『靖国 YASUKUNI』
タフな映画だ。
そしてとても美しい。
映像的にはけっこうしんどい映画ではある。カメラは常に被写体に寄り過ぎているし、録音状態も極端に悪いパートがめだつ。長廻しのシークエンスが多用されていて編集もゆったりめ、ナレーションはいっさいなく、テロップも必要最低限しかない。刀匠と監督の問答は、土佐訛りの老人と外国人との会話ということもあってややまどろっこしいやりとりになっているし、靖国神社でのシーンに登場する人々の言動はやたらにハイテンションで、全体としては観ていてかなり肩の凝る構成になってはいる。
それでもこの映画は美しい。
この映画には美学がある。
監督は10年、この問題を取材して来たという。10年という歳月は決して短いものではない。10年間の積重ねの末に監督にもひとつの結論が生まれたはずだが、あえて彼はそれを直接画面では問わない。
ただただ、彼は境内でカメラを構えつづけるだけ。参拝者・訪問者たちを、ひたすら静かにみつめるだけ。
たったそれだけで、「靖国問題とは何か」を、観客それぞれの心に、まっすぐに問いかけている。
この映画を観ても心を動かされない人もいるだろう。何も感じない人もいるだろう。
でも少なくとも、観た人それぞれの「靖国問題」が、曖昧で漠然とした矛盾の奥からはっきりとした形をとって否が応にも突き上がってくる、そんな触媒のような映画になっている。
これこそがドキュメンタリーの真骨頂ではないだろうか。決して避けようのない問いを、穏やかに、だが激しく、厳しく突きつけてくる、その凛とした「視線」が美しいのだ。
やはり靖国問題を描いた『あんにょんサヨナラ』に登場した高金素梅氏、菅原龍憲氏、イ・ヒジャ氏、古川佳子氏がこの映画にも登場するのだが、なかでも台湾高砂族軍属の合祀取下げを求める高金氏が神社側に談判するシーンは圧巻である。おそらく『あんにょん〜』で使用されたのと同じ日の映像なのだが、『靖国』では彼女の発言がほぼ端折らずに使用されている。怒りを瞳に滾らせながらも理路整然と主張する北京語を日本人支援者が通訳するのだが、支援者が感情的になるあまり訳し方が乱暴になってしまい、日本語字幕と訳が食い違っていて、劇場内では失笑が漏れていた。
これと同じ失笑が漏れたのは、日本人の反靖国派青年が「中国人は出ていけ!」「中国に帰れ!」と怒鳴られるシーン。青年を境内から追い出すのは戦歿者追悼集会の出席者と思しき人々なのだが、もうこれでもかこれでもかといわんばかりに「中国人」を連呼する。なぜか青年はそれにほとんど口答えはせず、境内の外で監督に「あなた中国人?」と訊かれて「日本人です」という。『あんにょん〜』でも「朝鮮人は帰れ!」とヒステリックに叫ぶ日本人が出て来たけど、こうした「感情」面に、靖国問題の両面性が象徴されている気がした。
小泉元首相は靖国参拝を心の自由だといった。しかし、批判者を感情的に排除するのは「自由」とは違うのではないだろうか。
今日は10時に劇場に着いて1時間ほど行列して、入れたのが4回め13:40の回。15時前には今日8回分すべてが満席になったそうだ。
朝から劇場の周りは警察と報道陣でごったがえしていて、警備員もビルのエントランス・劇場受付・劇場内にまで配置されて相当にものものしい雰囲気での初日だった。最前列が関係者席の名目で空席になってたのも警備目的だと思う。
作品自体は地味で真面目な、ある意味ごくフツーのドキュメンタリーなので、政治的なものも含めて映画を見慣れた、映画館に通いなれたぐりの目には、マスコミの騒ぎ方がちょっと滑稽なくらいの過剰反応にみえておかしかったです。
劇場前の警察車両と報道陣。4時過ぎでこの状態だけど、朝はもっといっぱい来てました。
タフな映画だ。
そしてとても美しい。
映像的にはけっこうしんどい映画ではある。カメラは常に被写体に寄り過ぎているし、録音状態も極端に悪いパートがめだつ。長廻しのシークエンスが多用されていて編集もゆったりめ、ナレーションはいっさいなく、テロップも必要最低限しかない。刀匠と監督の問答は、土佐訛りの老人と外国人との会話ということもあってややまどろっこしいやりとりになっているし、靖国神社でのシーンに登場する人々の言動はやたらにハイテンションで、全体としては観ていてかなり肩の凝る構成になってはいる。
それでもこの映画は美しい。
この映画には美学がある。
監督は10年、この問題を取材して来たという。10年という歳月は決して短いものではない。10年間の積重ねの末に監督にもひとつの結論が生まれたはずだが、あえて彼はそれを直接画面では問わない。
ただただ、彼は境内でカメラを構えつづけるだけ。参拝者・訪問者たちを、ひたすら静かにみつめるだけ。
たったそれだけで、「靖国問題とは何か」を、観客それぞれの心に、まっすぐに問いかけている。
この映画を観ても心を動かされない人もいるだろう。何も感じない人もいるだろう。
でも少なくとも、観た人それぞれの「靖国問題」が、曖昧で漠然とした矛盾の奥からはっきりとした形をとって否が応にも突き上がってくる、そんな触媒のような映画になっている。
これこそがドキュメンタリーの真骨頂ではないだろうか。決して避けようのない問いを、穏やかに、だが激しく、厳しく突きつけてくる、その凛とした「視線」が美しいのだ。
やはり靖国問題を描いた『あんにょんサヨナラ』に登場した高金素梅氏、菅原龍憲氏、イ・ヒジャ氏、古川佳子氏がこの映画にも登場するのだが、なかでも台湾高砂族軍属の合祀取下げを求める高金氏が神社側に談判するシーンは圧巻である。おそらく『あんにょん〜』で使用されたのと同じ日の映像なのだが、『靖国』では彼女の発言がほぼ端折らずに使用されている。怒りを瞳に滾らせながらも理路整然と主張する北京語を日本人支援者が通訳するのだが、支援者が感情的になるあまり訳し方が乱暴になってしまい、日本語字幕と訳が食い違っていて、劇場内では失笑が漏れていた。
これと同じ失笑が漏れたのは、日本人の反靖国派青年が「中国人は出ていけ!」「中国に帰れ!」と怒鳴られるシーン。青年を境内から追い出すのは戦歿者追悼集会の出席者と思しき人々なのだが、もうこれでもかこれでもかといわんばかりに「中国人」を連呼する。なぜか青年はそれにほとんど口答えはせず、境内の外で監督に「あなた中国人?」と訊かれて「日本人です」という。『あんにょん〜』でも「朝鮮人は帰れ!」とヒステリックに叫ぶ日本人が出て来たけど、こうした「感情」面に、靖国問題の両面性が象徴されている気がした。
小泉元首相は靖国参拝を心の自由だといった。しかし、批判者を感情的に排除するのは「自由」とは違うのではないだろうか。
今日は10時に劇場に着いて1時間ほど行列して、入れたのが4回め13:40の回。15時前には今日8回分すべてが満席になったそうだ。
朝から劇場の周りは警察と報道陣でごったがえしていて、警備員もビルのエントランス・劇場受付・劇場内にまで配置されて相当にものものしい雰囲気での初日だった。最前列が関係者席の名目で空席になってたのも警備目的だと思う。
作品自体は地味で真面目な、ある意味ごくフツーのドキュメンタリーなので、政治的なものも含めて映画を見慣れた、映画館に通いなれたぐりの目には、マスコミの騒ぎ方がちょっと滑稽なくらいの過剰反応にみえておかしかったです。
劇場前の警察車両と報道陣。4時過ぎでこの状態だけど、朝はもっといっぱい来てました。
タフでとても美しい映画、早くわたしも観たいです。
これまで同様、素敵なぐりさんの日記を楽しみにしています。
早速のぞきに来ました。
『靖国』、私もGW明けぐらいに観に行くつもりです。
さっそくのご訪問ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。