落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

山は高かった

2006年04月01日 | movie
『我愛你 ウォ・アイ・ニー』
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婚約者を事故で突然失った小橘(徐静蕾シュー・ジンレイ)は彼の親友だった王毅([イ冬]大為トン・ダーウェイ)と結婚、彼女の勤務する病院の職員寮で新婚生活を始めるが、異様に独占欲が強く自己中心的な妻との生活に王毅は間もなく疲れはじめ、毎日のように激しい口論を繰り返すようになる。
まあかなりイタイ話です。でもこれも最初観た時にすぐわかるんだけど、ヒロインはふつうの精神状態ではない。一見ごくノーマルに社会生活を営んでいるので周囲の人間はなかなか気づかないんだけど、この人は完全に病気です。愛する人と対等な関係を築くことができない、とにかく相手に全面的に依存するというかたちでしかコミュニケーションできないという、いわゆる一種のアダルト・チルドレン。それも重症。アダルト・チルドレンは厳密には病気ではないけど、このヒロインのケースは病気の域に入ってるかもしれない。なぜ彼女がそうなったのかは映画の終わりの方でちゃんと説明がある。ホラね、やっぱりね。みたいな。

しかし全編ひっきりなしに出てくる夫婦の口論の内容自体はとにくとりたてておかしなやり取りではない。夫婦でも恋人でも、親しい他人との共同生活の経験のある人なら、誰でも大なり小なり身に覚えのあるような些細なことでふたりはいつも争っている。傍目からみれば争うほどのことではないのに争わずにいられないのは、彼らに愛情があるからだ。愛しているから向きあいたい、つながっていたいと欲するからこそ、彼らは諍いをやめない。
そんな愛情は歪んでいるという人もいるかもしれない。だが愛情なんてみんなどこか歪んで、病んでいるものだ。この物語は、愛情という深く複雑な感情の病理の部分を克明に描写しているという意味で非常に挑戦的だし、マジメな力作だとも思います。

主演の徐静蕾はいかにも薄幸そうな美人ぶりと少女のように毒気のある話し方が非常にこの役にあってます。[イ冬]大為はたぶん映画を観たのは初めてかな?最近人気あるみたいですね。
上映前に張元(チャン・ユアン)監督の次作『緑茶』の予告をやってました。
撮影監督は張元組の常連張健(チャン・ジェン)。『東宮西宮』『藍宇』の人ですね。この人の映像はライティングはスタイリッシュだしカメラワークの?ト吸がなんとゆーかシックで、ホントにオシャレで大人っぽい。今回もかっこよかったです。

山は高かった

2006年04月01日 | movie
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
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一時はオスカー候補にも挙がったデヴィッド・クローネンバーグの最新作。
トム・ストール(ヴィゴ・モーテンセン)はインディアナ州の片田舎で小さなダイナーを営む平凡な男。ある日ダイナーを襲った強盗を反射的に射殺したトムは街の英雄に祭り上げられる。そして彼を“ジョーイ”と呼ぶマフィア風の男たちがトムの店や家族の周囲に出没するようになり、徐々に家庭の平穏は乱され平和だった生活が脅かされ・・・という、一見サスペンスのよーな物語。
しかし。しかしこれはサスペンスではなーい。もし仮にそーだとしたら話がゆる過ぎます。カンッペキに宣伝ミスですこれわー。

※以下ネタバレ部分。
てゆーのが。主人公トムが筋金入りの天才的殺人マシーンであることは初めの強盗のシーンで誰にでもわかってしまう。目もさめるほどあざやかな身のこなし、一切の躊躇もなく相手の急所を狙う銃の撃ち方とそのテクニック、どっからどーみても素人とは思えません。それはその場にいた全員が気づくはずだ。疑いの余地がない。アメリカが舞台だから軍隊経験のある人なら射撃くらいはできるだろうけど、軍隊で教わる射撃とギャングの教わる射撃はまるっきり質が違う。それに身分をいつわって暮してる人間が無防備にメディアの取材に応じたりする筈がないし、そもそもひとめにつくような行動や職業は選ばないはずだ。
おそらくトムはそういうことに神経をつかうタイプではないのだろう。それはそれでアリだ。
だから、この物語は彼が暴かれていく過去と戦うサスペンスなんかではなくて、「暴力」という烙印から無理矢理に逃れようとする不器用な男の悲しい物語ではないだろうか。サスペンスとしてはハッキリと三流だが、見方を変えれば、人殺しという取り返しのつかない罪を負った人間が、一生それに囚われ続ける不幸の一側面はちゃんと描かれている良作ともとれる。
トムに一旦身についた殺人テクニックは死ぬまで削ぎ落とせないだろうし、追っ手は彼を捕えるまで永久につきまとうだろう。まさに蟻地獄のような人生だ。それはそれで死ぬよりも悲惨な生き方かもしれない。
※ネタバレ以上。

特殊メイクがスゴイです(笑)。主人公はいちーち相手の心臓か頭部をきっちり撃つんだけど、それを逐一ちゃんと撮るんだよね。もーリアルすぎて笑っちゃう。暴力シーンが苦手なぐりでもここまで来たら笑います。銃弾の威力というか衝撃度の表現も、黒澤明の斬撃シーンばりのナマナマしさ。マニアックだ。
それとオスカー候補になったウィリアム・ハートの出番が少なくてまた笑った。なっかなか出てこないし、出てきたらきたでアッという間にご退場(爆)。マジでそれだけ?うそぉ?!みたいな。
奥さん役のマリア・ベロとヴィゴのラブシーンが激しさがなんともクローネンバーグらしかったです。