誤って爆発物を海底に落としてしまったのだ。彼らは作戦を中止するかどうか話し合ったが、嵐はすぐに収まったと、事情に詳しい関係者2人が明らかにした。
サンドハムンに係留されていた他のヨットから見ていた人たちは、アンドロメダ号だけがマストに小さなウクライナ国旗を掲げていたことに気づいた。
パイプラインを形成する4本の導管のうち3本が破壊されたこの攻撃を受け、エネルギー価格は急騰した。ドイツ、デンマーク、スウェーデン、米国などは軍の艦船やダイバー、水中ドローン(無人機)、航空機を派遣し、ガス漏れした周辺を調査した。
関係者3人によれば、ゼレンスキー氏はザルジニー氏を叱責(しっせき)したが、ザルジニー氏は受け流した。同氏はゼレンスキー氏に対し、破壊工作チームは出発したら連絡が取れず、彼らと接触すれば作戦が危うくなるため、中止させることはできないと伝えた。
「魚雷のように、いったん敵に向かって発射されたら二度と引き返すことはできないと、彼(ゼレンスキー氏)は言われた。爆発するまで前進するのみだと」。このやりとりに詳しい軍高官はそう話した。
攻撃から数日後の2022年10月、ドイツの対外情報機関はCIAからウクライナの破壊工作に関して再び情報を得た。CIAは再度オランダMIVDの報告書について伝えた。ドイツとオランダの当局者によれば、この報告書には、使用された船の種類や通過した可能性のあるルートなど、攻撃に関する詳細な説明が記載されていた。
機密情報の共有に関する規則により、この事件を捜査しているドイツの警察は、ザルジニー氏とウクライナ軍をこの攻撃に結びつけたオランダの報告書を見ることはできなかったが、この報告書については情報当局者から知らされていた。
ドイツの捜査当局は、目撃した可能性のある数十人から話を聞き、爆破現場周辺の海底を調べ、デジタル通信や移動記録、金融取引を含む膨大なデータをふるいにかけた。
そんな彼らに幸運が訪れた。ドイツを出国しようと急ぐあまり、破壊工作チームがアンドロメダ号の洗浄を怠ったため、ドイツの捜査当局は爆発物の痕跡や乗組員の指紋、DNAサンプルを得ることができたのだ。
捜査当局は後に、彼らの携帯電話番号とイリジウム衛星電話を特定した。そのデータによって、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ポーランドに停泊したヨットの全航程を再現することができた。米当局は裁判所命令を要求し、ウクライナ人実業家がヨットを借りるのに使った電子メールの内容をグーグルから得てそれをドイツ側に渡した。そのウクライナ人実業家は2022年5月中旬から、ドイツだけでなくスウェーデンでも多くのボートレンタル会社に接触していた。
アンドロメダ号の航路
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/67/48412967860b92a2bf45fc6a23ae2606.jpg)
捜査当局はその後、ヨットが確認された地域の全ての携帯電話のトラフィックを分析し、関連データを抽出するために何千もの接続を調べた。
破壊工作チームがポーランドを物資拠点として利用し、同国のコロブツェグ港に立ち寄ったにもかかわらず、捜査当局はポーランド当局の協力を取り付けるのに苦労した。
ヨットの乗組員たちを不審に思った港湾職員が警察に通報した。ポーランドの国境警備隊が身元を確認したところ、乗組員たちは欧州連合(EU)加盟国のパスポートを提示した。捜査に詳しい複数の関係者によれば、彼らは北に航行を続けることを許可され、そこで残りの爆発物を仕掛けた。
その後、コロブツェグ港全体がカメラで監視されていたことが判明した。これまで警察の捜査に関してポーランドとドイツは緊密に協力してきたが、ポーランド当局は当初、港の監視カメラ映像の引き渡しを拒否していた。ポーランド警察は今年になって、アンドロメダ号が出港した直後、監視カメラ映像はいつものように破棄されていたとドイツ側に伝えた。
ポーランドの内務省保安局(ABW)はそのような映像は存在しないとWSJに語った。
ドイツの捜査当局は2022年11月には、パイプライン爆破にウクライナ人が関与していると考えていた。
ゼレンスキー氏は今年、戦局を立て直すために改革が必要だとしてザルジニー総司令官を解任した。ウクライナ国内で政敵になる可能性があると目されていたザルジニー氏はその後、起訴を免除される駐英大使に任命された。
ドイツ当局は6月、乗組員の1人と断定したウクライナ人の逮捕状を極秘に発行した。捜査に詳しい複数の関係者によると、2022年にポーランドからドイツに向かうウクライナ人破壊工作チームのワゴン車が、ドイツの速度違反を取り締まるカメラに捉えられた。そこにはワルシャワ近郊で家族と暮らすダイビング・インストラクターの男性が写っていたという。
ポーランド当局は令状に従わなかった。このインストラクターはその後、ウクライナに帰国したとみられている。ポーランドが彼を逮捕できなかったことは、ドイツの捜査にとって大きな痛手だ。というのも、彼と他の容疑者は情報を得てウクライナ国外への渡航を避けるだろう、と捜査に詳しい関係者は語っている。ウクライナは自国民の身柄を引き渡さない。
この作戦に関与した、あるいは作戦に詳しいウクライナ関係者は、指揮した将校を一人として裁判にかけることは不可能だと考えている。少なくとも、当初はパイプラインを爆破することで一致していた高官らの会話以上の証拠は存在しないのだから。
「自分の身を守るために彼らは誰も証言しないだろう」。元軍将校はそう話した。
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ボジャン・パンチェフスキー
ウォールストリートジャーナルの主要なヨーロッパ政治特派員であり、重要なテーマにわたるヨーロッパおよび世界の問題をカバーしています。彼は主要な調査、議題を設定するスクープ、高い政治と外交の分析、そして並外れた人々と出来事について深く報告された特徴を生み出します。
現代史上、屈指の大胆な破壊工作となったこの作戦は、欧州のエネルギー危機を悪化させた。国際法の下では重要インフラへの攻撃は戦争行為とみなされかねない。犯人は誰なのかを巡り、諸説が飛び交った。米中央情報局(CIA)なのか。プーチン氏自身が計画を実行に移したのか。
その真相がいま初めて明らかになりつつある。ウクライナが行った作戦の費用は約30万ドル(約4500万円)だったと、作戦の参加者らは明かす。
作戦の参加者らは明かす。小型ヨットを借り、経験豊富な民間ダイバーなど6人が乗り込んだ。うち1人は女性だった。彼女の存在もあって、乗組員は遊覧クルーズを楽しむ友人グループのような雰囲気を演出することができたと。
「全ては浴びるほど飲んだ一夜と、国家のために命を賭す気概がある一握りの人々の固い決意から生まれたものだ」と、ボジャン・パンチェフスキー記者。
参加した将校と事情に詳しい関係者3人によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は当初、この計画を承認した。だが後にCIAの知るところとなり、ゼレンスキー氏に撤回を求めたことから、同氏は中止を命じたという。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官(当時)は、それでも作戦を強行した。
ウクライナの情報機関である保安局(SBU)の幹部は、同国政府による破壊工作への関与を否定し、中でもゼレンスキー氏は「第三国の領内でそのような活動を実施することを承認しなかったし、関連する命令を出したこともない」と述べた。
ドイツの連邦検察は6月、ウクライナ人のダイビング・インストラクターが破壊工作に関与した疑いがあるとして、この事件で初となる逮捕状をひっそりと発行した。
だが裁判に提出できるような証拠は見つかっていないと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
この捜査に詳しいドイツ政府高官は、NATOの集団的自衛権を発動させるに十分な理由だが、われわれの重要なインフラを爆破したのは、大量の武器と巨額の資金でわが国が支援している国だと語ったのだそうです。
この計画に詳しい関係者4人によれば、数日以内にゼレンスキー氏はこの作戦を承認した。手配は全て口頭で行われ、文書は残さなかった。
しかしその翌月、オランダの軍情報保安局(MIVD)がこの計画を知り、CIAに警告を発した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。米独の当局者によれば、その後、米当局者は速やかにドイツに通知した。
CIAはウクライナ大統領府にも作戦を中止するよう警告したのだそうです。
ウクライナの将校や当局者、欧米の情報当局者によれば、ゼレンスキー氏はその後、作戦を中止するようザルジニー氏に命じた。だがザルジニー氏は命令を無視したと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
作戦指揮を任された司令官は、最精鋭を作戦のまとめ役として招集した。
そのうちの1人は、かつてウクライナ保安局に所属していたロマン・チェルビンスキー大佐。
チェルビンスキー氏は、破壊工作はウクライナにとって二つのプラス効果があったと語っているのだそうです。
一つは、ウクライナを支援する欧州諸国へのロシアの影響力を弱めるのに役立ったこと。もう一つは、ロシアが欧州にガスを送るための主な手段として、ウクライナ経由のパイプラインしかなくなったことだ。戦争中にもかかわらず、ウクライナはロシアの石油・ガスから年間数億ドルともみられる通行料を徴収していると。
チェルビンスキー氏と破壊工作チームは、ヨットを使い、6人のチーム(ベテランの現役兵士と海洋専門知識を持つ民間人で構成)で、海面下260フィート(約80メートル)以上にある全長700マイル(約1130キロメートル)のパイプラインを爆破する作戦で落ち着いた。
パイプラインを形成する4本の導管のうち3本が破壊されたこの攻撃を受け、エネルギー価格は急騰したと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
関係者3人によれば、ゼレンスキー氏はザルジニー氏を叱責(しっせき)したが、ザルジニー氏は受け流した。同氏はゼレンスキー氏に対し、破壊工作チームは出発したら連絡が取れず、彼らと接触すれば作戦が危うくなるため、中止させることはできないと伝えたと。
ゼレンスキー氏は今年、戦局を立て直すために改革が必要だとしてザルジニー総司令官を解任した。ウクライナ国内で政敵になる可能性があると目されていたザルジニー氏はその後、起訴を免除される駐英大使に任命されたと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
この作戦に関与した、あるいは作戦に詳しいウクライナ関係者は、指揮した将校を一人として裁判にかけることは不可能だと考えている。少なくとも、当初はパイプラインを爆破することで一致していた高官らの会話以上の証拠は存在しないのだから。
「自分の身を守るために彼らは誰も証言しないだろう」。元軍将校はそう話したと、ボジャン・パンチェフスキー記者。
冒頭の画像は、ザルジーニ司令官(当時)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/3d/8677aecf723b500df60a1d9ad2b28fba.jpg)
この花の名前は、コバタゴ
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス