■The Notoriors Byrd Brothers / The Byrds (Columbia)
ジャケットから一目瞭然、ついに3人になってしまったバーズが1968年に出したサイケデリックポップスの名盤です。
もちろんサイケおやじは1970年代になっての後追い鑑賞だったんですが、実はリアルタイムで大好きだったバーズにしても、1968年当時の我国では全く一般的な人気を失っていましたし、本国アメリカでも深刻な売り上げ不振やグループ内部のゴタゴタから、所謂ロックバンドとしては崩壊していたのが現実だったようです。
つまり前作「昨日よりも若く」を出した頃からデイヴィッド・クロスビーとロジャー・マッギンの対立が深刻化、またクリス・ヒルマンの台頭からグループとしての方向性が定まらなくなり、売れセンを求めるレコード会社と独自の最先端路線をやりたいバンド側の意向もズレが甚だしく……。
結局、1967年夏から開始された新作レコーディングの途中にデイヴィッド・クロスビーはバンドを離れ、実質的に演奏に参加していなかったマイケル・クラークも秋頃には辞めてしまったことから、このアルバムが出た時のバーズは名前だけの存在になっていたと言われています。
しかし実際に出来上がったアルバムは全盛期サイケデリックロックをバーズ流儀に徹底解釈したポップフィーリング溢れる1枚として、バーズの歴史を鑑みれば異色の作品かもしれませんが、なかなか素敵な味わいが顕著です。
A-1 Artificial Energy
A-2 Goin' Back
A-3 Natural Harmony
A-4 Draft Morning
A-5 Wasn't Born To Follow
A-6 Get To You
B-1 Change Is Now
B-2 Old John Robertson
B-3 Tribal Gathering
B-4 Dolphin's Smil
B-5 Space Odyssey
既に述べたように上記収録演目は、もはや以前のバーズに拘っていたら違和感満点の演奏ばかりでしょう。
まずはいきなりノーザンピートとブラスが導入された「Artificial Energy」は、バーズを特徴づける、あの気だるいコーラスワークに彩られてはいるんですが、サイケおやじは蠢いて躍動的なエレキベースだけに耳を奪われます。
またサイケデリックロックな「Natural Harmony」や場面転換的な「Dolphin's Smil」は、SEや凝り過ぎのサウンド作りが鬱陶しくさえ思えるほどです。
しかし職業作家時代のキャロル・キングが提供した「Goin' Back」と「Wasn't Born To Follow」は、バーズ本来の持ち味であるソフトなハーモニーワークと後のカントリーロック路線を想わせる絶妙のフィーリングが見事に一体化した、実に気持の良い仕上がりで嬉しくなりますねぇ~♪ 特に「Goin' Back」は思わせぶりなストリングの使用もジャストミートで、キメのコーラスパートは一緒にハミングしたくなりますよ♪♪~♪
しかし、こうした外部の職業作家を起用すること大反対だったのがデイヴィッド・クロスビーで、なんとその所為で完成していた自作の名曲名唱を外されたことから、バンドを辞めることになったのは、今や伝説!?
う~ん、確かに後年になって発掘された同時期のデイヴィッド・クロスビーの作品を聴いてみると、例えば「Triad」という素晴らしい歌があったのですから、さもありなん……。
ちなみにセッションを通しての演奏にはジム・ゴードン(ds)、レッド・ローズ(stl-g)、後にバーズに加入するクラレンス・ホワイト(g) 等々、当時のハリウッドでは超一流の助っ人が裏方を務めていることは定説ですから、サウンド作りも必然的に緻密で計算されたものになっているのですが、それゆえに同じサイケデリックな色合いをやっても、以前の「霧の五次元」や「昨日よりも若く」のようなイケイケの姿勢が感じられません。
つまりロックのひとつの本質である荒々しさが失われ、どこかシューガーコーティングされたポップス系の耳ざわりが面白くないのです。
しかし冒頭に書いたように、サイケデリックポップスのアルバムとしては一級品だと思います。
それはアルバム全体、またLP片面毎の流れの素晴らしさで立派に証明されるところですし、こうした構成を練り上げたのは前作「昨日よりも若く」から参画したプロデューサーのゲイリー・アッシャーの手腕なのでしょう。
ちなみにゲイリー・アッシャーは、それ以前にバーズを担当していたテリー・メルチャーと同じく、ハリウッド芸能界では自らのプロジェクトも含めて、サーフィンサウンド系のヒット曲を幾つも制作していた実績があり、公式デビュー前のバーズのデモテープ作りに関わった因縁もあるんですが、後に知ったところでは、現在のソフトロックブームでは決定的な存在感を示しているサジタリアスなんていう架空のコーラスグループにも携わっていたことからして、バーズのような特徴的なハーモニーワークをウリにしたロックバンドは絶好のネタだったのかもしれません。
もちろんそれは商業主義をベースにしていることが当然とはいえ、前述のサジタリアスにしてもリアルタイムでは全く売れず、またこのアルバムにしても、シングルカットした「Goin' Back」も含めて、決してセールス的に成功したものではありません。
むしろ今となってのバーズはフォークロックの先駆者であり、またこのアルバムを出してかは、後のカントリーロック路線の開拓者という位置付けばかりが定着していますから、非常に完成度の高いアルバムであることはバーズのファンならば誰しも認めていながら、実は宙ぶらりんな存在に……。
しかしメンバーのヤル気は決して薄れていたわけではなく、ロジャー・マッギンとクリス・ヒルマンの共作による「Get To You」は、ワルツタイムを使ったカントリータッチのソフトロックとして永遠のスタンダードになると思いますし、サイモン&ガーファンクルみたいな「Old John Robertson」もご愛嬌♪♪~♪
そしてそんな甘々のムードにピリッとスパイスを効かせているのが、数少ないデイヴィッド・クロスビーの参加曲「Draft Morning」と「Tribal Gathering」でしょう。その幅広い音楽性の結晶としか言えない仕上がりは、後のCSN&Yをも超越しそうな勢いが確かにあります。
さらに「Change Is Now」では正統派フォークロックが、カントリーロックを経てプログレかロックジャズへと進化していくような展開が怖く、またオーラスの「Space Odyssey」に至っては、明らかに映画「2001年宇宙の旅」というよりも、その原作となったアーサー・クラークの短編小説からインスピレーションをパクッたというか、おそらくはトリビュートなんでしょうが、とにかく月面に存在するという、あの物体を歌うことから作られた至福のサイケデリックサウンドが、なかなか好ましいのです♪♪~♪
もちろん、ここに聴かれる音楽は最も「らしく」ないバーズであって、特徴的なコーラス&ハーモニーが無かったら、どこかの企画覆面グループによる作り物アルバムの傑作という扱いになっても、不思議は無いと思います。
それほど、この「The Notoriors Byrd Brothers」は高品質なんですねぇ~♪
後は、これを好きになれるか、否か!?
ズバリ、サイケおやじにとっては難問ですが、答えはその日の気分によるってことです。
例えば昨今の煮え切らない空模様、世情や仕事が縺れてくると、何故か朝から、このアルバムが聴きたくなるんですよねぇ~、私は。
つまり非常に理路整然とした作りが心地良いんですよっ!
ロックとしてのストレートにブッ飛んだところはイマイチかもしれませんが、じっくりと構成されたサイケデリックの様式美のひとつとして楽しむことは、例えそれが人工甘味料の使いすぎだったとしても、決して罪悪ではありません。
もっと大勢の皆様に聴いていただきたい、これぞっ、バーズ的裏名盤だと思います。