■Fragile / Yes (Atlantic)
所謂プログレの定義は十人十色でしょうが、それはロックジャズの様式美化というのが、サイケおやじの思うところです。
そして本日のご紹介は、言わずと知れた、その分野の決定的な名盤アルバムなんですが、しかしこれが出た当時の衝撃度は、保守的なサイケおやじにとっては、違和感以外の何物でもありませんでした。
まず「こわれもの」という邦題が画期的(?)でしたし、それだけで触れてはならない繊細な世界を連想させられ、加えてジャケットのイラストがファンタジーSFの世界でしたからねぇ……。
しかし同時に、サイケおやじは既にイエスが大好きでしたから、そのデビューアルバムから、セカンド&サードと聴き進めて来た結果として、必然的に辿りつかなければならない、ある種の強迫観念に支配されていました。
さらに発売前から、洋楽マスコミではイエスのメンパーチェンジと新作アルバムについて、かなり前向きな報道がありましたし、例え未だ日本では人気が確定していなかったイエスにしても、そういうマニアックな部分を気にせざるをえないファンがサイケおやじを含めて、相当数存在していたと思います。
そしてこのアルバム制作時のメンバーはジョン・アンダーソン(vo,per)、スティーヴ・ハウ(g,vo)、クリス・スクワイア(b,vo)、ビル・ブラッフォード(ds,per,vib)、そしてトニー・ケイに代わり、いよいよリック・ウェィクマン(key) が新参加した黄金期の顔ぶれですから、結果的に凄い演奏が出来上がったのも当然だったのです。
A-1 Roundabout
A-2 Cans And Brahms
A-3 We Have Haven
A-4 South Side Of The Sky / 南の空
B-1 Five Pre For Nothing / 無益の5%
B-2 Long Distance Ronaround / 遥かなる想い出
B-3 The Fish
B-4 Mood For The Day
B-5 Heart Of The Sunrise / 燃える朝焼け
まずA面ド頭の「Roundabout」は、今に至るもイエスを代表する名曲名演なんですが、ここで聴かれる躍動的なリズムと複雑なリフの完璧なコンビネーションこそ、プログレの優良なサンプルとして歴史に残るものでしょう。
もちろん覚え易いメインの曲メロは言わずもがな、思わせぶりなイントロのアコースティックギターソロから目眩がしそうなペースのリフ、さらにビシバシのドラムスとイノセントな熱血を聞かせるボーカル&コーラス、そして千変万化の彩りを提供するキーボード♪♪~♪ しかも随所に仕掛けられた壮絶なキメとアドリブ(?)の応酬には、何度聴いてもゾクゾクさせられますよ。
しかしサイケおやじは、このアルバムバージョン以前に、短く編集されたシングルバージョンに親しんでいたので、ある意味で大仰な仕上がりには最初、馴染めなかったのが本当のところです。
実はイエスの楽曲は前作のサードアルバムにおいて、既成のロックジャズから脱した方向性を打ち出し、例えばテーマ~アドリブ~テーマで終わるのが通常の展開だとしたら、イエスは短い曲の断片を幾つか用意し、それを複雑なリズムパターンやカッコ良いリフで繋ぎ合わせるというモザイク方式でしょう。
こうした作り方はポール・マッカートニーの得意技でもありますが、イエスが凄いのは、スタジオレコーディングでは当然のようにテープ編集を用いていながら、ライプの現場できっちりとそれを再現してしまう事!
ですから、レコードで聴かれる歌と演奏にしても、単なる曲メロの集約やテープの切り貼りでは無く、複雑な構成が極めて自然な流れで聴けますし、それがメンバーの卓越したテクニックと音楽性に支えられているところが、プログレのプログレたる証明として、絶大な支持を集めたというわけです。
そして気がついてみれば、シングルバージョンが大好きなサイケおやじも、やっぱりアルバムバージョンにおける構成美とスリルに酔わされてしまいます。
こうした方向性は、このアルバムで確立されたイエス独自の世界として、如何にものSEを使った「南の空」ではハードロックとロックジャズが巧みに融合され、しかも中間部にはリック・ウェイクマンのピアノソロを聞かせるパートも用意するという、実に憎たらしい事をやらかしていますが、憎めません。もちろん鉄壁なバンドアンサンブルは微動だにせず、ジャズっぽくビシバシに暴れるドラムスと凝ったコーラスワークの対比の妙、さらにロックジャズがど真ん中のエレキギターは素晴らしいですよ♪♪~♪
しかしオーラスに置かれた長尺の「燃える朝焼け」は問題でしょうねぇ~。
何故ならば、これを聴いた多くの人は、絶対にキング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」か、あるいは同グループの関連諸作を想起せずにはいられないからです。メロトロンの使い方はもちろん、ベースやドラムスのビートの組み立て、キメのリフやギターの存在感が、モロとしか言えませんよっ!?!
う~ん、もしかしたらグレッグ・レイクはこの演奏を聴いたがゆえに、ELPで「恐怖の頭脳改革」を作り上げたような推察も無理からんと思いますし、ビル・ブラッフォードが後にキング・クリムゾンに移籍してしまうのも、充分に理解出来るんじゃないでしょうか……。
しかし、このアルバムが上手く出来ているのは、そうした複雑な内情を含んだ名曲名演の間に、メンバー各自のソロ作品とも言うべきトラックが配置されていることでしょう。
中でもテンションの高い「Roundabout」が終わった余韻の中で鳴り響く「Cans And Brahms」は、ブラームスの交響曲第4番ホ短調第3楽章をリック・ウェイクマンが様々なキーボードを重ねて変奏した和みの仕上がりで、誰もが一度は耳にしたであろうメロディが流れ出た瞬間の至福は、何度聴いてもたまりません♪♪~♪
また短いながらも強烈な16ビートで演じられる「無益の5%」は、ビル・ブラッフォードの超絶ドラミングとクリス・スクワイアのエッジ鋭いベースが対決するという構図の中に、次なる目論見が隠されているようです。
それはバンドが一丸となって強烈な展開を披露する「遥かなる想い出」で、ジンワリと染みこんでくるビートルズ風味、流麗にしてジャジーなギター、エグミ満点にドライブするベース、自分の役割を完全に把握しているドラムス、さらに隙間を埋めつつ絶妙の彩りを添えるキーボードをバックに、ジョン・アンダーソンの透明感あふれるボーカルが力強く歌っているという、これもまた今日まで、イエスのライプ演目としては外せない人気の快演♪♪~♪ しかも前曲「無益の5%」で提示されたリズム的な躍動感が、しっかりと継承されているという用意周到さは、この5人によるグループの持ち味だと思います。
そこで新たな気持でジョン・アンダーソンがメインの「We Have Haven」を聴いてみると、メロディのビートルズっぽさは言わずもがな、オーバーダビングを駆使して作り上げられたボーカル&コーラスの不思議な心地良さは絶品! そして最後のSEがアルバムの思わぬ場所で登場するあたりの仕掛けも、聴いてのお楽しみです。
ということで、全くソツの無い作品集のようですが、実は「The Fish」の焦点の定まらなさは???ですし、スティーヴ・ハウがクラシック&スパニッシュなギターソロを演じた「Mood For The Day」にしても、単なる息抜き以上の効果は感じられないような……。
お叱りを覚悟で書かせていただければ、かろうじてアルバムの流れの中で自己主張出来るだけのトラックでしょう。逆に言えば、緊張感優先でハードな演奏ばかりの中で、潤滑油のような働きがあるのかも……。
ですから、保守的なサイケおやじは、聴き慣れるのに相当の時間が必要だったアルバムです。そしてリアルタイムのイエス体験としては、この「こわれもの」が限界でしたねぇ……。
つまり次に出た「危機 / Close To The Edge」がイエスというよりはプログレ、あるいはロックの決定的な至高の名盤とされる理由が、未だに理解出来ていないのが本音です。
しかし、そのあたりをライプ音源で聴くと、これが実にサイケおやじを感動させるのですから、タチが悪いですよ……。告白すれば、例のアナログ盤3枚組LP「イエスソングス」を聴いてから、「こわれもの」が好きになり、「危機」にしても何んとか理解しようと苦行の鑑賞を続けられるわけですが、やはり根底にはイエスが好きだという愛の告白があります。
なにしろ今でも、イエスの新譜や発掘音源、ブートが出ると、聴かずにはいられないんですよ。
本当に我ながら、笑ってしまいますが、まあ、楽しいことを作っていくのが人生というサイケおやじの本分からすれば、自分で納得するばかりです。