落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

渋谷で映画まつり

2007年04月28日 | movie
『バベル』
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観たくてみたくてしょうがなかったので、観れて大満足。
うん、期待通り。おもしろかったです。「おもしろい」ような話ではないけどね。前評判ボロカスだったし(爆)。
確かに一見すると観客に対して不親切に見えるところもないことはないし、テーマも展開もヘビーだ。けどここに描かれているメッセージは誰かがいわなきゃいけないことだし、いうとすればこういう形もひとつの選択肢としてアリだとぐりは思う。
タイトルが象徴するように、人が神の怒りに触れて言語を分かたれ、文化や民族の壁によって隔てられている、その壁の悲哀が物語の軸になってはいる。だが全体を通してみてみると、人と人とがわかりあえないのは、決して人種や国や宗教のせいではないことがわかってくる。
いっていることがわからなくても、肌や目の色が違っていても、人と人は必ずわかりあうことはできる。わかりあえると信じ、心を開いて、互いに共感しあえるように歩み寄れば、それは決して不可能ではない。
逆に、ひとつ屋根の下に住む家族、血を分けた親族であっても、わからないと決めつけてしまえばわからない。わかりたいと念じ、わかろうと努力することが愛であり、人は愛あればこそ生きていける。
エンディングでそのことがハッキリわかる。

それとこの物語のもうひとつのテーマは「銃の暴力」。
たった一挺のライフルから放たれた弾丸1個が、あらゆる人を不幸と混乱に突き落とし、家族を崩壊させ、国際問題にまで発展していく。ある意味ではこの映画の主人公はこのライフルでもあるのだ。
ギジェルモ・アリアガのシナリオはやっぱいいですねー。すばらしー。
キャスティングもよかったです。有名なヒト(ブラピとか)もいいし、無名の人(素人含む)もよかった。坂本龍一の音楽も毎度のことだけどいい。
結構長い映画だし、時制をかなりいじってあって観るのに集中力を要する映画ではある。ただ観るだけの価値はちゃんとあります。少なくとも「観た」だけでなんか達成感みたいなのはあります(笑)。内容も濃いし、深いし。
ぐりはもっかい観たいっす。

今夜も星が 降るようだ

2007年04月26日 | movie
『星影のワルツ』

写真家・若木信吾氏が学生時代から祖父をモデルに撮りためた作品を集めた「Takuji」という写真集がある。
ぐりはこの本が好きで、写真展も観に行った。若木氏の作品というより、モデルの琢次さんが好きだった。琢次さんと若木氏の間の、親子とも兄弟とも友だちとも似ていて、そのどれでもない、あったかくてゆるやかな感情がそのままプリントされたような白黒の写真。
身内の年寄りと暮した経験がないぐりにとって、そういう親密さが単純に羨ましかった。

映画『星影のワルツ』は3年前に亡くなった琢次氏と若木氏とその家族、隣に住む幼馴染みとの関係をモチーフにした、半分フィクションで半分ノンフィクション、かつ一部ドキュメンタリーでしかも若木氏自身が監督・脚本・撮影をてがけるという、いってみれば私小説の映画版みたいな作品。
まあね、見た目はもうチョー素人の自主制作〜ってカンジよ。ゆるいよ。録音状態はひどいし、カメラワークもちょっとそれはっ・・・(滝汗)!なところも多々あるし。完成度としてはこんなん劇映画として一般の映画館で上映してもええんかい?なレベルよ。
でもちゃんとおもしろかったです。映画の魅力はテクニックや完成度では決まらないんだよね。要は何がいいたいかがしっかり伝わる、つくりての愛情に観客が共感できる、そこがいちばん大事なわけで。

祖父を演じた喜味こいしも素晴しかったけど、若木氏自身にあたる主人公役の山口信人もなかなかよかったです。このヒトはアレですね、最近の日本映画で活躍めざましい松山ケンイチとか二宮和也とか松田龍平とか加瀬亮とかと同じ系統ッスね。お内裏様系(と勝手に命名)。まぶたがぽてっとしてて、うりざね顔で、肌がつるっと白くて、ヘアメイクとか衣装とかでどーとでもなっちゃう顔だちで、演技も熱演とゆーより自然な、受け身な芝居が得意。本格的な映画出演はこれが初めてだそーですが、今後ちょっと注目です。

 別れることは つらいけど
 仕方がないんだ 君のため
 別れに星影の ワルツをうたおう
 冷たい心じゃ ないんだよ
 冷たい心じゃ ないんだよ
 今でも好きだ 死ぬ程に

  「星影のワルツ」より 作詩:白鳥園枝 作曲:遠藤実

最近身内を亡くしたばっかりで、観ててかなり複雑な気持ちにはなりました。
実は観ようかどうしようか迷ってたし。
観て良かったです。
ぐりも、いつか、心の整理がついたら、亡くなった人のことを何かの形にしたいと、改めて思いました。


天才エレジー

2007年04月21日 | movie
『神童』
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最悪。
ストーリーはいい、出演者もすごく頑張ってる(演奏シーンのほとんどが吹替えってのはさみしかったけど)、なのにスタッフにやる気がない。思想がない。根性がない。センスがない。だから退屈。ただただ意味もなくずるずると長いだけ。80年代のアイドル映画かっちゅーの。『僕妹』といっしょっすよ。原作者と出演者が気の毒すぎ。
とくに惜しいのは台本。ぜんぜん悪くない台本なのに、そこで終わっちゃってる。書いた台本なぞって映画にしただけ。しかも台本すらまったく消化しきれてない。撮って繋ぐだけでいっぱいいっぱい。だからせっかくの印象的な台詞がどれもこれも超しらじらしい。ダサ。
カメラワークもライティングも衣装も美術も全部ダメ。リアリティもないしかといってどうしたいのかという方向性も見えない。観客バカにしてるでしょ?ぐりはみてないけど「のだめ」だかなんだかの影響でクラシックブームらしーけど、どーせこんな映画観にくるヤツにクラシックとか音大の世界なんかわかるワケないとか思ってるっしょ。そーゆー問題じゃないっちゅーに。
けどこの作品の最大のガンは音楽と音響設計。選曲はチープだし音効は安直、音響設計もガチガチにカタイ。ぐりは音楽に関しては素人だけど、この映画の音には広がりも奥行きも厚みも、ピアノの華麗さ、繊細さや、オーケストラの力強さも迫力も何もない、ってことくらいはわかる。作中の台詞で「菊名くん(松山ケンイチ)のピアノは呼吸してない」というのがあるんだけど、それこの映画の音のことじゃん。音楽が主役の映画なのにそんなのアリ?信じらんないよ。最低。
初日なのに映画館ガラガラ。さもありなん。アタシだってお金と時間返してほしいです。予告編に騙されたわー。不覚なり。

天才エレジー

2007年04月21日 | book
『真夏の航海』トルーマン・カポーティ著 安西水丸訳
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カポーティの死後発見・出版された事実上の処女作。
ぐりはカポーティのファンではあるけど安西氏の文章はかなり苦手である(爆)。安西氏自身本職はイラストレーターのはずだが小説も書いていて、十年以上前に1冊読んだのだがどうしても好きになれなかった。わからなくはないけど趣味じゃない。文体のクセや独特の視点にどうしてもひっかかりがある。
それでこの本も去年出てすぐには読まなかった。
この作品の出版をカポーティは望んでいなかったという証言がある。それは読めば「そうかもしれない」と思う。
確かに天才カポーティらしい、非常に優れた作品ではある。十代で書かれただけあって荒削りな部分も不完全な部分も残されてはいるが、充分に個性的だし魅力的な小説だ。まるでステンドグラスで出来た吊り橋を踏んで虚空をわたっていくような、ふわふわきらきらと現実感のない、それでいて刺すように鋭い緊迫感に満ちた青春ラブストーリー。美しい。見事だ。
でも正直にいえば、やはりカポーティはあの『遠い声、遠い部屋』でデビューしてよかったんだというところに間違いはないとも思った。『真夏の航海』はそれだけなら十代の新人にしてはよく書けた作品だけど、逆にいえば、これくらいの作品を書く少年少女なら今も当時も?シにいくらもいるだろう。十代というのはそういう年代だ。誰もが全ての可能性を秘め備えた年齢、その可能性を信じて飛躍する人間と賭けに?oないままの人生を選ぶ人間との別れ道にたつ前、誰もが、自分を「天才」と信じあるがままの能力を発揮できる、それが十代なのだ。
個人的には巻末の、生前はカポーティの弁護士をつとめ死後は作品や遺産を守り運用していく仕事をひきうけておられるアラン・U・シュワルツ氏の手記が非常に感動的でした。芸術家は作品をつくるだけつくって死んでしまえば(運が良ければ)伝説になっておしまいだけど、人類の財産となった作品は彼のような裏舞台の人間によってこそ無事に全人類の財産として共有されているのだろう。読者はもしかすると彼らにもっと感謝すべきなのかもしれない。

太陽にこんにちは

2007年04月17日 | movie
『サンシャイン 2057』
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ぐりはSFってそれほど好きではない。
仕事がら観ないわけにはいかないから観ることもあるけど、基本的には未来がどーとか異世界がどーとか宇宙がどーとか地球外生物がどーとか、そーゆー映画はぶっちゃけどーでもいーっす(爆)。なにしろこれまでに『スターウォーズ』シリーズを映画館で一度も観たことがないのだ。『ロード・オブ・ザ・リング』は一本も観ていない。ヤル気あんのかね?映像制作に関わる者として?
まあそれはさておき。
この映画はSFとはいえ8人の科学者/宇宙飛行士を乗せた宇宙船の中だけで物語が進行する。複雑な設定や背景・映像的スペクタクルよりも船内での人間関係や登場人物の内面を主に描いたSFとしては、『惑星ソラリス』(ぐりはタルコフスキーのオリジナルしか観てない)や『2001年宇宙の旅』に近いです。
この2本はSFでも例外的にぐりのお気になので、必然的に『サンシャイン〜』も好きな部類に入ってくる。

ただこの映画に関していうと、やりたかったことはすごくわかるのに、SFらしさを出すためだかなんだか、やたら概念的な演出がゴチャゴチャうるさくて、落ち着いて登場人物に感情移入しづらかった。
とくにSEがやかまし過ぎ。ムダに頑張っちゃってます。もっと淡々と粛々とした音響設計にしないと逆効果だと思う。気持ちはわかるんだけどねえ。
映像はすごかったっす。お金も手間ひまもかかってる。全編ほぼ観たことない映像、99%想像でしかつくれない映像のオンパレードなんだけど、みやすいしわかりやすい、シンプルな表現でデザイン的にもいいと思いました。
キャスティングと演技もよかったと思う。ぐりはキリアン・マーフィーと真田広之と楊紫瓊(ミシェル・ヨー)しか知らなかったんだけど、それぞれもとのイメージに合った役柄にちゃんとハマってました。なかでもキリアン・マーフィー演じるキャパがだんだん死を恐れなくなっていく過程なんかは、台詞も少ないしぜんぜん説明もないのに不思議によく伝わってきました。
でもたぶん、この映画の中では乗組員の死は「死」じゃないんだよね。ミッションが成功すれば8人の名は永久に人類の歴史に残ることになる。人間の死が肉体の滅亡でなく社会からの忘却によるものととらえるなら、彼らは人類にとって不滅の英雄になるのだから。

ひとつぐりがわかりにくかったのはキリスト教に関するパート。
後半このパートがかなり重要になってくるんだけど、ぐりはキリスト教に不案内なので正直ちんぷんかんぷんでしたです。
ハリウッド映画はこの手の宗教的なモチーフがよくでてくるけど、中でもこれは相当ハッキリと前面に出されてる方だと思います。なのでわからなさがけっこーストレスに感じました。
わかる方おられたら誰か説明したってくださいませ。