OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

これも、ボール・バターフィールド

2009-11-15 10:39:05 | Rock

Put It In Your Ear / Paul Butterfield (Bearsville)

私の世代なら、きっと心に残っているブルースロックの偉人が、ボール・バターフィールドじゃないでしょうか。まあ、例によって、サイケおやじの勝手な思い込みかもしれませんが。

しかしボール・バターフィールドは白人ながらブルースに深く帰依し、ハーモニカとハートウォームなボーカルスタイルでもって、1960年代にはマイク・ブルームフィールド(g) やエルビン・ビショップ(g,vo) を擁した自己名義のブルースバンドを率い、1970年代に入ってからは、さらにソウルフルで野性的なルーツミュージックも取り込んだベターデイズを結成して精力的な活動をしながら、私生活では悪いクスリと酒に溺れ、ついにはバンドも維持出来なくなるのですが……。

そんな苦しい時期に制作され、1976年初頭に世に出たのが、本日ご紹介のアルバムです。

 A-1 You Can Run But You Can't Hide
 A-2 My Song
 A-3 The Animal
 A-4 The Breadline
 A-5 Ain't That A Lot Of Love
 B-1 I Don't Wanna Go
 B-2 Day To Day
 B-3 Here I Go Again
 B-4 Flame
 B-5 Watch'em Tell A Lie

結論から言うと、これは決してブルースロックのアルバムではなく、R&BやAORをも包括した素晴らしい歌物傑作盤なんですが、参集した共演者が、これまた印象的な名演を聴かせてくれるのですねぇ~♪

それはフレッド・カーター(g)、エリック・ゲイル(g)、ベン・キース(g)、ガース・ハドソン(key)、チャック・レイニー(b)、ジェームス・ジェマーソン(b)、ゴードン・エドワーズ(b)、バーナード・パーディ(ds)、クリス・パーカー(ds)、レボン・ヘルム(ds)、デイヴィッド・サンボーン(as,ss) 等々、超一流のメンツばかり! 中でもクリス・パーカーとデイヴィッド・サンボーンは駆け出し時代にボール・バターフィールドのバンドで修業を積んだ身という履歴は有名だと思います。

そしてプロデュースとアレンジが、黒人大衆音楽ではクインシー・ジョーンズと並び称されるヘンリー・グローヴァーですから、中身の充実度は保証付き♪♪~♪

まずA面ド頭「You Can Run But You Can't Hide」からして、チャック・レイニー&バーナード・パーディの名コンビが作り出すヘヴィファンクなグルーヴと熱いコーラス&ブラスのお膳立てがいきなり素晴らしく、そして真摯に歌いまくるボール・バターフィールド! さらに全篇を彩り、強烈に泣きじゃくったアドリブを聴かせるデイヴィッド・サンボーンのアルトサックス! もうこれだけで、シビレが止まりませんよ♪♪~♪

当時は既にクロスオーバーと呼ばれた、後のフュージョンブームの先駆け的な流行があったことから、この「You Can Run But You Can't Hide」で楽しめる歌と演奏が局地的に大いに盛り上がっていたのも、今では懐かしい思い出です。

そして次は一転、ボール・バターフィールドの哀愁のハーモニカと優しい曲メロが完全融合したスローな「My Song」が、実に良い雰囲気で始まるんですねぇ~♪ 印象的なストリングスを配したアレンジも素晴らしく、秘めた情熱を滲ませるボール・バターフィールドのボーカルは、何時までも聴いていたいほどですが、こういう刹那の流れが、このアルバム全体の構成のキモになっているのは、実に用意周到だと思います。

ですから再びデイヴィッド・サンボーンのアルトサックスが泣きまくり、グイノリのビートが心地良い「The Animal」、むせび泣くハーモニカに導かれたゴスペルソウルな「The Breadline」は、ソウルフルな女性コーラスもたまりません♪♪~♪ またA面ラストの「Ain't That A Lot Of Love」ではニューオリンズファンクが爆発していますから、カラオケパートを演じる各人の技のキレ、デイヴィッド・サンボーンの泣きのアルトサックスが、ボール・バターフィールドの歌とハーモニカ共々に楽しめますよ。転がりまくったピアノも痛快♪♪~♪

こうしてレコードをひっくり返したB面でも、いきなりヘヴィなファンクビートが飛び出してくる「I Don't Wanna Go」のヤバイ雰囲気の良さ♪♪~♪ 湿っぽい歌い回しを彩るストリングスも、当時の流行だったニューソウルの味わいが強くて、私は大好きです。

そしてお待たせしました、軽い感じではありますが、ボール・バターフィールドのブルースハープが堪能出来る「Day To Day」は、如何にも1970年代中頃の雰囲気が強い隠れ名演かもしれません。まあ、正直に言えば、あまりにも「なあなあ」の感じがイマイチなんですが、それも時代の要請という懐かしさが、今となってはOKでしょうか……。

その意味では、じんわりと味わい深い「Here I Go Again」や珍しくもボール・バターフィールドが自らシンセを操ったクロスオーバーインストの「Flame」は、些かの時代錯誤ではありますが、それもこれもオーラスの「Watch'em Tell A Lie」で全て帳消しです。

この、甘く妖しい男女語りから始まる不倫パラードの隠れ名曲は、歌詞の中身を知るにつけ、意図的に優柔不断と熱い恋愛感情を表現するボール・バターフィールドの歌い回し、それを彩るデイヴィッド・サンボーンのアルトサックスが最高の極みで、ちょいと短いのが勿体無いほど♪♪~♪

ということで、それほど認識されていないアルバムかもしれませんが、実はAORの名品じゃなかろうか? と本気で思うほどです。

正直、ブルースロックを期待して聴いてしまえば、それは肩すかしでしょう。しかし当時のファンキーロックなグルーヴというか、物凄いファンクなノリを聞かせてくれるリズム隊の気持良さ、また全篇でかつての親分だったボール・バターフィールドを盛り立てるデイヴィッド・サンボーンの恩返し的な名演が、本当に熱く胸に迫ってきますよ。

しかし残念ながら、ボール・バターフィールドの以後の活動はフェードアウト気味……。発掘作品も含めた幾つかのリーダー盤も無視状態でしたし、ザ・バンドの解散イベント「ラストワルツ」に顔を出したのがウケた以外は……。

そして1987年には悪いクスリが原因で、享年44歳、ついに天国へと召されていきました。

今となっては、そんな状況を知るにつれ、このアルバムの出来栄えが奇蹟とさえ思えるほどです。現在はCD化もされているようですから、機会があれば、ぜひともお楽しみいただきたい1枚です。

特にデイヴィッド・サンボーンのファンの皆様ならば、言うまでもありませんよね。

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