日米首脳会談では、普天間移転についての日米合意に向けた進展を強い調子で迫られたことは諸兄がご承知のことで、遊爺も別稿で触れました。
また、南シナ海での中国の覇権強化に対し、ベトナムが中心になった中国包囲網造りへの動きも活発化し、米国はASEAN各国との連携・支援を強めると同時に、豪州とも包囲網形成の輪を広げています。
最近では、インドもベトナムとのガス田共同開発や軍事支援を表明し、包囲網へ参入してきていますね。
拡大を続ける中国の脅威に対し、米軍再編の一環として沖縄の位置が重要とされていると認識していますが、鳩で始まった民主党政権のガバナンス不足と民主党が持つ反米・反基地運動への顕在・潜在的支持「体質」から、米国では日本での活動から撤退、豪州へ移転しろという声が増えてきているのだそうです。
民主党政権は、日米の外務・国防相による協議の場、2プラス2=日米安全保障協議委員会を儀式だと誤解しているのではないか。そうでなければ「豪州に敗北」は説明がつかぬ。米豪による2プラス2は昨年11月、豪州における米軍プレゼンス強化で合意。豪軍基地・施設への米軍進駐を検討する作業部会を発足させ、協議を重ねる方針だ。
これに比し、民主党政権下の対米関係は、沖縄県の米軍基地移設問題を解決するどころか悪化させてしまった。
鳩山由紀夫元首相の「基本的には県外、できれば国外と思っている」という思い付き「発言」がその発端。以来、米国内外の一部識者は、米軍基地を日本から豪州を含む大洋州へ移転させよ-との論調を掲げるに至った。
◆「ヨシハラ論」の結論
もっとも、以前からこの種の論調はあった。当然ながら、中国の怒濤(どとう)のような軍事拡大を見据え、日本の安全保障上の価値は高まっているため、反対意見も強い。しかし、民主党政権の指導力や地方との調整能力上の「欠陥」、反米・反基地運動への顕在・潜在的支持「体質」は、米戦略が描くベクトルを変えるだけの、異例なほど強い因子を創り始めた。
例えば、日系の米海軍大学准教授、トシ・ヨシハラ博士が豪州を代表する外交・軍事のシンクタンク、ロウイー研究所から7月に出した論文。その結論は次の如(ごと)くだ。
《横須賀・佐世保・嘉手納は想定される重要戦域から離れ過ぎである半面、中国軍のミサイル射程内にあり極めて危険。それ故、海軍力の少なくとも一部を豪州に移動させるべきだ》
仮に「問題提起」だとしても、自国防衛という主権国家にとっての義務・権利を、ハナから米国に委ねてきたわが国にとり、安全保障上看過できない主張だ。
過去の著書・論文を総合すると「ヨシハラ論」は、中国海軍増強により米海軍優位が一定程度損なわれるのではないかとの危機感に立つ。そのうえで、地球規模での米軍再編において、アジアに前方展開する際の3条件を提示した。すなわち-
(1)合理的配置であるか。
(2)敵の攻撃に耐えて、その機能を維持する能力(=抗堪性(こうたんせい))はあるか。
(3)基地受け入れ国やその国民にとり、基地が政治的に受け入れられているか。
3条件について、博士が日本の現下の情勢に照らし、分析した結果は-
《ソ連を仮想敵と位置付けていたため、日本は東・北に寄り過ぎで、南シナ海やインド洋へ展開するには時間がかかる。しかも、幾つもの航行を妨げる拠点に阻まれ、目標戦域に達せられるか疑義がある。
中国・インド両海軍が激突すれば決戦海域はインド洋・太平洋の“交差点”であるマラッカ海峡となるやもしれない。これをもってしても、海軍力の角逐(かくちく)は今や米海軍の勢力範囲=東アジアに限られることなく、大国間の相克は南=豪州へと移動している。「インド・太平洋海軍」へと変容せざるを得ない米海軍の出動拠点決定は急を要する》
《在日米軍基地は全て中国軍の短中距離ミサイルの射程内。嘉手納などは数時間で無力化される恐れがある。この点、豪州ならば“最終手段”である大陸間弾道弾を使うほか、ミサイルによる攻撃は不可能だ》
(3)について、博士の言及はないが、前述の鳩山「発言」や民主党政権の「欠陥」「体質」を考えれば、基地候補地としては「論外」となる。
日本は3条件の対象外ということだ。従って博士は、豪州こそ平時は原子力潜水艦基地として、非常時には米空母の中継基地として最適地と言い切り、豪西南部パース沖ガーデン島の豪海軍最大基地を指名すらしている。
◆持続可能な場所か
実のところ「豪州派」は、博士に限らない。昨年8月にも豪紙の外交担当論説委員で米ウッドロー・ウィルソン国際学術センターの客員研究員グレッグ・シェリダン氏が、豪北部ダーウィンへの米軍基地建設を“必然的”とさえ喧伝(けんでん)。ここに「相当規模の米海空軍と海兵隊を駐留させ、一定規模の装備・資材を事前集積しておくことは、米国の対中戦略に大きな意味を持つ」と論ずるのだった。
「シェリダン論」が米軍駐留条件の一つとして「ヨシハラ論」同様、地理的問題に加え「政治的に持続可能な場所」を指摘している点は不気味でさえある。両論共に「日本/沖縄は政治的に持続不可能な場所」と言っているに等しい。
米軍が日本から出て行くのであれば、日本は自衛隊を飛躍的に拡充し、核保有論議も始めなければならない。
この際「日本は今までとかく米国に依存し過ぎていた」と大口をたたいた鳩山氏に、その旗振り役をしていただこうではないか。
南シナ海での中国包囲網のながれについては、遊爺も触れてきましたが、産経が以下のまとめ記事を載せています。
【緯度経度】北京・山本勲 加速する南シナ海の合従連衡 - MSN産経ニュース
米軍再編の対象は、中東から日本への中国を取り巻く弧が挙げられていたのですが、今ホットなのは南シナ海。次いで、台湾海峡、東シナ海から西太平洋。目を転じればインド洋となります。
米軍のアジアの拠点としての条件で、「場所」、「抗堪性」、「国やその国民にとり、基地が政治的に受け入れられているか」が挙げられるのだそうですが、日豪を比較するとすべてに日本は不適格で、豪州のほうが優位性があるというのです。
「国やその国民にとり、基地が政治的に受け入れられているか」が不適格、来るな、出ていけと言われながらそこにとどまり、命を懸けて護ろう(勿論、米国の国益の為で、日本の安全保障は従属的)とは思わないのは、遊爺が米国の立場であれば、当然のことです。
未だ反対意見がおおいとのことですが、基地の条件がこの三つだとすれば、いずれこの流れになる可能性は強いと言えるでしょう。ロシアの極東軍備強化の新しい動きへの対処が必要にはなりますが。
米軍におんぶにだっこで依存してきた日本の安全保障を、嫌米軍基地で放棄するには、日本独自の防衛力をどうするか、それも拡大を続け空母も配備し、EEZ境界や尖閣の領海を脅かしている中国の軍事力を抑止できるものが必要なのです。
中国、ロシア、韓国、北朝鮮といった隙あらば他国を侵略しようとしている国々と隣接している日本で、安全で平和な独立国としての暮らしを続けるには、どうすればよいのか。
とても、一国でなしえることとは考えられません。
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