落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

野球は好きですか

2006年03月21日 | book
『二遊間の恋 大リーグ・ドレフュス事件』ピーター・レフコート著 石田善彦訳
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短編小説『ブロークバック・マウンテン』の映画化権が取得されてから完成まで7年もの歳月を費やしたように、文学的には高い評価を受けて映画化が計画されながらもなかなか実現に辿り着かない小説がいくつもある。この原題『The Dreyfus Affair』も発表後14年間に何度も映画化の噂が流れては消えるベストセラーのひとつ(ソース)。
ドレフュス事件といえば社会科の授業でも習う19世紀末フランスで起きた軍事スパイ事件のことだが、この物語と実在のドレフュス事件は関係者の名前と「わたしは弾劾する」という有名な一言が流用されている以外はまったく関係がない。『二遊間の恋』は1990年代のアメリカ・メジャーリーグを舞台にした娯楽小説だからだ。

最近ハリウッドでは『ブ山』の成功を受けてスター俳優が出演するゲイ映画の企画が何本も持ち上がってるけど、まさにこれはそのなかでも大本命だろう。
主人公はメジャーリーグでも強豪チームのスター選手。金髪でハンサムな白人、美人の妻と双子の娘がいる。強打者でポジションはショート。彼はある日突然、美しく理知的な黒人チームメイト─ポジションはセカンド─に恋をしている自分に気づく。ふたりは守備でも打撃でもチームの要であり、名コンビでもあった。しかもセカンドはクロゼット・ゲイ。彼らがぬきさしならない関係に陥り、やがて全米を揺るがす前代未聞のスキャンダルが露呈するのにさして時間はかからなかった。神聖なる国民的スポーツの尊厳を汚した罪で球界を追われるふたり。だがほんとうに野球を愛する人間にとって、それは決して見過ごすことのできない“事件”だった。
どうでしょー。これほどハリウッド映画向きのモチーフってないんじゃないですかね?うってつけでしょう。是非とも映画にするべきですね。今こそ。主演はコリン・ファレルなんかでどうでしょう。監督はサム・メンデスあたりを希望。

邦題は恋愛小説風だし、原題のサブにも「A Love Story」と書かれてはいるけど、これははっきりいって恋愛小説としては大しておもしろいものではないです。ふたりの人間が恋に堕ちて、障壁の大きさゆえにより分かちがたく強く結ばれる。ふつーだ。王道だ。
でもすっごく読ませるんだなこれが。ほんっとにおもしろいです。考えさせられるし、なおかつ相当笑える。後半なんかとくに爆笑っす。
なんでか?だってたかがホモ行為で、ワールドシリーズの伝統が存亡の危機にたたされるんだよ。アメリカ社会全体が猛烈な議論の渦に巻き込まれ、コミッショナーに大統領から電話がかかってくる。しまいにゃFBIまで動員される。おかしいよ。おもしろすぎですからー。
しかし筆致はあくまでシリアス。そこがまたいいです。この小説の読ませどころはなんといっても淡々として簡潔でありながら、複雑に矛盾した現代アメリカのおかしさをクールにかつ緻密にとらえた描写力だろう。あるいはこの小説のメインは手のつけようのないほどによじれてしまった社会への風刺で、主人公たちの恋は背景を効果的にみせるためのただの狂言廻しともいえる。年俸契約にCM契約、テナントレースの成績、体調管理に家庭環境などなど幾重にも積み重なる精神的プレッシャー、エージェントに会計士、監督にオーナーに弁護士にカウンセラーに精神科医に私立探偵、保安官に検事に獣医師に庭師にスポーツジャーナリスト・・・たった28歳のひとりの青年をとりまく異様にいりくんだ人間関係と交錯する思惑。ほんとによく描けてます。
ストーリーそのものは脳天気すぎるとゆーか、ご都合主義的な部分も結構あるけどね。主人公の飼犬がある重要なメタファーとして登場するんだけど、これもちょっとズルイ。

ほんとうは読者はこの物語を笑ってはいけないのかもしれない。
主人公たちは真に自分たちにとって大切なものを見失わないように常に努力しつづけるけど、彼らの周囲の人間たちはそんなことはすっかり忘れてしまっている。倫理観、信仰心、社会通念、名誉、お金、下品な好奇心、長い歴史の間に歪められた固定観念に混乱させられるアメリカの姿は滑稽だけど、そのいびつさは既に笑って済ませられるようなレベルのものではないのかもしれない。
それとも、もう笑うしかないのだろうか。
映画化が成功することを心から祈ります。

ところでこの主人公ランディと恋人DJのキャラ設定がよかったです。主人公は脳まで筋肉の野球バカで、恋人の方は頭脳派で常に冷静沈着だが愛情深くやさしい。とにかく素直で情熱的なランディ、不倫を承知で彼をあたたかく受けいれるDJ、どっちも男性としてしっかり魅力的でした。ぐりはふたりとも好きですよ。

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