■悪の華 / Mountain (Windfall / Bell)
1970年代前半のロックを語る時、ふっと思い出すと言うよりも、実は相当に焼き付けられているのが、マウンテンというハードロックのバンドでしょう。
決してシングルヒットを出したわけでもなく、またロック史を変革した云々なんて事とは無縁のグループでしたから、今となっては忘れられた存在であるにも関わらず、何か古い友人と語り合った時の思い出話の様なものかもしれません。
しかし当時は、かなり熱い人気を獲得していました。
その秘密はメロディアスでハードなレスリー・ウェストのギタープレイであり、またクリームのプロデューサーとして辣腕を振るったフェリックス・パパラルディが「夢よもう一度」を見事に体現したサウンド作り! これを軸としたヘヴィで少しばかり湿っぽい歌と演奏がウケたのでしょう。欧米はもちろん、日本でも人気が爆発したのは、今となっては妙な心持さえするほどです。
そして本日ご紹介のアルバム「悪の華 / Flowers Of Evil」こそ、その決定打となった人気盤! 1971年に発売されるや忽ちの大ヒットとなり、我国では翌年「悪の華」という極めてストレートな邦題で売れまくりでした。ここに掲載したのは、その私有のアナログ日本盤です。
A-1 Flowers Of Evil / 悪の華
A-2 King's Chorale / 王様のコラール
A-3 One Last Cold Kiss / 最後の冷たいキス
A-4 Crossroader
A-5 Pride And Passion / 誇りと情熱
B-1 Dream Sequence / 幻想の世界
Guitar Solo
Roll Over Beethoven / ベートベンをぶっ飛ばせ
Dreams Of Milk And Honey / ミルクとハチミツの夢
Variations / バリエーションズ変奏曲
Swan Theme / 白鳥のテーマ
B-2 Mississippe Queen
このLPが上手いのは、A面がスタジオ録音、そしてB面がフィルモアでのライプという、丸っきり「クリームの素晴らしき世界」を強く想起させてくれることでしょう。それもこれも、プロデューサーのフェリックス・パパラルディの目論見がズバリと読み取れるのですが、当時のマウンテンのメンバーはレスリー・ウェスト(vo,g)、フェリックス・パパラルディ(b,key,vo)、コーキー・レイング(ds)、そしてスティーヴ・ナイト(key) が加わった全盛期の4人組でした。
ちなみにレスリー・ウェストは1967年頃、フェリックス・パパラルディに発見され、ローカルバンドながらレコードデビューもしていた巨漢ギタリストで、それがクリームの解散により、その路線の発展継承計画の中で誕生したのが、マウンテンというわけです。
このあたりの経緯については後に知った事ではありますが、とにかく後追いで聴いた1969年制作発売のデビューアルバム「レスリー・ウェスト / マウンテン」は、なかなかに正統的なハードロックの秀作でした。
そして続く「マウンテン・クライミング」や「ナンタケット・スレイライド」でファンを増やしつつ、待望の発表となったのが、この「悪の華」ですが、実は本当にマウンテンがブレイクしたのは、この「悪の華」以降だと思います。そして過去の作品がクローズアップされたのが、我国の実情だったように思うのですが、まあ、それはそれとして、とにかくマウンテンの魅力とはレスリー・ウェストのメロディ中心主義で泣きまくりのギターとフェリックス・パパラルデが中心となって作り出されるヘヴィでハードなサウンド♪♪~♪
そのあたりが特に顕著なのが、このアルバムA面ド頭のタイトル曲「悪の華」でしょう。グリグリにヘヴィなリフを基調としながらも、巧みにピアノを配して叩きつけるようなキメを構築し、覚えやすい曲メロとソウルフルなレスリー・ウェストのボーカルをメインに仕上げたキャッチーなところは流石、フェリックス・パパラルディの手腕が冴えまくり♪♪~♪ 当然ながらクリーム色も強く、そしてレスリー・ウェストのギターが泣きじゃくるのですから、これで心が躍らないロックファンは皆無と思われます。
まあ、正直言えば、前作アルバムまで濃厚だったドロドロ感が薄れているところは従来のファンには物足りないかもしれませんが、この「悪の華」があってこそのファン増大は、決して否定出来ないものがあるのではないでしょうか。
その賛否が上手く解消されるのが、物悲しいインスト曲「王様のコラール」を経て始まる「最後の冷たいキス」の重量級演奏でしょう。自在に蠢くフェリックス・パパラルディのペース、苦渋の選択という感じが強いレスリー・ウェストの歌とギター、現代音楽と演歌が融合したような曲メロも強い印象を残しますし、随所で滲み出るプログレ的なキメも好感が持てます。
そしてハードロック中毒者が最も嬉しいのは、フェリックス・パパラルディが「バッハがブルースを書くと、こうなるよ」と自ら語ったクリーム再現曲「Crossroader」でしょう。しかし個人的には、どこがバッハなのか? 良く分からないのですが、とにかくヘヴィなリフと対峙するレスリー・ウェストのギターが痛快ですし、それが疑似プログレという続く「誇りと情熱」へと繋がる流れは心地良いかぎり♪♪~♪ ここでは当時、大いに話題になっていたレスリー・ウェストのバイオリン奏法、つまりギターにあるボリュームをコントロールすることで生み出されるバイオリンの様なフレーズの放出が、なんとも懐かしいというか、今となってはニヤリとするのがリアルタイムからのファンだと思います。
こうしてレコードをB面に返すと、そこは激烈熱血のハードロック天国!
「幻想の世界」と題されたメドレー演奏は、当然ながらレスリー・ウェストのギターと歌をメインにしたド迫力の展開ですが、まずは冒頭のギターソロで、意外にも繊細な力量を聞かせてくれるのが絶妙のスパイスとなっています。
既に述べたように、レスリー・ウェストはギターが小さく見えるほどの巨漢であり、モジャモジャのヘアースタイルにワイルドな容姿、さらに情熱が裏返ったような意気込み先行型のボーカルが、ブルースブレイカーズ時代のエリック・クラプトン直系という、つまりレスポールのギターにマーシャルのアンプという正統派ハードロックの音で彩られますから、その奥底に確固として存在するナイーブな感覚は必要十分条件でしょう。
そのあたりを上手くプロデュースしていたのが、フェリックス・パパラルディに他なりません。
このB面で楽しめるライプ演奏でも、グリグリに蠢き、ドライヴしまくったベースで暴れながら、要所ではレスリー・ウェストの歌とギターを完全にサポートし、またドラムスやキーボードを巧みにリードしています。
肝心の演奏ではビートルズでもお馴染みのチャック・ベリーが書いたR&Rの古典「ベートベンをぶっ飛ばせ」に血沸き肉躍るはずです。そしてレスリー・ウェストのギターから弾き出される、実にメロディ優先主義のアドリブ間奏が、もう最高♪♪~♪ 個人的にも熱中してコピーしたものですが、簡単なようでいて、非常に難しいピッキングが!?!
このあたりはレスリー・ウェストのギター奏法全般に共通することで、リアルタイムの音楽誌やギター教則本でも、特別に取り上げられたものですが、チョーキングひとつにしても、そのニュアンスを真似るのは至難です。
またバンドの勢いもたまらないところで、地響きの如く暴れるフェリックス・パパラルディのペース、幾分軽めのドラムスとキーボードが良い感じ♪♪~♪ それゆえにある時は暴虐のリズムギターで突進するレスリー・ウェストが、次の瞬間、沸騰融解する強烈なアドリブソロに突入する必殺技がビシッとキマるのでしょう。
あぁ、実に爽快です!!!
そして、ついにやってくれるのが、当時のマウンテンでは必須の人気曲「Mississippe Queen」です。これはリアルタイムのニューシネマ「パニシング・ポイント」のサントラにも使われた典型的なハードロックなんですが、こういうリフとかノリって、わかっちゃいるけどやめられない! しかもこのライプバージョンでは、クリームの「政治家」のリフを一節、ちらりとやってくれますからねぇ~♪ この大サービス、たまらんですよ♪♪~♪
ということで、これはマウンテンの人気盤という以上に、ハードロックの傑作盤となりましたから人気は沸騰!
ところがなんと、マウンテンは突然に解散!?!
と言うよりも、レスリー・ウェストがクリームの残党であるジャック・ブルースと組んだ新バンド、ウェスト・ブルース&レイングを結成してしまうんですねぇ~。これには本当に、仰天させられ、期待が膨らんだのですが、結果はご存じのとおり、あまり冴えたものではありませんでした……。
このあたりの原因は不明なんですが、そんなこんながあって、前述したウェスト・ブルース&レイングの来日公演が、これまた突如として再結成マウンテンに変更されたのも懐かしい思い出です。
ハードロックは何時しか、丸で時代錯誤の象徴に言われてしまった時期がありました。そしてレスリー・ウェストにしても、マウンテンがフェードアウトしてしまった1970年代末には消息不明とさえ伝えられた存在になったのは、ちょいと悲しかったですねぇ……。
それが近年は時折の復活や過去音源の発掘もあって、再び熱い注目を集め始めたのは嬉しいところです。その中にはレスリー・ウェストのギター奏法のあれこれに関し、なかなかオタクっぽい世界も繰り広げられているようですが、まずはマウンテンという、一時的にではあるにせよ、クリームの夢を見せてくれたバンドは素敵な思い出になっています。