北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、1月25日に三池淵(サムジヨン)劇場でのお正月を迎える記念公演を鑑賞して以来、公式の席に出てきていないのだそうです。
公言した米国へのクリスマスプレゼントはなく、昨年末には異例の長期党大会を行いながら、年頭の辞もありませんでした。
今年1月初めに平壌の烽火(ボンファ)診療所で狭心症の手術を受けていて、1月8日の誕生日パーティは会場を変更し、幹部ら50人を招いて行ったのだそうですが、姿があまりに痩せ衰えて見え、出席した党や軍部の幹部たちは大いに驚いたのだそうです。
金委員長の健康を害しているストレスの元とは何なのか。
アメリカによる制裁もその一つだろうが、それ以上に重くのしかかっているのは、若い世代に対する統制の問題と見てよいと朴承珉氏。
現在20代になっている。「ジャンマダン(市場)世代」と呼ばれる若者達は、北朝鮮当局からの配給を知らずに育った世代で、親たちが自力で商売をして生活を支える姿を見て来た。
同時に彼らは、社会主義体制下で暮らしてはいるが、韓流のCDやDVDを密かに視聴し、頭の中ではすでに資本主義化されている。
この世代は、配給を受けたことがないため「偉大な領導者」への感謝(?)の気持ちも理解できない。
北朝鮮当局は、以前から彼らを中心とする「黄色の風」(資本主義の風潮)を最も警戒してきた。
朝鮮日報が入手した、朝鮮労働党内の理論誌『勤労者』2019年2月号のペク・ハクリョン平安北道青年同盟委員長による寄稿によると、「青年たちを無防備に放っておけば(アラブの春のような)想像外の恐ろしいことが起こり得る」と警鐘を鳴らしているのだそうです。
「平壌の春 」への警戒。
幹部らが「アラブの春」を口にすること自体、青年たちの不満が尋常ではないレベルにあることを告白したも同然だと朴氏。
もう一つ、金正恩委員長の大きなストレスの元になっていると思われるのは、中国と内通していると銃殺した張成沢(チャン・ソンテク)氏に続いて、その妻で、実の叔母でもある金敬姫(キム・ギョンヒ)氏を殺したという噂が、多くの人々が集まるジャンマダン(農民市場)で広まっていることだと。
1月25日、三池淵劇場での記念公演に金敬姫・元秘書を復活させたのも、こうした噂をかき消すためだったのかもしれないと朴氏。
夫の処刑に我慢ならなかった金敬姫氏は、その後も怒りを抑えきれず、金委員長に対する酷い悪口を続けた。これが最高指導部に報告され、金敬姫氏まで毒殺されてしまった。
更に、毒殺直後、その招待所に派遣され、治療にあたっていた烽火診療所の医師や看護師ら、補佐していた秘書、また招待所を警備していた護衛司令部の警備兵らがガス爆発を装って、皆殺しにされてしまったのだという噂。
用意周到な“殺しの作戦”も、結局は市民にばれつつあるのだと。
動揺する民心を鎮めるためには、金敬姫氏が生きていることを示してやればいい。そこで、突如、“代役”金敬姫の姿を披露するに至ったと。
さらに金総書記にとって好ましくないニュースが、駐英北朝鮮大使館公使として在職中に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏が、最近になって最大野党・自由韓国党に入党し、4月の国会議員総選挙に出馬するというもの。
「北朝鮮の高位亡命者は韓国でよい待遇を受けて、元気でやっているのか」という北朝鮮の党幹部たちの懸念に、「大韓民国の小選挙区から国会議員に当選したら、北朝鮮の体制維持の中核を担っているエリートや、世界各国で勤務する北朝鮮の外交官たち、さらには自由を求める北朝鮮の善良な市民らは、希望を超えて確信を持つことになるだろう」と明確なメッセージを送っていることは、揺さぶりとなっているのですね。
諸々のプレッシャーがかかっている金正恩。
「平壌の春」の気配は実現化するのか。
市民の不満と不信の高まりをひしひしと感じている金委員長は、と心臓が縮み上がるような思いをしながら日々を過ごしているに違いないと朴氏・
そこへ、「COVID_19」の脅威で、中国との交流遮断に迫られ、国連制裁でピンチの国内経済に追い打ちをかけられてしまっています。
新型コロナウイルス、人民軍への感染で北朝鮮崩壊 死亡者5人をひた隠し、中国の支援も得られず(1/7) | JBpress(Japan Business Press)
心臓病が懸念されます。
# 冒頭の画像は、三池淵劇場での記念公演で、金正恩委員長とその妻・李雪主氏と並んで座る金敬姫氏
公言した米国へのクリスマスプレゼントはなく、昨年末には異例の長期党大会を行いながら、年頭の辞もありませんでした。
今年1月初めに平壌の烽火(ボンファ)診療所で狭心症の手術を受けていて、1月8日の誕生日パーティは会場を変更し、幹部ら50人を招いて行ったのだそうですが、姿があまりに痩せ衰えて見え、出席した党や軍部の幹部たちは大いに驚いたのだそうです。
姿くらました金正恩、「1月に狭心症の手術」説 首領の心臓を縮み上がらせる「ジャンマダン世代」の暴発 | JBpress(Japan Business Press) 2.14(金)朴 承珉
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、もう19日間も姿を現していない(2月13日時点)。1月25日に三池淵(サムジヨン)劇場でのお正月を迎える記念公演を鑑賞して以来、公式の席に出てきていないのだ。
実は金委員長、今年1月初めに平壌の烽火(ボンファ)診療所で狭心症の手術を受けたという。
「中国の人民解放軍301病院の心臓専門医が平壌に入ってきて手術をしたと聞いた」(安燦一[アン・チャンイル]世界北朝鮮研究センター所長)
この時、ステント挿入手術も一緒にした模様だ。
金委員長は肥満が進んだ上に、最近では相当なストレスを抱えているという。そのいずれもが心臓に大きな負担をかけているのだろう。また、金日成(キム・イルソン)主席の死亡原因が心筋梗塞と発表されたことを考えると、循環器系の疾患は遺伝性かも知れない。
痩せ衰えた金正恩
1月8日、金委員長は、自分の誕生日パーティを当初、幼少期を過ごした元山(ウォンサン)の招待所で開こうとしたが断念、結局は平壌市内の「木蘭館」で幹部ら50人を招いて行った。ところがパーティに出席した党や軍部の幹部たちは大いに驚いたという。金委員長の姿があまりに痩せ衰えて見えたからだ。そのため出席者は、涙を流して「お休みになるように」と慰めの言葉を口にしたという。もしかしたらこの時期の前後に、金委員長は心臓手術を受けたのかもしれない。
しかし、誕生パーティの招待者を涙ぐませるほど、金委員長の健康を害しているストレスの元とは何なのだろうか。
アメリカによる制裁もその一つだろうが、それ以上に重くのしかかっているのは、若い世代に対する統制の問題と見てよいだろう(最近は新型肺炎の国内への感染への恐れもあるかもしれないが)。
1990年代半ばから始まった、いわゆる「苦難の行軍」の大飢饉時代に生まれた世代は、現在20代になっている。「ジャンマダン(市場)世代」と呼ばれる彼らは、北朝鮮当局からの配給を知らずに育った世代でもある。配給が途絶え、親たちが自力で商売をして生活を支える姿を見て来た。同時に彼らは、社会主義体制下で暮らしてはいるが、韓流のCDやDVDを密かに視聴し、頭の中ではすでに資本主義化されている。
そのため北朝鮮当局は、以前から彼らを中心とする「黄色の風」(資本主義の風潮)を最も警戒してきた。北朝鮮の20代の若者たちはそれ以前の世代に比べて自由奔放だ。配給を受けたことがないため「偉大な領導者」への感謝(?)の気持ちも理解できない。
こうした不穏な空気を、朝鮮労働党の幹部たちも感じていたのだろう。彼らは以前から北朝鮮版「アラブの春」(2010~2012年ごろにアラブの独裁国家で起こった民主化運動)を憂慮していた。
韓国に流出した理論誌『勤労者』
最近、韓国の朝鮮日報が朝鮮労働党内の理論誌『勤労者』2019年2月号を入手し、その内容を報道した。『勤労者』は、北朝鮮の幹部らが読む月刊の刊行物で、対外秘であるため、外部に流出することは極めて珍しい。
報道された『勤労者』の内容は、主にペク・ハクリョン平安北道青年同盟委員長による寄稿の中身だった。
その文章の中でペク・ハクリョン氏は、「青年たちを無防備に放っておけば(アラブの春のような)想像外の恐ろしいことが起こり得る」、「“アラブの春”によって政権交代の悲劇的事例が連発したのも(中略)主に20代の青年たちが手電話機(携帯電話)を通じて西側のインターネットに接続し、彼らが流す逆宣伝資料を見て、反政府行動に結集したからだ」とし、「青年たちを無防備状態にしたら、恐ろしいことが起きかねないという深刻な教訓を生かしてくれている」と警告した。
北朝鮮の青年同盟委員会は、若者の思想教育や政治生活を総括する部署だ。この部署の幹部らが「アラブの春」を口にすること自体、青年たちの不満が尋常ではないレベルにあることを告白したも同然だ。北朝鮮の携帯電話はすでに600万台以上。さらに昨年末、労働党中央委員会全員会議で金正恩委員長は、「国家統制力が弱まったのも事実だ」と吐露している。いくら恐怖政治で政権を維持していく独裁国家であろうとも、「北朝鮮の春」は想像すらしたくないだろう。
もう一つ、金正恩委員長の大きなストレスの元になっていると思われるのは、北朝鮮内でささやかれているある噂だ。現在、多くの人々が集まるジャンマダン(農民市場)では、金委員長が、当時北朝鮮のナンバー2とされていた張成沢(チャン・ソンテク)氏に続いて、その妻で、実の叔母でもある金敬姫(キム・ギョンヒ)氏を殺したという噂が広まっている。
1月25日、三池淵劇場での記念公演に金敬姫・元秘書を復活させたのも、こうした噂をかき消すためだったのかもしれない。
叔母・金敬姫氏殺害を知る関係者も皆殺し
筆者は2月7日付のJBpressで、金敬姫氏は甥である金正恩委員長の命令によってすでに毒殺された、との記事を書いた。
(参考記事)6年ぶりに登場の金正恩の叔母、その影武者説を追う
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59259
その後、さらに詳しい証言を得たので、それも含めて改めてこの件を説明しておきたい。
ナンバー2である張成沢氏を処刑しようとする北朝鮮指導部の動きを察知した金敬姫氏はこれに強く反対したが、聞き入れられなかったため、金敬姫氏は朝鮮労働党組織指導部に公式に提案書(抗議文)を提出した。
その提案書には、「私の意見は、張成沢部長に罪はあるが、処刑はできない。革命化区域(思想の再教育と強制労役などをさせる施設で、一定期間の収容後は解放される)に送ることで済ませよう」と記されていた。
これを受け取った組織指導部は、金敬姫氏の意見を受け入れ、同様の報告書を党上層部に提出したのだが、金委員長はこれに激怒。反体制派の摘発を担う国家安全保衛部に命じ、張氏を処刑してしまった。
夫・張成沢が無数の機銃掃射により処刑され、その遺体も火炎放射器で無惨に焼き消された後、金敬姫氏は平壌郊外の別荘(招待所)で療養を兼ねて治療を受けていた。だが、夫の処刑に我慢ならなかった金敬姫氏は、その後も怒りを抑えきれず、金委員長に対する酷い悪口を続けた。これが最高指導部に報告され、金敬姫氏まで毒殺されてしまったという。
ところが、事件はそこで終わらなかった。
金敬姫氏の毒殺直後、その招待所に派遣され、治療にあたっていた烽火診療所(金一族だけが治療を受けられる北朝鮮の最高の施設の病院)の医師や看護師ら、補佐していた秘書、また招待所を警備していた護衛司令部の警備兵らがガス爆発を装って、皆殺しにされてしまったのだという。もちろん「金敬姫氏の毒殺事件」を覆い隠すためだ。
だが、用意周到な“殺しの作戦”も、結局は市民にばれつつあるのだという。
叔父・張成沢氏の処刑に加えて淑母・金敬姫氏まで処刑したという噂が、ジャンマダンにまで広まると、民心は険しくなるに違いない。動揺する民心を鎮めるためには、金敬姫氏が生きていることを示してやればいい。そこで、突如、“代役”金敬姫の姿を披露するに至ったのだ。そうすることで、張成沢の処刑には、妻・金敬姫書記も同意(黙認)していたのだ、と印象付けることもできる――そんな計算が働いていたに違いない。
だが、“代役”金敬姫については、すでに平壌では「偽物」との噂がかなり広がっているようだ。こうなると、金敬姫の影武者を引っ張り出してきたのは、金正恩委員長にとって大失敗ということになる。この代役の事実が知られれば、北朝鮮市民の怒りはさらに増し、金委員長に対する信頼も大きく毀損するのは間違いない。
このように近親者を殺害するのは、自らの権力にとって代わる可能性のある人物を排除するために、独裁国家では珍しいことではない。
叔父・金平一駐チェコ大使を召還した理由
北朝鮮からは昨年11月にも、金委員長のある近親者について、新たな動静が伝わってきていた。やはり叔父にあたる金平一(キム・ピョンイル)氏についての動きだ。
北朝鮮当局は去年11月、駐チェコ大使だった金平一氏を本国に召還した。金平一氏は、金日成主席と二番目の夫人・金聖愛(キム・ソンエ)氏との間に生まれた。金正日総書記とは腹違いの兄弟で、金正恩委員長には叔父だ。金正日総書記によって排除の形で海外に出させた(送られた)後に、ハンガリー大使を皮切りに、ブルガリア、フィンランド、ポーランドの大使を歴任し、約37年間も本国に戻ることができなかった。この間、父親である金日成主席が亡くなっているが、その際にも北朝鮮に入ることができず、父親の葬儀に参列することも叶わなかった。
北朝鮮当局は、昨年の金氏の召喚理由を明らかにしていないが、北朝鮮を脱出して海外に亡命した高位脱北者らが、金平一氏を亡命政府指導者に推戴するために彼と接触しようする動きがあり、これを察知した北朝鮮指導部が強制的に送還させた、とする分析が最も有力視されている。であれば、金平一氏はおそらく、二度と国外に出ることはできまい。
万が一、国内でクーデターなどが起こった際、反乱分子の旗頭に推されそうな腹違いの兄弟や叔父などを、金正恩委員長はことごとく排除している。それを考えれば、今後の金平一氏にとって最も良い待遇は、母親・金聖愛氏と同様の「終身軟禁生活」ということになるだろう。
こうして親族を次々と排除している張本人・金委員長も、彼らの心の内の怨嗟の声を感じているに違いない。そのプレッシャーも、彼の健康状態に影響しているのかもしれない。
さらに対外関係からくるプレッシャーも相当なものがある。金委員長は昨年末に豪語したドナルド・トランプ米大統領への「クリスマスプレゼント」も贈ることができなかった。トランプ大統領は最近の国政演説でも、北朝鮮や非核化について一言も言及していない。北朝鮮との非核化に向けた実務協議が、立て続けに物別れに終わると、失望したトランプ大統領は側近たちを通じて、11月の大統領選挙までは第3回米朝会談はしないとまで言っている。アメリカとの交渉を通じて、一刻も早く制裁を解いてもらいたい金正恩委員長にとって、これは途方もなく長い時間だ。
亡命した太永浩元駐英公使が韓国の総選挙に
このような状況の中、さらに金総書記にとって好ましくないニュースが、ソウルからもたらされた。
2016年に、駐英北朝鮮大使館公使として在職中に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏が、最近になって最大野党・自由韓国党に入党し、4月の国会議員総選挙に出馬するというのだ。自由韓国党の指導部は、太氏をソウルの富裕層が住む新都心の江南甲選挙区から出馬させようとしている。高位級の脱北者で、比例代表ではなく選挙区から立候補するのは初めてのケースになる。
太氏は出馬表明会見で、「私が大韓民国の小選挙区から国会議員に当選したら、北朝鮮の体制維持の中核を担っているエリートや、世界各国で勤務する北朝鮮の外交官たち、さらには自由を求める北朝鮮の善良な市民らは、希望を超えて確信を持つことになるだろう」とし、「不幸にも(韓国の)現在の対北政策と統一政策はとんでもない方向に流れている」と述べた。
北朝鮮の党幹部たちは以前、第三国で会った脱北者らに「太永浩・元公使は韓国で元気か」と尋ねたという。「北朝鮮の高位亡命者は韓国でよい待遇を受けて、元気でやっているのか」という意味の質問なのだ。今回の太永浩氏の出馬の弁(発言)は、北朝鮮のエリート幹部らに明確なメッセージを送っている。
以前から、北朝鮮の軍幹部は、有事が起きて北朝鮮が韓国に吸収統一でもされるようなことになった場合、自分たちの安危と職責はどうなるのか、ということに強い関心を示していたという。太氏は自分が当選すれば、北朝鮮幹部らに「亡命しても韓国社会で成功できると示せれば、統一されても安心できるという確信を彼らに与えることができるだろう」と話したのだ。
このような動きの一つひとつが、金委員長にとって重くのしかかっている。体制の揺らぎは、即座に自らの生命の危機に繋がることを痛いほど感じているからだ。
果たして「平壌の春」は現実のものとなるのか。三重四重の監視体制の下で北朝鮮の市民が民主化運動に立ち上がるのは容易ではないだろう。それでも、市民の不満と不信の高まりをひしひしと感じている金委員長は、国営メディアを通じて見せる尊大な態度とは裏腹に、心臓が縮み上がるような思いをしながら日々を過ごしているに違いない。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、もう19日間も姿を現していない(2月13日時点)。1月25日に三池淵(サムジヨン)劇場でのお正月を迎える記念公演を鑑賞して以来、公式の席に出てきていないのだ。
実は金委員長、今年1月初めに平壌の烽火(ボンファ)診療所で狭心症の手術を受けたという。
「中国の人民解放軍301病院の心臓専門医が平壌に入ってきて手術をしたと聞いた」(安燦一[アン・チャンイル]世界北朝鮮研究センター所長)
この時、ステント挿入手術も一緒にした模様だ。
金委員長は肥満が進んだ上に、最近では相当なストレスを抱えているという。そのいずれもが心臓に大きな負担をかけているのだろう。また、金日成(キム・イルソン)主席の死亡原因が心筋梗塞と発表されたことを考えると、循環器系の疾患は遺伝性かも知れない。
痩せ衰えた金正恩
1月8日、金委員長は、自分の誕生日パーティを当初、幼少期を過ごした元山(ウォンサン)の招待所で開こうとしたが断念、結局は平壌市内の「木蘭館」で幹部ら50人を招いて行った。ところがパーティに出席した党や軍部の幹部たちは大いに驚いたという。金委員長の姿があまりに痩せ衰えて見えたからだ。そのため出席者は、涙を流して「お休みになるように」と慰めの言葉を口にしたという。もしかしたらこの時期の前後に、金委員長は心臓手術を受けたのかもしれない。
しかし、誕生パーティの招待者を涙ぐませるほど、金委員長の健康を害しているストレスの元とは何なのだろうか。
アメリカによる制裁もその一つだろうが、それ以上に重くのしかかっているのは、若い世代に対する統制の問題と見てよいだろう(最近は新型肺炎の国内への感染への恐れもあるかもしれないが)。
1990年代半ばから始まった、いわゆる「苦難の行軍」の大飢饉時代に生まれた世代は、現在20代になっている。「ジャンマダン(市場)世代」と呼ばれる彼らは、北朝鮮当局からの配給を知らずに育った世代でもある。配給が途絶え、親たちが自力で商売をして生活を支える姿を見て来た。同時に彼らは、社会主義体制下で暮らしてはいるが、韓流のCDやDVDを密かに視聴し、頭の中ではすでに資本主義化されている。
そのため北朝鮮当局は、以前から彼らを中心とする「黄色の風」(資本主義の風潮)を最も警戒してきた。北朝鮮の20代の若者たちはそれ以前の世代に比べて自由奔放だ。配給を受けたことがないため「偉大な領導者」への感謝(?)の気持ちも理解できない。
こうした不穏な空気を、朝鮮労働党の幹部たちも感じていたのだろう。彼らは以前から北朝鮮版「アラブの春」(2010~2012年ごろにアラブの独裁国家で起こった民主化運動)を憂慮していた。
韓国に流出した理論誌『勤労者』
最近、韓国の朝鮮日報が朝鮮労働党内の理論誌『勤労者』2019年2月号を入手し、その内容を報道した。『勤労者』は、北朝鮮の幹部らが読む月刊の刊行物で、対外秘であるため、外部に流出することは極めて珍しい。
報道された『勤労者』の内容は、主にペク・ハクリョン平安北道青年同盟委員長による寄稿の中身だった。
その文章の中でペク・ハクリョン氏は、「青年たちを無防備に放っておけば(アラブの春のような)想像外の恐ろしいことが起こり得る」、「“アラブの春”によって政権交代の悲劇的事例が連発したのも(中略)主に20代の青年たちが手電話機(携帯電話)を通じて西側のインターネットに接続し、彼らが流す逆宣伝資料を見て、反政府行動に結集したからだ」とし、「青年たちを無防備状態にしたら、恐ろしいことが起きかねないという深刻な教訓を生かしてくれている」と警告した。
北朝鮮の青年同盟委員会は、若者の思想教育や政治生活を総括する部署だ。この部署の幹部らが「アラブの春」を口にすること自体、青年たちの不満が尋常ではないレベルにあることを告白したも同然だ。北朝鮮の携帯電話はすでに600万台以上。さらに昨年末、労働党中央委員会全員会議で金正恩委員長は、「国家統制力が弱まったのも事実だ」と吐露している。いくら恐怖政治で政権を維持していく独裁国家であろうとも、「北朝鮮の春」は想像すらしたくないだろう。
もう一つ、金正恩委員長の大きなストレスの元になっていると思われるのは、北朝鮮内でささやかれているある噂だ。現在、多くの人々が集まるジャンマダン(農民市場)では、金委員長が、当時北朝鮮のナンバー2とされていた張成沢(チャン・ソンテク)氏に続いて、その妻で、実の叔母でもある金敬姫(キム・ギョンヒ)氏を殺したという噂が広まっている。
1月25日、三池淵劇場での記念公演に金敬姫・元秘書を復活させたのも、こうした噂をかき消すためだったのかもしれない。
叔母・金敬姫氏殺害を知る関係者も皆殺し
筆者は2月7日付のJBpressで、金敬姫氏は甥である金正恩委員長の命令によってすでに毒殺された、との記事を書いた。
(参考記事)6年ぶりに登場の金正恩の叔母、その影武者説を追う
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59259
その後、さらに詳しい証言を得たので、それも含めて改めてこの件を説明しておきたい。
ナンバー2である張成沢氏を処刑しようとする北朝鮮指導部の動きを察知した金敬姫氏はこれに強く反対したが、聞き入れられなかったため、金敬姫氏は朝鮮労働党組織指導部に公式に提案書(抗議文)を提出した。
その提案書には、「私の意見は、張成沢部長に罪はあるが、処刑はできない。革命化区域(思想の再教育と強制労役などをさせる施設で、一定期間の収容後は解放される)に送ることで済ませよう」と記されていた。
これを受け取った組織指導部は、金敬姫氏の意見を受け入れ、同様の報告書を党上層部に提出したのだが、金委員長はこれに激怒。反体制派の摘発を担う国家安全保衛部に命じ、張氏を処刑してしまった。
夫・張成沢が無数の機銃掃射により処刑され、その遺体も火炎放射器で無惨に焼き消された後、金敬姫氏は平壌郊外の別荘(招待所)で療養を兼ねて治療を受けていた。だが、夫の処刑に我慢ならなかった金敬姫氏は、その後も怒りを抑えきれず、金委員長に対する酷い悪口を続けた。これが最高指導部に報告され、金敬姫氏まで毒殺されてしまったという。
ところが、事件はそこで終わらなかった。
金敬姫氏の毒殺直後、その招待所に派遣され、治療にあたっていた烽火診療所(金一族だけが治療を受けられる北朝鮮の最高の施設の病院)の医師や看護師ら、補佐していた秘書、また招待所を警備していた護衛司令部の警備兵らがガス爆発を装って、皆殺しにされてしまったのだという。もちろん「金敬姫氏の毒殺事件」を覆い隠すためだ。
だが、用意周到な“殺しの作戦”も、結局は市民にばれつつあるのだという。
叔父・張成沢氏の処刑に加えて淑母・金敬姫氏まで処刑したという噂が、ジャンマダンにまで広まると、民心は険しくなるに違いない。動揺する民心を鎮めるためには、金敬姫氏が生きていることを示してやればいい。そこで、突如、“代役”金敬姫の姿を披露するに至ったのだ。そうすることで、張成沢の処刑には、妻・金敬姫書記も同意(黙認)していたのだ、と印象付けることもできる――そんな計算が働いていたに違いない。
だが、“代役”金敬姫については、すでに平壌では「偽物」との噂がかなり広がっているようだ。こうなると、金敬姫の影武者を引っ張り出してきたのは、金正恩委員長にとって大失敗ということになる。この代役の事実が知られれば、北朝鮮市民の怒りはさらに増し、金委員長に対する信頼も大きく毀損するのは間違いない。
このように近親者を殺害するのは、自らの権力にとって代わる可能性のある人物を排除するために、独裁国家では珍しいことではない。
叔父・金平一駐チェコ大使を召還した理由
北朝鮮からは昨年11月にも、金委員長のある近親者について、新たな動静が伝わってきていた。やはり叔父にあたる金平一(キム・ピョンイル)氏についての動きだ。
北朝鮮当局は去年11月、駐チェコ大使だった金平一氏を本国に召還した。金平一氏は、金日成主席と二番目の夫人・金聖愛(キム・ソンエ)氏との間に生まれた。金正日総書記とは腹違いの兄弟で、金正恩委員長には叔父だ。金正日総書記によって排除の形で海外に出させた(送られた)後に、ハンガリー大使を皮切りに、ブルガリア、フィンランド、ポーランドの大使を歴任し、約37年間も本国に戻ることができなかった。この間、父親である金日成主席が亡くなっているが、その際にも北朝鮮に入ることができず、父親の葬儀に参列することも叶わなかった。
北朝鮮当局は、昨年の金氏の召喚理由を明らかにしていないが、北朝鮮を脱出して海外に亡命した高位脱北者らが、金平一氏を亡命政府指導者に推戴するために彼と接触しようする動きがあり、これを察知した北朝鮮指導部が強制的に送還させた、とする分析が最も有力視されている。であれば、金平一氏はおそらく、二度と国外に出ることはできまい。
万が一、国内でクーデターなどが起こった際、反乱分子の旗頭に推されそうな腹違いの兄弟や叔父などを、金正恩委員長はことごとく排除している。それを考えれば、今後の金平一氏にとって最も良い待遇は、母親・金聖愛氏と同様の「終身軟禁生活」ということになるだろう。
こうして親族を次々と排除している張本人・金委員長も、彼らの心の内の怨嗟の声を感じているに違いない。そのプレッシャーも、彼の健康状態に影響しているのかもしれない。
さらに対外関係からくるプレッシャーも相当なものがある。金委員長は昨年末に豪語したドナルド・トランプ米大統領への「クリスマスプレゼント」も贈ることができなかった。トランプ大統領は最近の国政演説でも、北朝鮮や非核化について一言も言及していない。北朝鮮との非核化に向けた実務協議が、立て続けに物別れに終わると、失望したトランプ大統領は側近たちを通じて、11月の大統領選挙までは第3回米朝会談はしないとまで言っている。アメリカとの交渉を通じて、一刻も早く制裁を解いてもらいたい金正恩委員長にとって、これは途方もなく長い時間だ。
亡命した太永浩元駐英公使が韓国の総選挙に
このような状況の中、さらに金総書記にとって好ましくないニュースが、ソウルからもたらされた。
2016年に、駐英北朝鮮大使館公使として在職中に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏が、最近になって最大野党・自由韓国党に入党し、4月の国会議員総選挙に出馬するというのだ。自由韓国党の指導部は、太氏をソウルの富裕層が住む新都心の江南甲選挙区から出馬させようとしている。高位級の脱北者で、比例代表ではなく選挙区から立候補するのは初めてのケースになる。
太氏は出馬表明会見で、「私が大韓民国の小選挙区から国会議員に当選したら、北朝鮮の体制維持の中核を担っているエリートや、世界各国で勤務する北朝鮮の外交官たち、さらには自由を求める北朝鮮の善良な市民らは、希望を超えて確信を持つことになるだろう」とし、「不幸にも(韓国の)現在の対北政策と統一政策はとんでもない方向に流れている」と述べた。
北朝鮮の党幹部たちは以前、第三国で会った脱北者らに「太永浩・元公使は韓国で元気か」と尋ねたという。「北朝鮮の高位亡命者は韓国でよい待遇を受けて、元気でやっているのか」という意味の質問なのだ。今回の太永浩氏の出馬の弁(発言)は、北朝鮮のエリート幹部らに明確なメッセージを送っている。
以前から、北朝鮮の軍幹部は、有事が起きて北朝鮮が韓国に吸収統一でもされるようなことになった場合、自分たちの安危と職責はどうなるのか、ということに強い関心を示していたという。太氏は自分が当選すれば、北朝鮮幹部らに「亡命しても韓国社会で成功できると示せれば、統一されても安心できるという確信を彼らに与えることができるだろう」と話したのだ。
このような動きの一つひとつが、金委員長にとって重くのしかかっている。体制の揺らぎは、即座に自らの生命の危機に繋がることを痛いほど感じているからだ。
果たして「平壌の春」は現実のものとなるのか。三重四重の監視体制の下で北朝鮮の市民が民主化運動に立ち上がるのは容易ではないだろう。それでも、市民の不満と不信の高まりをひしひしと感じている金委員長は、国営メディアを通じて見せる尊大な態度とは裏腹に、心臓が縮み上がるような思いをしながら日々を過ごしているに違いない。
金委員長の健康を害しているストレスの元とは何なのか。
アメリカによる制裁もその一つだろうが、それ以上に重くのしかかっているのは、若い世代に対する統制の問題と見てよいと朴承珉氏。
現在20代になっている。「ジャンマダン(市場)世代」と呼ばれる若者達は、北朝鮮当局からの配給を知らずに育った世代で、親たちが自力で商売をして生活を支える姿を見て来た。
同時に彼らは、社会主義体制下で暮らしてはいるが、韓流のCDやDVDを密かに視聴し、頭の中ではすでに資本主義化されている。
この世代は、配給を受けたことがないため「偉大な領導者」への感謝(?)の気持ちも理解できない。
北朝鮮当局は、以前から彼らを中心とする「黄色の風」(資本主義の風潮)を最も警戒してきた。
朝鮮日報が入手した、朝鮮労働党内の理論誌『勤労者』2019年2月号のペク・ハクリョン平安北道青年同盟委員長による寄稿によると、「青年たちを無防備に放っておけば(アラブの春のような)想像外の恐ろしいことが起こり得る」と警鐘を鳴らしているのだそうです。
「平壌の春 」への警戒。
幹部らが「アラブの春」を口にすること自体、青年たちの不満が尋常ではないレベルにあることを告白したも同然だと朴氏。
もう一つ、金正恩委員長の大きなストレスの元になっていると思われるのは、中国と内通していると銃殺した張成沢(チャン・ソンテク)氏に続いて、その妻で、実の叔母でもある金敬姫(キム・ギョンヒ)氏を殺したという噂が、多くの人々が集まるジャンマダン(農民市場)で広まっていることだと。
1月25日、三池淵劇場での記念公演に金敬姫・元秘書を復活させたのも、こうした噂をかき消すためだったのかもしれないと朴氏。
夫の処刑に我慢ならなかった金敬姫氏は、その後も怒りを抑えきれず、金委員長に対する酷い悪口を続けた。これが最高指導部に報告され、金敬姫氏まで毒殺されてしまった。
更に、毒殺直後、その招待所に派遣され、治療にあたっていた烽火診療所の医師や看護師ら、補佐していた秘書、また招待所を警備していた護衛司令部の警備兵らがガス爆発を装って、皆殺しにされてしまったのだという噂。
用意周到な“殺しの作戦”も、結局は市民にばれつつあるのだと。
動揺する民心を鎮めるためには、金敬姫氏が生きていることを示してやればいい。そこで、突如、“代役”金敬姫の姿を披露するに至ったと。
さらに金総書記にとって好ましくないニュースが、駐英北朝鮮大使館公使として在職中に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏が、最近になって最大野党・自由韓国党に入党し、4月の国会議員総選挙に出馬するというもの。
「北朝鮮の高位亡命者は韓国でよい待遇を受けて、元気でやっているのか」という北朝鮮の党幹部たちの懸念に、「大韓民国の小選挙区から国会議員に当選したら、北朝鮮の体制維持の中核を担っているエリートや、世界各国で勤務する北朝鮮の外交官たち、さらには自由を求める北朝鮮の善良な市民らは、希望を超えて確信を持つことになるだろう」と明確なメッセージを送っていることは、揺さぶりとなっているのですね。
諸々のプレッシャーがかかっている金正恩。
「平壌の春」の気配は実現化するのか。
市民の不満と不信の高まりをひしひしと感じている金委員長は、と心臓が縮み上がるような思いをしながら日々を過ごしているに違いないと朴氏・
そこへ、「COVID_19」の脅威で、中国との交流遮断に迫られ、国連制裁でピンチの国内経済に追い打ちをかけられてしまっています。
新型コロナウイルス、人民軍への感染で北朝鮮崩壊 死亡者5人をひた隠し、中国の支援も得られず(1/7) | JBpress(Japan Business Press)
心臓病が懸念されます。
# 冒頭の画像は、三池淵劇場での記念公演で、金正恩委員長とその妻・李雪主氏と並んで座る金敬姫氏