『纏足の靴 小さな足の文化史』ドロシー・コウ著 小野和子+小野啓子訳
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2000年にトロントで開かれた「清末の中国における女性の生活と靴」という展覧会にあわせて出版された研究書の日本語版。
でも決して難しい本ではないです。華麗な刺繍やアップリケに彩られた美しい靴の図版がたくさん収録され、また纏足だけでなく纏足をした中国の女性と彼女たちが生きた中国の伝統的な家庭制度についても広く浅く易しく解説した本です。とっても読みやすい。
纏足といえば残酷でグロテスクで好色で非文明的な悪習というイメージが一般的だが、本書はそれとはまったく違った側面からこの習俗にアプローチしている。
そのとっかかりとして紹介されているのが「中国のシンデレラ」。
シンデレラ=灰かぶり姫といえば19世紀のグリム童話が有名だが、最近その起源は9世紀に中国で成立した「酉陽雑俎」という書物に登場する葉限という名の少女の物語であるらしいことがわかっている。ストーリーはグリム童話のシンデレラとほぼ一致していて、王が宴会でひろった金の靴を手がかりにヒロインを捜しあてて側室に迎え、彼女を虐待した継母や義姉は処刑される。
ここで注目されるべきはヒロインが靴によって人生に勝つ、という点である。その靴がもし大きかったら、王はおそらく葉限のもとにはたどりついてはいまい。靴が小さくて葉限にしか履けなかったからこそ、彼女は王に発見され得たのだ。
つまり小さな靴は既に当時「幸せな結婚=女性の地位向上」の象徴と考えられていたわけだ。
この本を読む限りでは、具体的にいつどのようにして纏足が始まったのかは実はよくわかっていないらしい。というのも纏足は女性だけの世界に秘められ隠された習俗であり、この習慣について書かれた歴史的文献や資料がほとんど残されていないからだ。
今のところ、墳墓の副葬品などから纏足が習俗として成立したのは13世紀頃ではないか、ということはわかっている。そして17世紀頃まではこれは漢民族の上流階級の女性だけの習慣だった。一般の女性にまで普及し始めたのは17〜19世紀のことで、この時代は纏足をしない満州族による清王朝が中国を支配していた。
要するに纏足は長い間少数派の上流階級=エリートの女性の習慣であり、それが一般化したのは漢民族の社会階級に変動が生じたからなのだ。一般の女性にとって纏足をすることは、ハイクラスの女性に少しでも近づくという幻想のための儀式と考えられていたともとらえることが出来る。
安易な喩えかもしれないが、中性ヨーロッパの女性たちがしていた極端に腰を締めつけるコルセットや、現代女性にとっての美容整形や豊胸手術と発想は似ているかもしれない。
そうした理屈よりも何よりも、ひたすら美しく愛らしく底の裏にまで意匠を凝らした数々の靴たちは、それらを一足一足丹誠こめてつくりあげた女性たち(靴はそれを履く女性や親族・友人によって手づくりされていた)が靴というファッションアイテムにこめた夢と希望と幸せへの祈りの深さ、篤さを能弁に語りかけてくる。
異文化の人間からみれば非人道的にみえる習慣であっても、それを何世紀も守ってきた当事者にもそれなりの道理とプライドがあるし、守られてきたからにはそれ相応の理由がある。纏足は時代の流れによって廃れる運命にはあったけれども、だからといって纏足をしていた女性たちを単純に卑下するのはフェアとはいえない。
纏足の時代にはその時代なりの幸せのかたちがあって、それは現代の幸せと簡単にひき比べられるほど世の中シンプルではないのだ。
纏足靴の写真はどれも綺麗だし、旧社会中国の一般的な家庭生活とその制度について知るにはいい本だと思います。オススメです。
それにしても纏足靴ってカワイイなあ。台湾にはコレを数千足コレクションしている方がおられるそうですが、いつか日本でも展覧会やってほしいです。
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2000年にトロントで開かれた「清末の中国における女性の生活と靴」という展覧会にあわせて出版された研究書の日本語版。
でも決して難しい本ではないです。華麗な刺繍やアップリケに彩られた美しい靴の図版がたくさん収録され、また纏足だけでなく纏足をした中国の女性と彼女たちが生きた中国の伝統的な家庭制度についても広く浅く易しく解説した本です。とっても読みやすい。
纏足といえば残酷でグロテスクで好色で非文明的な悪習というイメージが一般的だが、本書はそれとはまったく違った側面からこの習俗にアプローチしている。
そのとっかかりとして紹介されているのが「中国のシンデレラ」。
シンデレラ=灰かぶり姫といえば19世紀のグリム童話が有名だが、最近その起源は9世紀に中国で成立した「酉陽雑俎」という書物に登場する葉限という名の少女の物語であるらしいことがわかっている。ストーリーはグリム童話のシンデレラとほぼ一致していて、王が宴会でひろった金の靴を手がかりにヒロインを捜しあてて側室に迎え、彼女を虐待した継母や義姉は処刑される。
ここで注目されるべきはヒロインが靴によって人生に勝つ、という点である。その靴がもし大きかったら、王はおそらく葉限のもとにはたどりついてはいまい。靴が小さくて葉限にしか履けなかったからこそ、彼女は王に発見され得たのだ。
つまり小さな靴は既に当時「幸せな結婚=女性の地位向上」の象徴と考えられていたわけだ。
この本を読む限りでは、具体的にいつどのようにして纏足が始まったのかは実はよくわかっていないらしい。というのも纏足は女性だけの世界に秘められ隠された習俗であり、この習慣について書かれた歴史的文献や資料がほとんど残されていないからだ。
今のところ、墳墓の副葬品などから纏足が習俗として成立したのは13世紀頃ではないか、ということはわかっている。そして17世紀頃まではこれは漢民族の上流階級の女性だけの習慣だった。一般の女性にまで普及し始めたのは17〜19世紀のことで、この時代は纏足をしない満州族による清王朝が中国を支配していた。
要するに纏足は長い間少数派の上流階級=エリートの女性の習慣であり、それが一般化したのは漢民族の社会階級に変動が生じたからなのだ。一般の女性にとって纏足をすることは、ハイクラスの女性に少しでも近づくという幻想のための儀式と考えられていたともとらえることが出来る。
安易な喩えかもしれないが、中性ヨーロッパの女性たちがしていた極端に腰を締めつけるコルセットや、現代女性にとっての美容整形や豊胸手術と発想は似ているかもしれない。
そうした理屈よりも何よりも、ひたすら美しく愛らしく底の裏にまで意匠を凝らした数々の靴たちは、それらを一足一足丹誠こめてつくりあげた女性たち(靴はそれを履く女性や親族・友人によって手づくりされていた)が靴というファッションアイテムにこめた夢と希望と幸せへの祈りの深さ、篤さを能弁に語りかけてくる。
異文化の人間からみれば非人道的にみえる習慣であっても、それを何世紀も守ってきた当事者にもそれなりの道理とプライドがあるし、守られてきたからにはそれ相応の理由がある。纏足は時代の流れによって廃れる運命にはあったけれども、だからといって纏足をしていた女性たちを単純に卑下するのはフェアとはいえない。
纏足の時代にはその時代なりの幸せのかたちがあって、それは現代の幸せと簡単にひき比べられるほど世の中シンプルではないのだ。
纏足靴の写真はどれも綺麗だし、旧社会中国の一般的な家庭生活とその制度について知るにはいい本だと思います。オススメです。
それにしても纏足靴ってカワイイなあ。台湾にはコレを数千足コレクションしている方がおられるそうですが、いつか日本でも展覧会やってほしいです。
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