■わすれたいのに / モコ・ビーバー・オリーブ (東芝)
今はどうだか知りませんが、昭和50年代頃までの我国では、ラジオというメディアが強い影響力を持っていました。それは所謂「ながら聞き」出来る環境のリスナーをターゲットにした、それぞれの番組が人気を集めていたと同時に、ブームにさえなっていた深夜放送の存在も大きなものだったのです。
そこには各局所属のアナウンサーばかりではなく、俳優や歌手やタレント、さらには声優までも含めた人気DJの存在がポイントになっています。
本日ご紹介のモコ・ビーバー・オリーブという女性トリオも、当時のラジオ番組「ザ・バンチ・バンチ・バンチ(ニッポン放送)」に出演していた魅力的なお姉様♪♪~♪
この番組が何時からスタートしたかはちょいと定かでは無いのですが、サイケおやじが初めて聴いたのは昭和43(1968)年の夏で、日曜日を除く毎日深夜、だいたい15分位の放送でした。
そして内容は彼女達のお洒落なフィーリングがいっぱいのおしゃべり、リスナーから寄せられた悩み相談、時にはセクシーな演出もあったりしましたから、既にお姉さん系が大好きだった十代のサイケおやじには、毎日の楽しみのひとつになっていましたですね♪♪~♪
また番組内で流れる音楽も最新ヒット曲はもちろん、オールディズポップスから粋なイージーリスニングジャズ、あるいは映画サントラ音源や華麗なダンスミュージック等々、実に素晴らしい選曲になっていました。
ちなみに番組名からもご推察のとおり、このプログラムは当時の若者向け週刊誌「平凡パンチ」がスポンサーだったこともあり、そういうタイアップの中で、彼女達のプロフィールも知ることになったのです。
それはモコ=高橋基子、ビーバー=川口まさみ、オリーブ=シリア・ポールというのが本名で、掲載したジャケ写では左側がビーバー、真ん中がオリーブ、後ろがモコです。まあ、正直に言えばルックスはイマイチでしょう。しかしファッションセンスは如何にも昭和40年代前半=1960年代後半の彩りが素晴らしいと思います。
しかもそうした視覚的なイメージが、不思議とラジオ放送からも感じられたんですよねぇ~♪
そして彼女達がついにレコードデビュー!
それが昭和44(1969)年春に発売された、この「わすれたいのに」なんですが、驚いたことには当時既に時代遅れとされていた和製カパーポップス、つまり日本語の歌詞をつけた洋楽カバーだったんですよっ!?!
オリジナルタイトルは「I Love Hou You Love Me」で、モコ・ビーバー・オリーブと同じ女性トリオのパリス・シスターズが1961年に放った大ヒットだったことに加え、確かこの当時、リバイバルヒットしていたような記憶もあるので、ここに選曲されたんじゃないでしょうか?
ちなみに後に知ったことではありますが、このレコードをプロデュースしたのは、我国の洋楽ファンなら知らぬ人もいないはずの朝妻一郎でしたから、さもありなん!
チェンバロによる厳かなイントロからフォークロック的なギターやストリングスの響き、そして泣きの曲メロと日本語詞のせつない世界が、スローで夢見るような展開で繰り広げられ、途中の甘くて胸キュンの台詞にも青春の香りがいっぱいです。
おそらくリードを歌っているのはオリーブ=シリア・ポールでしょうが、モコとビーバーの淡いコーラスワークも、バックの演奏パートと上手く溶け込んで良い感じ♪♪~♪ 絶妙のアクセントをつけるタンバリンも効果的だと思います。
こうしてマニアックでありながら、実は大衆心理にも精通した朝妻一郎の目論見どおり、局地的ではありますが、見事にヒットしたのは言わずもがな、ますますモコ・ビーバー・オリーブの人気は高まり、続けて同じ趣向で日本語詞が付けられたカパーポップス物のシングル盤やアルバムを出すことなりました。
ご存じのように、ビーバーことシリア・ポールは、後に大滝詠一のプロデュースによって再デビューするわけですが、その出発点がここにあったというわけです。
ということで、そのあたりが気になる皆様には、ぜひともお楽しみいただきたい歌なんですが、実は彼女達のレコードを入手するのは現在、なかなか容易ではありません。なにしろヒットしたと言っても、それは局地的……。つまりはラジオの深夜放送の世界ですし、それも特定のラジオ局で誕生したグループでしたからねぇ。
そしてこういうレコードをゲットする購買層は、よほどのことが無い限り、コレクションを手放そうとしない人種が、サイケおやじも含めて、相当数存在するはずです。
告白すればサイケおやじにしても、実はモコ・ビーバー・オリーブ名義のレコードは、このシングル盤しか持っておらず、前述したカパーホップスが満載という、唯一のアルバムも長年探索しつつ、未だ入手が叶っていません。
ちなみにCDは、かなり以前ですが、発売されていました。
でも、ど~しても買う気になれなかったのは、やっぱり彼女達にはアナログ盤が似合うというか、せつない温もりを感じさせる歌とおしゃれな感覚は、無機質なCDでは物足りないと思う、実に我儘なサイケおやじをお許し下さいませ。