クーデターで政権を奪取して既成事実を次々と積み上げているミャンマーの軍政。これに対し、西側諸国は経済制裁や非難決議などで対応を模索しているが、まだ実効的な効果を生み出すまでには至っていない。
ASEANが4月に臨時首脳会議を開催し、ここにミャンマー軍政のトップであるミン・アウン・フライン国軍司令官を参加させ、「即時暴力行為の停止」「人道支援の提供」などを内容とする5項目の合意に漕ぎつけました。
混迷するミャンマー情勢に大きな一歩を印したかにみえたのだが、その後の展開はといえば、ミャンマー軍政にペースを握られ、遅々として進まぬ膠着状態に陥っている。
ASEANによるミャンマー問題の平和的解決への仲介が行き詰まる中、ASEANへの接近を図っているのが中国だ。
6月7日、中国の重慶でASEAN各国の外相と中国・王毅外相による会議を開催。
手詰まり感が漂うASEAN各国は、加盟国の外相を一堂に集めて会議を開催した中国にすっかり主導権を奪われ、ASEANのミャンマー問題関与はもはや独自の仲介策の模索から中国による支援頼みに移行しつつあるといえると指摘しておられるのは、ジャーナリストの大塚智彦氏。
ASEAN臨時首脳会議で合意された 5項目について、ミャンマー軍政はその後、早急かつ積極的に合意項目を履行する意思がないことを明らかにしたと、大塚氏。
ASEANは、再び動いて、6月4日に2021年のASEAN議長国であるブルネイのエルワン・ユソフ第2外相とリム・ジョクホイASEAN事務局長をミャンマーに派遣し、首都ネピドーでミン・アウン・フライン国軍司令官と会談。ASEAN側から5項目合意の履行を促し、同時にASEAN特使の受け入れを求めたのだそうです。
ASEANの仲裁が行き詰まる中、今度は中国が動きだした。
6月5日、陳海・在ミャンマー中国大使がミン・アウン・フライン国軍司令官と会談し、ジャカルタでの5項目合意を中国として支持する姿勢を伝えたのだそうです。
さらに6月7日には中国の重慶でASEAN各国の外相と中国・王毅外相による会議を開催。ミャンマー軍政が任命したワナ・マウン・ルウィン氏も「外相」の立場で出席。
手詰まり感が漂うASEAN各国は、加盟国の外相を一堂に集めて会議を開催した中国にすっかり主導権を奪われ、ASEANのミャンマー問題関与はもはや独自の仲介策の模索から中国による支援頼みに移行しつつあると、大塚氏。
ミャンマー国内のNUGをはじめとする反軍政の組織や一般市民、活動家からは「中国は軍政の後ろ盾になっているのではないか」と中国批判が高まっていると。
選挙で劣勢となりクーデターを起こして自国民に銃口を向ける国軍に、弁解の余地はありませんが、ミン・アウン・フライン国軍総司令官は、対中慎重姿勢派で、ミャンマーを軍政から民政に転換し、「アジア最後の経済フロンティア」に押し上げたテイセイン氏と同じ指向ではなかったのか。
ミャンマー国軍は殻に閉じこもってしまった 追い込んだのは米欧による外交姿勢か - 遊爺雑記帳
ミャンマー国軍の対応を巡り、国際社会の対応は二分化されている。米国と欧州は制裁を加えることで、国軍の行動変容を促そうとしている。
他方で中国とロシアは、そうした米欧流のやり方を批判。圧力一辺倒だと国軍の態度がさらに硬化し、反発もまた大きくなる。その結果、ミャンマーは本格的な内戦に突入しかねないというのがそのロジック。
一方、ミャンマー国軍には、中国への過度な依存を回避する目的からもロシアに接近する意図がある。ミン・アウン・フライン国軍総司令官兼国家行政評議会議長の対中姿勢が慎重なことはよく知られた事実。
国軍を世界的に孤立させることは、むしろミャンマーでの内戦を激化させる恐れが大きい。国軍がクーデターを起こした背景を理解したうえで、即効性はないことは承知の上で粘り強く対話を試み続けることしか国際社会に残された道はないと、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員の土田陽介氏。
民政化し、スーチー氏とも融和路線に転じ、「最後のフロンティア」と言われる繁栄をもたらした、テイン・セイン政権。
しかし、理屈抜きのスー・チー氏人気はそれを軽くしのいだ。15年11月の総選挙でのUSDPの惨敗は、テイン・セイン氏の改革の功績とはあまりにも不釣り合いにみえたと、日経・アジア総局長の高橋氏。
テイン・セイン政権の5年間は望外の成功を収めすぎた。次のスー・チー政権の5年間は、経済運営や国内和平での成果で、前の政権には及ばなかった。そんな国軍の自負と、2度続けて惨敗した選挙結果の乖離が、政変の呼び水となったように見えると、日経・アジア総局長の高橋氏。
「スー・チー女史=民主化を進める正義の味方」、「軍=独裁に固執する悪の存在」という単純な図式には与しない。もちろん、今回軍が起こしたクーデター劇を正当化するものではないが、アウン・サン・スー・チーという政治家の力不足が、根本的な原因としてあったのではないかと説くのは、中国事情に詳しい近藤大介氏。
政変ミャンマー、記者が見たスー・チーの虚像と素顔 東アジア「深層取材ノート」(第73回)(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)
2015年11月の総選挙で、NLDが圧倒的な勝利を収めたことで、国家顧問兼外務大臣として、ついにミャンマーの最高権力者となったスーチー氏。
それからの彼女は、「透明性に欠ける」としていた中国共産党の習近平総書記と、まるで旧友のように付き合い始めた。
ミャンマー国内では、「絶対に使わない」と宣言していた国号「ミャンマー」を、あっさり使い始めた。また、かつての民主化仲間たちを遠ざけるようになった。
そして何より、指導者としてイスラム系少数民族のロヒンギャを虐待し、70万人もの難民が隣国のバングラディシュに逃げる事態になった。
「結局、スー・チー女史も権力を握れば、やっていることは軍事政権と変わらない」と、東京在住のミャンマーの若者たちの声も。
中国が、軍にもスーチーさんにも影響力を強めつつあるミヤンマー。
本来中国には一線を画していた両者が、このまま中国に獲りこまれていいのでしょうか。ビルマ時代からの歴史を持つ日本とミヤンマー。そこには、米欧の姿勢とはことなる、軍やスーチーさんとのおつきあいと内戦仲介への尽力ができないものなのでしょうか。
# 冒頭の画像は、軍政に反対しASEANの旗を燃やして抗議の意を示すミャンマーのマンダレー市民
レンゲが咲く野原
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ASEANが4月に臨時首脳会議を開催し、ここにミャンマー軍政のトップであるミン・アウン・フライン国軍司令官を参加させ、「即時暴力行為の停止」「人道支援の提供」などを内容とする5項目の合意に漕ぎつけました。
混迷するミャンマー情勢に大きな一歩を印したかにみえたのだが、その後の展開はといえば、ミャンマー軍政にペースを握られ、遅々として進まぬ膠着状態に陥っている。
ASEANによるミャンマー問題の平和的解決への仲介が行き詰まる中、ASEANへの接近を図っているのが中国だ。
6月7日、中国の重慶でASEAN各国の外相と中国・王毅外相による会議を開催。
手詰まり感が漂うASEAN各国は、加盟国の外相を一堂に集めて会議を開催した中国にすっかり主導権を奪われ、ASEANのミャンマー問題関与はもはや独自の仲介策の模索から中国による支援頼みに移行しつつあるといえると指摘しておられるのは、ジャーナリストの大塚智彦氏。
ミャンマー問題の解決試みたASEAN、中国に主導権奪われる ミャンマー軍政は中国とASEANのお墨付き得て着々と地歩固め | JBpress (ジェイビープレス) 2021.6.11(金) 大塚 智彦
<前略>
出口の見えないミャンマー問題に欧米、国連、ASEAN、中国といった「プレイヤー」がそれぞれの意図をもって参入しようとしている現状を伝える。
軍政トップ、ASEAN首脳会議にミャンマー「首脳」として参加
4月24日にインドネシアの首都ジャカルタで開催されたASEAN臨時首脳会議に正式に参加したミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官は、他の参加国から「首脳」として遇された。
ミャンマー軍政は、このことをもって「ASEANで自らの公的な立場が認められた」と理解し、歓迎した。
臨時首脳会議では
「暴力を即時停止して全関係者が最大限の自制を行う」
「平和的解決策を模索するため関係者による建設的対話の開始」
「ASEAN特使による対話の促進」
「ASEAN特使のミャンマー訪問と全関係者との面談」
「人道支援の提供」
からなる5項目で合意がなされた。
しかしその後ミャンマー軍政はこの5項目合意について「国家に安定が戻れば慎重に検討する」との立場を示し、早急かつ積極的に合意項目を履行する意思がないことを明らかにしている。
積極的に関与して何とか事態打開の道筋を見出したいASEANは、再び動いた。6月4日に2021年のASEAN議長国であるブルネイのエルワン・ユソフ第2外相とリム・ジョクホイASEAN事務局長をミャンマーに派遣し、首都ネピドーでミン・アウン・フライン国軍司令官と会談したのだ。
この会談ではASEAN側から5項目合意の履行を促し、同時にASEAN特使の受け入れを求めた。この席で具体的なASEAN特使の名前を軍政側に示したとされているが、具体名は明らかになっていない。
ミャンマー民主派“政府”、ASEAN特使との接触は実現せず
軍政に対抗するためにスー・チー政権の幹部や最大与党「国民民主連盟(NLD)」の幹部、さらに少数民族代表などからなる「国家統一政府(NUG)」が結成されて、軍政との対決姿勢を明確にしているが、軍政はNUGを非合法組織と認定して壊滅を目指している。
そもそもこのNUGは4月24日のASEAN臨時首脳会議への参加を希望していた。だが、ASEANはこれを認めなかった。さらに6月4日のASEANの議長国外相と事務局長のネピドー訪問に際してもNUGは直接会談を求めたが、当然のことながら軍政によってその実現を阻止された。
結果的にASEANは事態打開のためとはいえ、軍政との会談、交渉に終始していることから、NUGや軍政反対を訴える市民などからは「ASEANは交渉相手を間違っている」「ASEANは軍政に政権掌握のお墨付きを与えているだけだ」などと失望と批判の声が上がっている。
中国がASEAN各国外相と会議
ASEANがそのような身動きの取れない状況の中で、今度は中国が動きだした。
6月5日、陳海・在ミャンマー中国大使がミン・アウン・フライン国軍司令官と会談し、ジャカルタでの5項目合意を中国として支持する姿勢を伝えたのだ。
さらに6月7日には中国の重慶でASEAN各国の外相と中国・王毅外相による会議を開催した。
中国側によると今回のASEAN外相との会議は、中国がASEANと公式対話を開始した30周年にあたる記念会議であるとしている。会議では南シナ海を巡る問題やコロナワクチン、中国の経済支援など幅広い議題について意見交換がされたようである。
当然のことながらミャンマー問題に関する協議も行われた。会議後にオンラインで会見したインドネシアのレトノ・マルスディ外相は「ミャンマー問題の改善に向けた中国の協力姿勢を高く評価する」と述べており、中国が会議でミャンマー問題に関連して積極的に関与する姿勢を示したことは間違いないだろう。
またこの外相会議には。ミャンマー軍政が任命したワナ・マウン・ルウィン氏も「外相」の立場で出席しており、軍政の閣僚が国際会議の場で正式の外相としての待遇を受ける状況が続いている。こうした事実も軍政にとっては「政権掌握」の既成事実として自信を強める結果となっている。
中国が死守、ミャンマー国内の権益
中国はクーデター発生直後から「ミャンマーの内政問題」との姿勢をとり続け、国連の安保理による制裁決議などに関しても「ミャンマーへの一方的な圧力や制裁などの強制的措置は緊張と対立を激化させるだけだ」として反対の立場を貫くなど、軍政にとって心強い援護射撃をし続けている。
その背後にある意図は、ミャンマー南部のチャオピューから北部ムセを経て中国雲南省瑞麗市に至る石油・天然ガスの輸送パイプラインや経済特区の保護と見られる。
中東から中国本土へのエネルギー供給、運搬に際して、狭隘で水深も浅く遠路となるマラッカ海峡経由よりも、ミャンマー国内を貫くパイプラインを経由させたほうが効率的なのである。中国にとってその存在意義は大きく、中国がミャンマー軍政に求めているのもパイプラインに代表されるミャンマー国内の中国権益と中国人の保護とされている。
ミャンマーは中国の「一帯一路」構想で重要な位置を占めているだけでなく「中国ミャンマー経済回廊(CMEC)」に基づく数々のプロジェクト、インフラ整備などでも深い関係にあるのだ。
ミャンマー問題の主導権は中国に
ミャンマー問題で手詰まり感が漂うASEAN各国は、加盟国の外相を一堂に集めて会議を開催した中国にすっかり主導権を奪われ、ASEANのミャンマー問題関与はもはや独自の仲介策の模索から中国による支援頼みに移行しつつあるといえる。
ミャンマー軍政に太いパイプと経済支援を背景にした「発言力」を維持している中国が今後のミャンマー問題にさらに積極的に関与してくることは確実だろう。
当然のことながら、ミャンマー国内のNUGをはじめとする反軍政の組織や一般市民、活動家からは「中国は軍政の後ろ盾になっているのではないか」と中国批判が高まっている。
ミャンマーの民主化回復の道筋は、さらに遠のき始めている。
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大塚智彦のプロフィール
ジャーナリスト。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。毎日新聞社長野支局、東京外信部、ジャカルタ支局長。産経新聞社シンガポール支局長。現在はフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動中。ジャカルタ在住。
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<前略>
出口の見えないミャンマー問題に欧米、国連、ASEAN、中国といった「プレイヤー」がそれぞれの意図をもって参入しようとしている現状を伝える。
軍政トップ、ASEAN首脳会議にミャンマー「首脳」として参加
4月24日にインドネシアの首都ジャカルタで開催されたASEAN臨時首脳会議に正式に参加したミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官は、他の参加国から「首脳」として遇された。
ミャンマー軍政は、このことをもって「ASEANで自らの公的な立場が認められた」と理解し、歓迎した。
臨時首脳会議では
「暴力を即時停止して全関係者が最大限の自制を行う」
「平和的解決策を模索するため関係者による建設的対話の開始」
「ASEAN特使による対話の促進」
「ASEAN特使のミャンマー訪問と全関係者との面談」
「人道支援の提供」
からなる5項目で合意がなされた。
しかしその後ミャンマー軍政はこの5項目合意について「国家に安定が戻れば慎重に検討する」との立場を示し、早急かつ積極的に合意項目を履行する意思がないことを明らかにしている。
積極的に関与して何とか事態打開の道筋を見出したいASEANは、再び動いた。6月4日に2021年のASEAN議長国であるブルネイのエルワン・ユソフ第2外相とリム・ジョクホイASEAN事務局長をミャンマーに派遣し、首都ネピドーでミン・アウン・フライン国軍司令官と会談したのだ。
この会談ではASEAN側から5項目合意の履行を促し、同時にASEAN特使の受け入れを求めた。この席で具体的なASEAN特使の名前を軍政側に示したとされているが、具体名は明らかになっていない。
ミャンマー民主派“政府”、ASEAN特使との接触は実現せず
軍政に対抗するためにスー・チー政権の幹部や最大与党「国民民主連盟(NLD)」の幹部、さらに少数民族代表などからなる「国家統一政府(NUG)」が結成されて、軍政との対決姿勢を明確にしているが、軍政はNUGを非合法組織と認定して壊滅を目指している。
そもそもこのNUGは4月24日のASEAN臨時首脳会議への参加を希望していた。だが、ASEANはこれを認めなかった。さらに6月4日のASEANの議長国外相と事務局長のネピドー訪問に際してもNUGは直接会談を求めたが、当然のことながら軍政によってその実現を阻止された。
結果的にASEANは事態打開のためとはいえ、軍政との会談、交渉に終始していることから、NUGや軍政反対を訴える市民などからは「ASEANは交渉相手を間違っている」「ASEANは軍政に政権掌握のお墨付きを与えているだけだ」などと失望と批判の声が上がっている。
中国がASEAN各国外相と会議
ASEANがそのような身動きの取れない状況の中で、今度は中国が動きだした。
6月5日、陳海・在ミャンマー中国大使がミン・アウン・フライン国軍司令官と会談し、ジャカルタでの5項目合意を中国として支持する姿勢を伝えたのだ。
さらに6月7日には中国の重慶でASEAN各国の外相と中国・王毅外相による会議を開催した。
中国側によると今回のASEAN外相との会議は、中国がASEANと公式対話を開始した30周年にあたる記念会議であるとしている。会議では南シナ海を巡る問題やコロナワクチン、中国の経済支援など幅広い議題について意見交換がされたようである。
当然のことながらミャンマー問題に関する協議も行われた。会議後にオンラインで会見したインドネシアのレトノ・マルスディ外相は「ミャンマー問題の改善に向けた中国の協力姿勢を高く評価する」と述べており、中国が会議でミャンマー問題に関連して積極的に関与する姿勢を示したことは間違いないだろう。
またこの外相会議には。ミャンマー軍政が任命したワナ・マウン・ルウィン氏も「外相」の立場で出席しており、軍政の閣僚が国際会議の場で正式の外相としての待遇を受ける状況が続いている。こうした事実も軍政にとっては「政権掌握」の既成事実として自信を強める結果となっている。
中国が死守、ミャンマー国内の権益
中国はクーデター発生直後から「ミャンマーの内政問題」との姿勢をとり続け、国連の安保理による制裁決議などに関しても「ミャンマーへの一方的な圧力や制裁などの強制的措置は緊張と対立を激化させるだけだ」として反対の立場を貫くなど、軍政にとって心強い援護射撃をし続けている。
その背後にある意図は、ミャンマー南部のチャオピューから北部ムセを経て中国雲南省瑞麗市に至る石油・天然ガスの輸送パイプラインや経済特区の保護と見られる。
中東から中国本土へのエネルギー供給、運搬に際して、狭隘で水深も浅く遠路となるマラッカ海峡経由よりも、ミャンマー国内を貫くパイプラインを経由させたほうが効率的なのである。中国にとってその存在意義は大きく、中国がミャンマー軍政に求めているのもパイプラインに代表されるミャンマー国内の中国権益と中国人の保護とされている。
ミャンマーは中国の「一帯一路」構想で重要な位置を占めているだけでなく「中国ミャンマー経済回廊(CMEC)」に基づく数々のプロジェクト、インフラ整備などでも深い関係にあるのだ。
ミャンマー問題の主導権は中国に
ミャンマー問題で手詰まり感が漂うASEAN各国は、加盟国の外相を一堂に集めて会議を開催した中国にすっかり主導権を奪われ、ASEANのミャンマー問題関与はもはや独自の仲介策の模索から中国による支援頼みに移行しつつあるといえる。
ミャンマー軍政に太いパイプと経済支援を背景にした「発言力」を維持している中国が今後のミャンマー問題にさらに積極的に関与してくることは確実だろう。
当然のことながら、ミャンマー国内のNUGをはじめとする反軍政の組織や一般市民、活動家からは「中国は軍政の後ろ盾になっているのではないか」と中国批判が高まっている。
ミャンマーの民主化回復の道筋は、さらに遠のき始めている。
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大塚智彦のプロフィール
ジャーナリスト。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。毎日新聞社長野支局、東京外信部、ジャカルタ支局長。産経新聞社シンガポール支局長。現在はフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動中。ジャカルタ在住。
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ASEAN臨時首脳会議で合意された 5項目について、ミャンマー軍政はその後、早急かつ積極的に合意項目を履行する意思がないことを明らかにしたと、大塚氏。
ASEANは、再び動いて、6月4日に2021年のASEAN議長国であるブルネイのエルワン・ユソフ第2外相とリム・ジョクホイASEAN事務局長をミャンマーに派遣し、首都ネピドーでミン・アウン・フライン国軍司令官と会談。ASEAN側から5項目合意の履行を促し、同時にASEAN特使の受け入れを求めたのだそうです。
ASEANの仲裁が行き詰まる中、今度は中国が動きだした。
6月5日、陳海・在ミャンマー中国大使がミン・アウン・フライン国軍司令官と会談し、ジャカルタでの5項目合意を中国として支持する姿勢を伝えたのだそうです。
さらに6月7日には中国の重慶でASEAN各国の外相と中国・王毅外相による会議を開催。ミャンマー軍政が任命したワナ・マウン・ルウィン氏も「外相」の立場で出席。
手詰まり感が漂うASEAN各国は、加盟国の外相を一堂に集めて会議を開催した中国にすっかり主導権を奪われ、ASEANのミャンマー問題関与はもはや独自の仲介策の模索から中国による支援頼みに移行しつつあると、大塚氏。
ミャンマー国内のNUGをはじめとする反軍政の組織や一般市民、活動家からは「中国は軍政の後ろ盾になっているのではないか」と中国批判が高まっていると。
選挙で劣勢となりクーデターを起こして自国民に銃口を向ける国軍に、弁解の余地はありませんが、ミン・アウン・フライン国軍総司令官は、対中慎重姿勢派で、ミャンマーを軍政から民政に転換し、「アジア最後の経済フロンティア」に押し上げたテイセイン氏と同じ指向ではなかったのか。
ミャンマー国軍は殻に閉じこもってしまった 追い込んだのは米欧による外交姿勢か - 遊爺雑記帳
ミャンマー国軍の対応を巡り、国際社会の対応は二分化されている。米国と欧州は制裁を加えることで、国軍の行動変容を促そうとしている。
他方で中国とロシアは、そうした米欧流のやり方を批判。圧力一辺倒だと国軍の態度がさらに硬化し、反発もまた大きくなる。その結果、ミャンマーは本格的な内戦に突入しかねないというのがそのロジック。
一方、ミャンマー国軍には、中国への過度な依存を回避する目的からもロシアに接近する意図がある。ミン・アウン・フライン国軍総司令官兼国家行政評議会議長の対中姿勢が慎重なことはよく知られた事実。
国軍を世界的に孤立させることは、むしろミャンマーでの内戦を激化させる恐れが大きい。国軍がクーデターを起こした背景を理解したうえで、即効性はないことは承知の上で粘り強く対話を試み続けることしか国際社会に残された道はないと、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員の土田陽介氏。
民政化し、スーチー氏とも融和路線に転じ、「最後のフロンティア」と言われる繁栄をもたらした、テイン・セイン政権。
しかし、理屈抜きのスー・チー氏人気はそれを軽くしのいだ。15年11月の総選挙でのUSDPの惨敗は、テイン・セイン氏の改革の功績とはあまりにも不釣り合いにみえたと、日経・アジア総局長の高橋氏。
テイン・セイン政権の5年間は望外の成功を収めすぎた。次のスー・チー政権の5年間は、経済運営や国内和平での成果で、前の政権には及ばなかった。そんな国軍の自負と、2度続けて惨敗した選挙結果の乖離が、政変の呼び水となったように見えると、日経・アジア総局長の高橋氏。
「スー・チー女史=民主化を進める正義の味方」、「軍=独裁に固執する悪の存在」という単純な図式には与しない。もちろん、今回軍が起こしたクーデター劇を正当化するものではないが、アウン・サン・スー・チーという政治家の力不足が、根本的な原因としてあったのではないかと説くのは、中国事情に詳しい近藤大介氏。
政変ミャンマー、記者が見たスー・チーの虚像と素顔 東アジア「深層取材ノート」(第73回)(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)
2015年11月の総選挙で、NLDが圧倒的な勝利を収めたことで、国家顧問兼外務大臣として、ついにミャンマーの最高権力者となったスーチー氏。
それからの彼女は、「透明性に欠ける」としていた中国共産党の習近平総書記と、まるで旧友のように付き合い始めた。
ミャンマー国内では、「絶対に使わない」と宣言していた国号「ミャンマー」を、あっさり使い始めた。また、かつての民主化仲間たちを遠ざけるようになった。
そして何より、指導者としてイスラム系少数民族のロヒンギャを虐待し、70万人もの難民が隣国のバングラディシュに逃げる事態になった。
「結局、スー・チー女史も権力を握れば、やっていることは軍事政権と変わらない」と、東京在住のミャンマーの若者たちの声も。
中国が、軍にもスーチーさんにも影響力を強めつつあるミヤンマー。
本来中国には一線を画していた両者が、このまま中国に獲りこまれていいのでしょうか。ビルマ時代からの歴史を持つ日本とミヤンマー。そこには、米欧の姿勢とはことなる、軍やスーチーさんとのおつきあいと内戦仲介への尽力ができないものなのでしょうか。
# 冒頭の画像は、軍政に反対しASEANの旗を燃やして抗議の意を示すミャンマーのマンダレー市民
レンゲが咲く野原
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