■Passage / Carpenters (A&M)
カーペンターズのファンからは普通に疎まれているのですが、例によって天の邪鬼なサイケおやじは、けっこう好きなアルバムです。
発売されたのは1977年秋、時期的にはカーペンターズが一気に奈落の底へ転落していた頃の作品で、しかも様々な試行錯誤が良い結果に結びついていないのは、歴史が証明しています。
それは兄のリチャードが悪いクスリ、また妹のカレンが拒食症という、成功の代償としてはあまりにも重い苦悩と健康問題により、煮詰まった果ての悪あがきとまで言われる内容です。
A-1 B'wana She No Home
A-2 All You Get From Love Is A Love Song / 二人のラブソング
A-3 I Just Fall In Love Again
A-4 On The Balcony Of The Case Rosada
~ Don't Cry For Me Argentina
B-1 Sweet, Sweet Smile
B-2 Two Sides
B-3 Man Smart, Woman Smarter
B-4 Calling Occupants Of Interplaneatry Craft / 星空に愛を
ここで一番に評判が良くないのは、コーラスその他で、カーペンターズ以外の歌声が聞こえる事にも要因があります。またサウンドプロダクトが、当時の流行だったジャズフュージョン寄りのAORになっているのにも、王道ポップス路線に馴染んできたファンには???
しかしサイケおやじは、まずA面ド頭「B'wana She No Home」で楽しめるジャジーなノリが好きなんですねぇ~♪ この曲はご存じ、マイケル・フランクスが書いた、あのフュージョン系ボサロックのノリと抑揚の無いメロディライン、そして意味不明の歌詞が逆に気持良いという仕上がりなんですが、流石はカレンの歌の上手さゆえに、それが見事なジャズ系ポップスになっています。
実際、ここでは参加メンバーのアドリブパートもふんだんに用意され、フルート&サックスのトム・スコット、そしてピート・ジョリーの名演が楽しめますし、タイトで浮遊感も演出するリズム隊が良い感じ♪♪~♪ 後に知ったことですが、この曲に関しては、ほとんど一発録りだったそうですから、さもありなん。
ちなみに、このアルバムのセッションには時期的に、その手のスタジオミュージシャンが動員されていますが、ベースだけはデビュー当時からカーペンターズを支え続けたジョー・オズボーンが起用されていますので、ご安心下さい。
実際、続く2曲目の「二人のラブソング」はシングルカットもされ、それなりにヒットした王道のカーペンターズが楽しめますよ。個人的にも本当に大好きな名曲で、特に最後の最後のリフレインでカレンが自然体で披露するメロディフェイクを聴いているだけで、幸せな気分になれるほどです。
そして「I Just Fall In Love Again」も、まさにカーペンターズならではの和みの世界♪♪~♪ もう冒頭からの3連発で、私のような者は虜になってしまうんですが、本質的なカーペンターズが好きなファンには戸惑いが隠せなかったようです……。
う~ん、確かに違和感があるでしょうねぇ。
それはA面ラストのミュージカルメドレーで決定的に顕著になります。なにしろいきなり、どっかのオペラみたいな??? 全然、カーペンターズの声がしないんですよ……。それでも中盤からはカレンが厳かに歌ってくれるのですが、う~ん……。
ですからB面に入って、従来どおりの爽やか系カーペンターズが聞かれても、どこかしら納得出来ないものが残る感じです。特に「Man Smart, Woman Smarter」では、レオン・ラッセルまでもが参加した、再びのフュージョン系ジャムですよ……。
それでもなんとか、オーラスの「星空に愛を」で、正統派カーペンターズに戻ってくれますが、なんだかなぁ……。
しかし割り切ってしまえば、A面の最初の3曲までの流れは素敵だと思いますよ。私は好きです♪♪~♪
以前にも述べたとおり、カーペンターズのレコードは1980年代に入ると、それこそゴロゴロと中古屋に出ていましたが、特にこのアルバムなんか捨値だったのは正直な状況でした。ただし、その中にあっても、如何にも時代の要請と折り合いをつけるべく奮闘したカーペンターズの裏の魅力が楽しめるのは、確かです。
ご存じのように、この兄妹は正式デビュー以前はジャズ系の歌と演奏をやっていましたから、フュージョンと名を変えた流行のジャズに踏み込むのも、吝かではなかったと思われます。しかし成功を得たのは保守本流のアメリカンポップスのスタイルであったことが、間口を狭くしてしまったんでしょうか……。
このアルバムを出して以降、ごまかしの多いクリスマス作品や再起を感じさせた1981年の人気盤「メイド・イン・アメリカ」等々を発表しても、けっしてもう、往年の人気には及ばないものがあったのは事実です。
そしてカレンの悲報……。
そんなこんながあって、このアルバムの位置づけは複雑なものを抱えていますが、機会があれば、とにかくA面だけでも聴いていただきたいと願っております。