『ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白』アンソニー・スオフォード著 中谷和男訳
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映画『ジャーヘッド』の原作。
これはえーと・・・ノンフィクション小説なのかな?エッセイ?まあジャンルはどうでもいいですね。非常におもしろかったです。
映画で主役を演じたジェイク・ギレンホールが、連続して撮影した『ブロークバック・マウンテン』と今作の役を比較して「(『ブ山』の)ジャック・ツイストとアンソニー・スオフォードはとてもよく似ている」とインタビューで語っていて、正直それを聞いたときは「え?そう?なんで?」と疑問に思ったものです。そりゃ同じ人が演じてんだから少しは似てるとこもなくはないけど、でも「よく似てる」ってほどのことはないんじゃん?とゆー。
けどこの原作読むとすごいわかりますね。それ。かなりカブってます。ジャックとスオッフ。
それも奇妙なことに、『ブ山』のジャックは原作小説の人物造形と結構違ってて、映画のジャックは半ばオリジナルのキャラクターになっているのだが、その“映画版ジャック”と“原作版スオッフ”に重なりあう部分がかなりある。繊細で知的で情熱的で大胆かつドライで、ある部分では相当合理的なものの考え方もする。いつもちょっと高いところから昂然と状況を見下ろしているようで、意外ときっちり地に足が着いてたり、かと思えば年齢相応にお調子者なとこもあり。
そんなスオッフくん(ハタチ)の目からみた湾岸戦争を描いたのが『ジャーヘッド』である。
湾岸戦争が起きたのは1990年8月。てことは彼は1970年生まれかな?大体?つーことはぐりとは完全に同世代か。
ぐりは実をいうとこの湾岸戦争のことをほとんど覚えてません。なぜか?受験だったから。8月とゆーと夏期講習中ですね。予備校の近所のビジネスホテルに住んで、毎日TVも新聞もみず朝は7時から夜8時までひたすら絵を描いて、あとは英語の勉強をするか酒を飲むかデートするか、それしかやってなかったです。よその国どころか日本のどっか別な場所でどーゆーことが起ころーがいっさい知ったこっちゃなかった。そうやってぐりが来る日も来る日も何十枚という木炭紙を真っ黒に塗りつぶし、キャンバスを張っては描いて剥がし、組み立て直してまた張って、を繰り返してた間に、戦争は始まって、終わってました。
その一方で、大学に行こうかどうしようか悩んだトニー青年は、スオフォード一家の男たるべき義務感から海兵隊に入り、イラクに送られ、砂の上を這いずり回ってた訳だ。
ぐりがえんえん戦争当時の自分のことを書いたのは、この本がどうしてもそのことを思いださせるからだ。ぐりも同時期に家族から離れて受験という戦争を戦ってたから、なんてアホなことをいいたいのではない。そうじゃなくて、ここに描かれた戦争が、徹頭徹尾、個人的な人間の感覚を綿々と綴ることで表現されてるからだ。この本/映画をしてよく「等身大」なんて陳腐な比喩が用いられるけど、もうもうそんなもんじゃない。この本のページの上には、トニーが流した汗、もらしたおしっこ、頭の皮までじゃりじゃりにする砂、ヤッた女のおっぱいの湿り気、飲んだ酒と吐いたゲロ、霧雨のように降り注いでいた重油の粒、イラク兵の死体の焼け焦げetc.etc.、読み手の末梢神経に直接触れてくる分子たちがそのまま、細密なモザイク画のようにぎっしりと植え込まれているのだ。
そこから浮かんでくる戦争の情景は、あまりにもあざやかで、生々しくて、かぐわしく、そして痛い。まるで1990年のぐりの思い出、そのものであるかのように。
スオフォードは一時沖縄に派遣されてた時期があって、そのころ交際した日本人の女の子は彼を「アンソニー王子」と呼んだそうだ。彼女の好きなマンガのキャラクターと同じ名前だからと。『キャンディキャンディ』のことですね。この一文を読んで「そうか、スオッフとぐりは同世代なんだっけ」と強く思った。ぐりも『キャンディキャンディ』毎週みてたから。そういえばあのアニメには第一次世界大戦が出てきたな。
本作はニューヨークタイムズの書評で「戦争文学の最高峰」とまで絶賛されたらしいけど、それ確かに全然誇張じゃないです。すごーくよく描けてる。いい本です。
文体にはごく簡潔な断定調で独特のリズム感があって、暗喩が多用されてて、雰囲気としてはとても詩的だ。文学的。と同時にクールでもあり情緒的でもあり、かつまたわかりやすいし、読みやすい。中高生なんかとってもオススメです。
あと訳もいいですね。ぐりは原文と比較したりはしてませんが、読んでてひっかかるような安直な語彙も解釈に迷うような表現もまったくなくて、とてもナチュラルな訳文という印象はもちました。
映画との比較としては、つくづくあの脚本はよく出来てたんだなと改めて思い。
この本はイラクのクウェート侵攻から始まって、トニーの生立ちや訓練生活など過去の経験も織りまぜて時制を前後しながら語られるんだけど、描写がストイックなぶん盛りこまれてる要素の量がハンパではない。映画はその膨大なエピソードの中からいくつかを効率良くピックアップして時系列に並べかえ、間に映画として必要な説明を新たに加え「ひとりの男の子が海兵隊に入って訓練を受けて湾岸に行って帰ってくる物語」としてシンプルに再構成している。たとえば口でトランペットのマネをするシーンや泥水の中を這う訓練、クリスマスの馬鹿騒ぎなどは映画のオリジナル(海兵隊の伝説に基づいてるそうだ)だし、他にも似たようなエピソードの登場順序を替えたり物語上の意味を変換したりしている箇所も多い。
それでいて、原作の呼吸、空気、肝心の軸の部分の一方─戦争がどれだけ人間の人格を荒廃させ、消耗させるか─が非常にうまく再現されているのには改めて感心。ただパンチ力としてはやっぱ原作の方が強いけどね。
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映画『ジャーヘッド』の原作。
これはえーと・・・ノンフィクション小説なのかな?エッセイ?まあジャンルはどうでもいいですね。非常におもしろかったです。
映画で主役を演じたジェイク・ギレンホールが、連続して撮影した『ブロークバック・マウンテン』と今作の役を比較して「(『ブ山』の)ジャック・ツイストとアンソニー・スオフォードはとてもよく似ている」とインタビューで語っていて、正直それを聞いたときは「え?そう?なんで?」と疑問に思ったものです。そりゃ同じ人が演じてんだから少しは似てるとこもなくはないけど、でも「よく似てる」ってほどのことはないんじゃん?とゆー。
けどこの原作読むとすごいわかりますね。それ。かなりカブってます。ジャックとスオッフ。
それも奇妙なことに、『ブ山』のジャックは原作小説の人物造形と結構違ってて、映画のジャックは半ばオリジナルのキャラクターになっているのだが、その“映画版ジャック”と“原作版スオッフ”に重なりあう部分がかなりある。繊細で知的で情熱的で大胆かつドライで、ある部分では相当合理的なものの考え方もする。いつもちょっと高いところから昂然と状況を見下ろしているようで、意外ときっちり地に足が着いてたり、かと思えば年齢相応にお調子者なとこもあり。
そんなスオッフくん(ハタチ)の目からみた湾岸戦争を描いたのが『ジャーヘッド』である。
湾岸戦争が起きたのは1990年8月。てことは彼は1970年生まれかな?大体?つーことはぐりとは完全に同世代か。
ぐりは実をいうとこの湾岸戦争のことをほとんど覚えてません。なぜか?受験だったから。8月とゆーと夏期講習中ですね。予備校の近所のビジネスホテルに住んで、毎日TVも新聞もみず朝は7時から夜8時までひたすら絵を描いて、あとは英語の勉強をするか酒を飲むかデートするか、それしかやってなかったです。よその国どころか日本のどっか別な場所でどーゆーことが起ころーがいっさい知ったこっちゃなかった。そうやってぐりが来る日も来る日も何十枚という木炭紙を真っ黒に塗りつぶし、キャンバスを張っては描いて剥がし、組み立て直してまた張って、を繰り返してた間に、戦争は始まって、終わってました。
その一方で、大学に行こうかどうしようか悩んだトニー青年は、スオフォード一家の男たるべき義務感から海兵隊に入り、イラクに送られ、砂の上を這いずり回ってた訳だ。
ぐりがえんえん戦争当時の自分のことを書いたのは、この本がどうしてもそのことを思いださせるからだ。ぐりも同時期に家族から離れて受験という戦争を戦ってたから、なんてアホなことをいいたいのではない。そうじゃなくて、ここに描かれた戦争が、徹頭徹尾、個人的な人間の感覚を綿々と綴ることで表現されてるからだ。この本/映画をしてよく「等身大」なんて陳腐な比喩が用いられるけど、もうもうそんなもんじゃない。この本のページの上には、トニーが流した汗、もらしたおしっこ、頭の皮までじゃりじゃりにする砂、ヤッた女のおっぱいの湿り気、飲んだ酒と吐いたゲロ、霧雨のように降り注いでいた重油の粒、イラク兵の死体の焼け焦げetc.etc.、読み手の末梢神経に直接触れてくる分子たちがそのまま、細密なモザイク画のようにぎっしりと植え込まれているのだ。
そこから浮かんでくる戦争の情景は、あまりにもあざやかで、生々しくて、かぐわしく、そして痛い。まるで1990年のぐりの思い出、そのものであるかのように。
スオフォードは一時沖縄に派遣されてた時期があって、そのころ交際した日本人の女の子は彼を「アンソニー王子」と呼んだそうだ。彼女の好きなマンガのキャラクターと同じ名前だからと。『キャンディキャンディ』のことですね。この一文を読んで「そうか、スオッフとぐりは同世代なんだっけ」と強く思った。ぐりも『キャンディキャンディ』毎週みてたから。そういえばあのアニメには第一次世界大戦が出てきたな。
本作はニューヨークタイムズの書評で「戦争文学の最高峰」とまで絶賛されたらしいけど、それ確かに全然誇張じゃないです。すごーくよく描けてる。いい本です。
文体にはごく簡潔な断定調で独特のリズム感があって、暗喩が多用されてて、雰囲気としてはとても詩的だ。文学的。と同時にクールでもあり情緒的でもあり、かつまたわかりやすいし、読みやすい。中高生なんかとってもオススメです。
あと訳もいいですね。ぐりは原文と比較したりはしてませんが、読んでてひっかかるような安直な語彙も解釈に迷うような表現もまったくなくて、とてもナチュラルな訳文という印象はもちました。
映画との比較としては、つくづくあの脚本はよく出来てたんだなと改めて思い。
この本はイラクのクウェート侵攻から始まって、トニーの生立ちや訓練生活など過去の経験も織りまぜて時制を前後しながら語られるんだけど、描写がストイックなぶん盛りこまれてる要素の量がハンパではない。映画はその膨大なエピソードの中からいくつかを効率良くピックアップして時系列に並べかえ、間に映画として必要な説明を新たに加え「ひとりの男の子が海兵隊に入って訓練を受けて湾岸に行って帰ってくる物語」としてシンプルに再構成している。たとえば口でトランペットのマネをするシーンや泥水の中を這う訓練、クリスマスの馬鹿騒ぎなどは映画のオリジナル(海兵隊の伝説に基づいてるそうだ)だし、他にも似たようなエピソードの登場順序を替えたり物語上の意味を変換したりしている箇所も多い。
それでいて、原作の呼吸、空気、肝心の軸の部分の一方─戦争がどれだけ人間の人格を荒廃させ、消耗させるか─が非常にうまく再現されているのには改めて感心。ただパンチ力としてはやっぱ原作の方が強いけどね。