Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ヘンダーソン夫人の贈り物

2009-04-20 | 外国映画(は行)
★★★★ 2007年/イギリス 監督/スティーヴン・フリアーズ
名人芸の「Ou!」


ジュディ・デンチの魅力全開です。普通「魅力全開」って若手のピチピチした女優に使うんですけどね、御年74歳のジュディ・デンチにも使わせていただきます。なんせコスプレまでして張り切ってますから、拍手です。私、彼女の「ou!」っていう、イギリス英語らしい感嘆の響きがお気に入りです。アメリカ人の両手広げて「Oh~!」ってのじゃ、ありませんよ。口をすぼめて母音のuをきっちり発音する「オゥ!」っての。驚きの「Ou!」、喜びの「Ou!」、ためらいの「Ou!」、諌める「Ou!」。ちょっと、気をつけて見てみてください。このひと言で、いろんな感情を表現してますから。もうこれは名人芸だと思います。

チャレンジ精神旺盛だけど、「あなたは世間を知らなすぎる」と非難される。ここが本作のポイント。夫を失い、老後の趣味にこれといったものも見いだせず、一念発起して乗り出した劇場経営。本来ならば、この年でがんばってるよね、と観客に勇気を与える作品かと思うのですが、ヘンダーソン夫人は何度も挫折を味わう。締め出しまで食らう。このうまくいかない感じが、すごく現実的。だからこそ、中年を過ぎた女性陣は我が事のように感情移入してしまう。

彼女がヌードレビューにこだわったのも、戦争反対とか、道徳観を変えるとか、そんな大義名分からではないんですよね。実にパーソナルな問題なんです。とりたてて何事かを成そうという高邁な精神なんてなくとも、ひとりの人間としての悔しさ、悲しさが原動力になる。それでいいんだよ、と勇気をづけてもらったような気がする。鑑賞後の味わいもとっても清々しくて良作です。