■One Step Beyond / Jackie McLean (Blue Note)
仕事地獄に落ちこんで東西南北、とにかく引っ張り回されている日々なんで、こういう時こそ、スカッとして、ちょいと過激な、ストレス発散のジャズを聴きたくなります。
で、本日ご紹介の1枚はご存じ、青春の情熱の代表格とも言うべきジャッキー・マクリーンが、従来のハートパップから更に突出して新しい道へと向かい始めた記念碑的な名盤♪♪~♪
録音は1963年4月30日、メンバーはジャッキー・マクリーン(as) 以下、グラチャン・モンカー三世(tb)、ボビー・ハッチャーソン(vib)、エディ・カーン(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という、これ以降のモダンジャズをリードしていった凄い面々ですが、この時点では無名の新進気鋭揃い! 特にトニー・ウィリアムスは弱冠17歳だっんですねぇ!?!
A-1 Saturday And Sunday
ジャッキー・マクリーンのオリジナルで、幾分、陰険な曲調のテーマメロディが不穏な空気を醸し出しますが、アドリブパートは痛快なアップテンポのモード系ハードバップ! その原動力は、もちろん当時の常識から逸脱したドラミングを披露するトニー・ウィリアムス、さらにどっしり構えてエグイばかりのウォーキングで突っ込んでくるエディ・カーンというリズム隊です。
そしてジャッキー・マクリーンのギスギスして荒っぽいアルトサックスが、それこそ好き勝手に激ヤバのフレーズばっかりを吹きまくれば、呼応して暴れるトニー・ウィリアムスのドラムスに耳を奪われてしまうのです。
また続くグラチャン・モンカーのアドリブパートでも、その傾向が尚更に強くなり、ピアノレス編成ということでコードの束縛から離れている所為でしょうか、相当にフリー色も濃くなりますが、ボビー・ハッチャーソンのヴァイブラフォンが要所で助け舟的なハーモニーを入れてくるのがシブイところ♪♪~♪
ですからアドリブパートに移っても、全く独自の感覚とスピード感が冴えわたり、過激なベースとドラムスを逆にリードしていくかのような斬新さが、たまりません。
しかし、こうなるとトニー・ウィリアムスも若気の至りとは決して言えない、本当に物凄いドラムソロ! 銃後の守りというか、背後で要所を締めるエディ・カーンのペースも、全く良い感じです。
あぁ、これぞ新しいモダンジャズだったんでしょうねぇ~♪
全盛時代のジャズ喫茶でも、このアルバムが鳴り始めると店内の空気が、一瞬にして「ジャズを聴いている」という充実した気分に満たされていったものです。
A-2 Frankenstein
グラチャン・モンカーが書いたマイナーメロディの不思議な曲調が、変則的なワルツビートで演じられていますから、これは怪しい!
と言うよりも、一抹の分からなさと激しいビートに煽られた各人のアドリブが、そんな混濁から懸命に逃れんとする「あがき」として、実に最高なんですねぇ~♪
例えばジャッキー・マクリーンはエキセントリックでハイキーな「音」をキメに使っていますし、グラチャン・モンカーのトロンボーンは十八番の爆裂フレーズを積み重ね、ボビー・ハッチャーソンも短いのが勿体無いかぎりの最高峰アドリブを聞かせてくれます。
そしてもちろん、トニー・ウィリアムスが全篇でビシバシにキメまくりのドラミング! その全く新しい4ビートとリズム感は、とても17歳とは思えないほどですが、いえいえ、これが若さゆえの特権だと思います。実に凄い!
B-1 Blues Rondo
アップテンポのブルースがロンド形式で演じられるテーマは曲タイトルどおりという、このアルバムの中では一番に聴き易い、従来型のハードバップなんですが、このメンツですからタダでは済みません。
特にジャッキー・マクリーンのハッスルぶりは気恥ずかしくなるほどです。十八番のマイナーフレーズとアグレッシプな音使いは、この時期ならではの魅力でしょうねぇ~♪ これには終始、アップテンポのビートを送り出しているトニー・ウィリアムスも油断は禁物という感じです。
B-2 Ghost Town
オーラスは再びグラチャン・モンカーのオリジナルで、如何にもという幻想的なムードの中で、過激なモダンジャズ最前線が演じられていきます。とにかく緩いビートの中で自在に浮遊し、それでいて暗黙の了解を守ったメンバー各人の名演が堪能出来ますよ。
まずテーマアンサンブルの構成からして秀逸の極み!
そしてアドリブパートでは、先発のジャッキー・マクリーンが熱いエモーションを丸出しにした過激節を存分に披露すれば、続くグラチャン・モンカーが作者の強みを活かした伸縮自在の大名演♪♪~♪ 上手くテンポを変化させていくところは、同時期のマイルス・デイビスのバンドでも試みられ始めた手法ですが、そのキーマンが、どちらもトニー・ウィリアムスだったというのが意味深です。
ご存じのように、この若き天才ドラマーは、このセッション直後に、そのマイルス・デイビスに引き抜かれていくわけですが、ここで既にスタイルは固まりつつあったということなんでしょうか? この曲だけでなく、アルバム全体の成功の要因は、トニー・ウィリアムスの参加にあったといって過言では無いと思うほどです。
それはボビー・ハッチャーソンのアドリブパートでも同様に素晴らしく、相当に饒舌なフレーズ構成がイヤミになっていないのも流石です。エディ・カーンの意地悪なペースワークも必要十分な凄みが、これまた最高!
ということで、これもガイド本では載ることの多い傑作盤なんですが、実はジャッキー・マクリーンという人気者のアルバムですから、それほどは売れていないかもしれません。何故ならば、これは大きな音量で聴くのが望ましく、それゆえジャズ喫茶の人気盤に成り得たのが真実ではないでしょうか。
和みなんて、無用の長物なんですよ、このセッションでは!?!
それは参加メンバーが当時のジャッキー・マクリーンのバンドレギュラーとして、実際にライプの現場で活動していたからに他なりません。そういうヤル気や意気込みが、アルバム全体からムンムンするほど立ち昇ってきます。
そして、こういう作品を聴けるようになったサイケおやじは、もしかしたら、ジャズモードへと回帰する兆しがあるのかもしれません。