OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

遥かなるカーペンターズの影

2009-06-12 11:11:07 | Pops

遥かなる影 / Carpenters (A&M / キングレコード)

この時期になると、カレンの歌声が聴きたくなります。そう、あのカーペンターズのカレンです。

そして本日、聴いてしまったのは、カーペンターズの初めての大ヒット♪♪~♪ パート・バカラックとハル・デイヴィッドの名コンビが書いた名曲で、1970年に本国アメリカはもちろん、世界中でチャートのトップにランクされ、我が国でも昭和45年夏からのロングヒットを記録しているのですが、実は楽曲としては1963年頃に発表されていたもので、この名コンビが御用達の歌手だったディオンヌ・ワーウィックのバージョン等々が既に世に出ていました。

それをカーペンターズが堂々のシングル盤A面曲として発売したのは、もちろんバート・バカラックの強力な後押しがあったからです。

皆様ご存じのように、リチャードとカレンのカーペンター兄妹はファミリー・グループで十代の頃からセミプロの活動していました。しかも当時はリチャードがピアノ、カレンがドラムス、そしてベース奏者が入ったトリオとして、ラウンジ系ジャズやソフトロックっぽい歌と演奏を聞かせていたと言われています。

そして1966年、ハリウッドの某バンドコンテストに出場し、チャンスを掴むのですが、レコーディングには恵まれず……。しかし地味道な活動と売り込みの結果、当時は中道路線のソフトロックやイージーリスニング系のジャズを制作していたA&Mレコードと契約するのです。

こうして1969年、デビューシングルと最初のアルバムを発売し、カーペンターズとなった兄妹は、当時A&Mに所属していたバート・バラカックの巡業コンサートにコーラスと前座で参加することになり、そこで歌っていたのが本日ご紹介の「遥かなる影 / Close To You」でした。そしてそれを気に入ったバート・バラカックが次のシングル曲にするよう、カーペンターズを強くプッシュしたのです。

しかし、はっきり言って、当時のカーペンターズは無名……。

その所為でしょうか、この日本盤ジャケットにしても、「カーペンターズ / バート・バカラックを歌う!! 全米にふき荒れるバカラック旋風の最新盤はこれだ!!」なんていう、実に率直なキャッチフレーズが入っています。

そしてもちろん、カーペンターズのバージョンは完全なるバカラックサウンド♪♪~♪

じっくり構えたドラムスと深いビート感が心地良いエレキベースを軸にしたソフトな演奏パート、静かに喜びをかみしめるようなトランペットの間奏等々は、同時期にヒットしていた B.J.トーマスが歌うバカラックメロディの傑作「雨にぬれても」を想起させられるほど、売れる要素がいっぱいです。

さらにカレンのハートウォームなボーカルが最高です。幾分の無機質なフィーリングと低音域に不思議な魅力が潜む声質、そしてナチュラルな節回しというか、無理にひねらない歌い方が快いんですねぇ~♪

それと多重録音を駆使したコーラスワークも、兄妹のコンビネーションの冴えに加えて、アレンジやサウンド作りという技巧を超えた、まさにカーペンターズならではの音楽センスだと思います。

こうした部分は、もちろん所属レコード会社の設立者だったハープ・アルパート&ジェリー・モス、バート・バラカックやロジャー・ニコルス等々の優れたソングライター、そして実力派のスタジオミュージシャンやアレンジャー達という、縁の下の力持ちの存在が大きいわけですが、それを自分のものにしていったリチャードの音楽的才能も無視出来ません。以降、多くの名曲を書き、秀逸なアレンジと選曲センスの良さを発揮したのも肯けます。

そして実際、活動末期にカレンが単独で別なプロデューサーと組んだ歌と演奏を聴いてみると、非常に良くカーペンターズのサウンドを継承しているようでも、実は「冴え」がありません。

また逆も同じく、というのは言わずもがなでしょう。

ですから、この曲で大ブレイクを果たしたカーペンターズが1970年代前半にヒット曲を連発し、素敵なアルバムを作り出していけたのも、兄妹の切っても切れない絆によるところが大きいのです。

それゆえに如何にもアメリカの良心的なイメージと活動を義務付けられたカーペンターズは、レコードジャケットや宣伝写真では常に笑顔で写っていますし、コンサートやテレビでは子供達との共演や明るい振る舞いばかりが強調されたのですが、その裏側にドロドロしたものがあったのは、皆様ご存じのとおりです。

カレンは自分の命をも失わせた拒食症を患い、またリチャードは悪いクスリ……。ついに1979年頃には活動停止状態となり、その頃から、例えば兄妹は結婚したなんていう、心無いスキャンダルネタまでもが飛び交う始末でした……。

そして1983年2月、カレンの訃報……。

彼女が天国へ召されたことにより、カーペンターズは消滅しました。しかし残された楽曲は、いずれも良質のポップスであり、安らぎや哀しみ、笑いと涙、音楽的高揚感と気分はロンリーなものが、いっぱいつまった宝物だと思います。

ちなみにカーペンターズの音源は、意外なほどに別バージョンやミックス違いが多いのに驚きます。私がそこに気がついたのは、妹が持っていた4チャンネル仕様のベストアルバムを聴いてからで、普通のステレオで鳴らしても、明らかにミックスやボーカルテイクが異なっていたのですから、吃驚仰天!

またシングル盤にしても、初期はモノラル仕様ですから、要注意でしょう。当然ながら、このシングル盤もモノラルミックスで、アルバム収録のステレオミックスとは雰囲気が決定的に違っています。なんというか、リズム隊とボーカルが強いんですよ。

実は告白すると、サイケおやじは積極的にカーペンターズのレコードを買ったことは、全盛期には全くありません。ラジオからは恒常的にヒット曲が流れていましたし、友人から借りたアルバムを聴けば、既にオールディズ趣味に染まりかけていた私の感性にはジャストミートしていたんですが、中古屋にもそれがゴロゴロしていましたし、何時でも買えると思っていたわけです。

そこで前述した別バージョンに気がついて以降、中古盤を漁りまくったという次第です。もちろん値段は超安値♪♪~♪

そして聴きくらべていくほどに、その奥の細道には結論が出せません。本当に激ヤバ! アナログ盤で、それなんですから、1枚も持っていないCDはいったいどうなっているのか!? やっぱり買うしかないのか!?

極言すれば、リアルタイムのカーペンターズはお子様向けと決めつけられていた事実を否定出来ません。なにしろ時代はハードロックにニューソウル、そしてシンガーソングライターとウエストコーストロックが第一線の流行だったのですから!?! その中で大輪の花を咲かせたカーペンターズの存在は、ある意味では奇蹟だったのかもしれません。

また、このシングル盤のジャケットに写る兄妹は笑っていません。当時19歳のカレンはふくよかでしたし、些か渋皮の剥けていない雰囲気も、尚更に愛おしいのですが、既にして才気を感じさせるリチャードの表情も頼もしいですね。

そして、いろんな意味で、はかない透明感のようなものが、楽曲共々に感じられるのでした。

コメント
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