落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

落下する天国

2011年05月28日 | movie
『ブラック・スワン』

今年のアカデミー賞で主演のナタリー・ポートマンがオスカーを獲得した話題作。
ニューヨークのバレエ団で白鳥と黒鳥をひとり二役で踊る「白鳥の湖」が上演されることになり、長年プリマを務めたベス(ウィノナ・ライダー)に代わって抜擢された優等生のニナ(ポートマン)。
振付家ルロイ(ヴァンサン・カッセル)に「自分を解き放て」と厳しく指導され、西海岸からやって来た新人のリリー(ミラ・クニス)とのライバル関係にも追いつめられ、プレッシャーの中で精神的な極限状態に陥っていく。
『レスラー』でヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したダーレン・アロノフスキー監督作品。

あ゛~~~~ごわ゛がっ゛だ~~~~~。
すっげーこわかったー。
ストーリーはすごくシンプル。まったくひねりもなんにもない。
もともと優等生で潔癖で自傷癖のある、みるからに精神的にもろそうなヒロインが、待ち望んだダンサー人生最大のチャンスに押しつぶされ、自滅していく。展開に意外性はいっさいない。
じゃあ何が怖いかっつーとやっぱディテールなのよ。要は、ヒロインの壊れっぷりの描写、表現が怖い。
具体的にいえば、彼女は壊れていくにつれてひどい妄想に悩まされるんだけど、その妄想と現実の境目が全然ない。観てる方も完全にその妄想に取り込まれてしまう。
その妄想も、現実に起こりそうで起こらなさそうな微妙な妄想だったり、感覚的に痛い妄想だったりして、映像として観てるだけで恐怖感を煽られるんだよね。
カメラワークもドキュメンタリータッチで、異様にリアル。見終わってしまえばどこからどこまでが現実で、どこからどこまでが妄想だったのかもまったくわからないくらいです。
こわいってば!

キャスティングがまた素晴らしくて。
とくに完璧を求めるあまり自分で自分を壊してしまうナタリー・ポートマンのなりきりぶりは確かにオスカーもので、本気でバレリーナそのものの体型をつくりあげたヴィジュアルからして役と本人の境目がなくなってます。
ヴァンサン・カッセルはもうこの人ってなんでこんなに笑えるんだろう?ここまでベッタベタにコッテコテな役が、こんなにもぴったりハマる人ってそうはいないよ。画面にでてくるたんびに失笑しちゃってましたワタクシ。すみません・・・。
個人的にショックだったのはウィノナ・ライダー。最初観た時「ウィノナに似てるけど、まさかね」とか思ってました。だってあまりにも“零落れたプリマ”そのものだったから。ウィノナってぐり世代にとっては今もアイドルなのよ。確かにもう若くはないし一時の輝きはないかもしれないけど、こんなに残酷な役やっちゃうなんて~~~ウィノナが「フェラしたの?」なんて台詞いうような役やるなんて~~~うえーん。

見終わってみれば、これはストーリー的にも『レスラー』そっくりな映画になってるなあとも思い。
アレも自分の生き方を貫かんがために自滅を選ぶ主人公の話だし。
自滅ったって不幸な自滅ではない。ある意味理想の自滅。そんな自滅も世の中にはある、ってところが新表現なのかなあ。
しかしやたらに性表現が多かったのは正直ついていけんかったわあ。フェミニストの人が観たら怒られそうな気はするけど。何かっちゅーといちいち「女子のストレス=欲求不満」みたいな偏見、あるよねこの監督・・・。