『ブラインド・マッサージ』
南京でマッサージ治療院を営む沙(秦昊チン・ハオ)のもとに、同級生の王(郭暁冬グオ・シャオトン)が雇ってほしいと恋人の孔(張磊チャン・レイ)をつれて引っ越してくる。都紅(梅婷メイ・ティン)や小馬(黄軒ホアン・シュエン)など他のマッサージ師たちと寮で共同生活をすることになるふたりだが、やがて王の弟に借金があることが判明、家族のもとに取り立て屋が押しかけてくるようになる。美貌で指名客を得た都紅の評判に、院長の沙は自分の目には見えない彼女の美しさの虜になるのだが、自らの容貌を知ることのない彼女はただ困惑するだけだった。
『パープル・バタフライ』『天安門、恋人たち』『スプリング・フィーバー(旧題:春風沈酔の夜)』の婁[火華](ロウ・イエ)監督の2014年の作品。
上映時間115分、長かった・・・。
物語は少年時代の交通事故で視力を失った小馬のエピソードからスタートする。光がぼやけ、かすみ、暗闇に落ちていく過程を映像で表現したシーンを導入に、視覚障害者独自の感覚が繊細に再現される。目で映画を鑑賞している観客の視覚障害感覚の追体験が題材になっているため、過剰に情緒的かつ感覚的なエピソードが緻密にかつ複雑に積み重ねられる。なにしろ映画は“映像”と音でできていて、見えない感覚を画面でそのまま再現するわけではない。ときおり画面の露出が急に上がったり下がったり、フォーカスがズレたりゆがんだりするトリッキーなシーンがアクセントとして差し挟まれはするが、この作品全体においてはそうした視覚的要素はごく一部分でしかない。
それよりも、視覚以外の触覚や嗅覚・聴覚など他の感覚に鋭敏で、人によっては視覚そのものの存在自体を体験したことがなく想像することもできない登場人物たち同士にしか共有できない価値観を、論理ではなく彼らの生き方によって表現している。
だから2時間弱なのに要素めっちゃてんこもりっす。もりっもり。
ナレーションで、「視覚障害者にとって健常者は別の動物」というくだりがある。
障害があっても少数者であっても人間は同じ人間、平等だという一般論は誰にでも当たり前に口にできる簡単な美辞麗句だが、事実はそうではない。
人間は平等ではないし、障害がある、少数者であることだけでなく、人間には皆それぞれに違う感覚と価値観がある。重要なのはそれをうけいれゆるし、むかいあって共存することであって、互いの差異をないものとして無視するのはむしろ差別だ。
この物語のものすごいところは、マッサージ店で働く視覚障害者たちのどこが健常者と違っているのか、視覚障害者にもそれぞれに視覚を失った経緯も症状も異なり、全員の感覚や価値観も一様ではないことを、ひたすら生々しく激しくくどく追求している点である。
そりゃもう生々しいです。激しいです。くどいです。観てて若干疲れます。ちょこちょこ観てられないシーンすらある。それでもそこまでして差異のディテールを明確にすることで、人間性の根源的な普遍性がよりストレートに伝わってくる。究極の逆説表現です。
個人的に知る限りでは、こんな表現にトライした映画はいままで他になかったんじゃないかと思います。文字通り唯一無二の作品ではないかなと。
大好きな婁[火華]作品、前作の『パリ、ただよう花』を観逃したのが悔しかったので、今作は観れてほんとによかったです。
秦昊は『スプリング・フィーバー』でセクシーなゲイを演じてた彼ですね。もうまるっきりぜんぜん違う人物造形に若干ショック。というかこの映画、けっこうなスターがボロボロ出てるけど、全員本気で視覚障害者にしか見えないぐらい気合いはまった演技で畏れ入る。これ演技派ばっかり集まっちゃって、誰がいちばんホンモノっぽいかお互いぐいぐい攻め込みあってるよね。たぶん。それぐらい容赦ない熱演です。熱過ぎて微妙に観客置いてかれます。いいけどね。いいけどさ。
とはいえできあがった作品は疑いようのない大傑作。映画が好きなら、間違いなく絶対観ておくべき映画のひとつだと思います。
物語自体すごくおもしろかったんだけど字幕が短過ぎてわかりにくいところもあったので、原作も是非読んでみたいです。
関連レビュー
『ブラインドサイト〜小さな登山者たち〜』
『Show The BLACKⅡ イウ コエ オト』
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南京でマッサージ治療院を営む沙(秦昊チン・ハオ)のもとに、同級生の王(郭暁冬グオ・シャオトン)が雇ってほしいと恋人の孔(張磊チャン・レイ)をつれて引っ越してくる。都紅(梅婷メイ・ティン)や小馬(黄軒ホアン・シュエン)など他のマッサージ師たちと寮で共同生活をすることになるふたりだが、やがて王の弟に借金があることが判明、家族のもとに取り立て屋が押しかけてくるようになる。美貌で指名客を得た都紅の評判に、院長の沙は自分の目には見えない彼女の美しさの虜になるのだが、自らの容貌を知ることのない彼女はただ困惑するだけだった。
『パープル・バタフライ』『天安門、恋人たち』『スプリング・フィーバー(旧題:春風沈酔の夜)』の婁[火華](ロウ・イエ)監督の2014年の作品。
上映時間115分、長かった・・・。
物語は少年時代の交通事故で視力を失った小馬のエピソードからスタートする。光がぼやけ、かすみ、暗闇に落ちていく過程を映像で表現したシーンを導入に、視覚障害者独自の感覚が繊細に再現される。目で映画を鑑賞している観客の視覚障害感覚の追体験が題材になっているため、過剰に情緒的かつ感覚的なエピソードが緻密にかつ複雑に積み重ねられる。なにしろ映画は“映像”と音でできていて、見えない感覚を画面でそのまま再現するわけではない。ときおり画面の露出が急に上がったり下がったり、フォーカスがズレたりゆがんだりするトリッキーなシーンがアクセントとして差し挟まれはするが、この作品全体においてはそうした視覚的要素はごく一部分でしかない。
それよりも、視覚以外の触覚や嗅覚・聴覚など他の感覚に鋭敏で、人によっては視覚そのものの存在自体を体験したことがなく想像することもできない登場人物たち同士にしか共有できない価値観を、論理ではなく彼らの生き方によって表現している。
だから2時間弱なのに要素めっちゃてんこもりっす。もりっもり。
ナレーションで、「視覚障害者にとって健常者は別の動物」というくだりがある。
障害があっても少数者であっても人間は同じ人間、平等だという一般論は誰にでも当たり前に口にできる簡単な美辞麗句だが、事実はそうではない。
人間は平等ではないし、障害がある、少数者であることだけでなく、人間には皆それぞれに違う感覚と価値観がある。重要なのはそれをうけいれゆるし、むかいあって共存することであって、互いの差異をないものとして無視するのはむしろ差別だ。
この物語のものすごいところは、マッサージ店で働く視覚障害者たちのどこが健常者と違っているのか、視覚障害者にもそれぞれに視覚を失った経緯も症状も異なり、全員の感覚や価値観も一様ではないことを、ひたすら生々しく激しくくどく追求している点である。
そりゃもう生々しいです。激しいです。くどいです。観てて若干疲れます。ちょこちょこ観てられないシーンすらある。それでもそこまでして差異のディテールを明確にすることで、人間性の根源的な普遍性がよりストレートに伝わってくる。究極の逆説表現です。
個人的に知る限りでは、こんな表現にトライした映画はいままで他になかったんじゃないかと思います。文字通り唯一無二の作品ではないかなと。
大好きな婁[火華]作品、前作の『パリ、ただよう花』を観逃したのが悔しかったので、今作は観れてほんとによかったです。
秦昊は『スプリング・フィーバー』でセクシーなゲイを演じてた彼ですね。もうまるっきりぜんぜん違う人物造形に若干ショック。というかこの映画、けっこうなスターがボロボロ出てるけど、全員本気で視覚障害者にしか見えないぐらい気合いはまった演技で畏れ入る。これ演技派ばっかり集まっちゃって、誰がいちばんホンモノっぽいかお互いぐいぐい攻め込みあってるよね。たぶん。それぐらい容赦ない熱演です。熱過ぎて微妙に観客置いてかれます。いいけどね。いいけどさ。
とはいえできあがった作品は疑いようのない大傑作。映画が好きなら、間違いなく絶対観ておくべき映画のひとつだと思います。
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